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それは、甘い
28
「と言うわけで、お金のお勉強をしましょう。」
洗濯物も干し終わり、弁と慶次さんにお風呂掃除も教えたところで。
小十郎さんを呼んでテーブルを陣取ると、周りには興味深げに武将ズが揃った。
「子供達はお庭で遊んでてもいいんだよ?」
「いいから我にこの世界の金子のことを教えよ。」
「はいはい。えぇと…」
膝の上に置いたお財布を開けてみれば、あるじゃない。
全種類の硬貨やお札が。
まずは全ての種類をテーブルの上に並べる。
「これがここで使われているお金です。ここでは物々交換じゃなくて、お金で売買をするんです。」
「俺達の世界もそうだ。」
「あ、よかったです。それなら、お金のありがたみも分かっていますね?」
「ああ。」
「たぶん、そちらの世界よりもお金に関してはシビアだと思うんです。お金を持ってないと何もできませんから、大切にしてくださいね。」
「しびあ…」
「厳しい…でいいのかな、ここはお金がない人は生き辛い世の中です。この家だって借り物なので毎月賃料を払っていますし、水も電気もガスも使った分だけ毎月払います。」
「水もか!?」
「そうなんです。安全な水をいつでもどこでも飲める代わりに、水を管理しているところへ払うんです。管理するのもお金がかかりますから。」
「…息苦しいねえ。俺には合わないよ。」
「そうだね。もう少し大らかでもいいかなって思う時もあるけど、基準がなきゃ困るし大切だと思うよ。因みに、単位は『円』だからね。」
苦笑している慶次さんに説明すると、ちょっと神妙そうに頷いた。
「硬貨の形を変えたり、お札を破ったりすると、当然ですが使えなくなります。落書きしたら罪になりますので、気をつけてください。」
「その ような こと、 いたしませぬ。」
「うん。よろしくね、弁。こっちでは、10集まったら次の位へ上がるという計算方式を使っています。例えば、この1円玉が10枚集まったら隣にある10円玉と同じ価値になるんです。」
自分が当たり前に使っていることを説明するって難しい。
実物を使いながらでも、言葉に詰まってしまう時がある。
「同じく、10円玉が10枚集まったら隣の100円玉と同じ価値です。100円玉が10枚集まったら、隣の1000円札と同じ価値になります。」
「上に置いてあるのは種類が違うのか?」
「それは5円玉、50円玉、500円玉、5000円札だよ。1円玉が5枚集まれば5円玉と同じ価値…」
「50円玉は10円玉が5枚、500円玉は100円玉が5枚、5000円札は1000円札が5枚と同じってことかな〜?」
「その通りです、猿飛さん。」
思い思いにお金を手に取る武将ズが、何でも興味を持つ赤ちゃんや小さい子に見えてならない。
可愛いけど、舐めたりしないでね。
「数字を使って表わすことが多いので、覚えておくと便利だと思います。時計を見れば分かりますか?」
朝、漢字を書いたシールを数字の横に貼ったのでたぶん大丈夫。
あとは慣れるしかない。
「今日は食材を買いに行く予定なので、そこで実際に使ってみましょう。」
「おっ、楽しみだねえ。」
「何人かには言ってありますが、明日から私は日中いなくなります。冷蔵庫で食材を長持ちさせられると言っても限度がありますので、たぶん買い物へ行く日が出てくると思います。だから、覚えるつもりでいてくださいね。」
「どうしていなくなるんだ?」
「え?あぁ、仕事ですよ。お金を稼ぐためには仕事をしなくちゃ。」
「女なのにか?」
「この世界では、男女ともに働いている人の方が圧倒的に多いです。結婚してからも働きたい女の人はしていますよ。」
「…信じられねえ。女は城や屋敷の差配をするもんだろ?」
「もちろん、そういう人もいますけど。小十郎さん達のところだって、農民は女の人でも田畑へ行くし、商人は市に出ていませんか?大原女、でしたっけ?お城勤めの女の人だっているでしょうし。小十郎さんのお姉さんだってお城で働いていますよね?確か、梵天君の乳母だったような気が…」
「ふえきだ。こわいぞ。」
「…怖いんだ。」
「なあ、小十郎?」
「…」
小十郎さんが黙って視線を明後日の方向へ逸らす。
うん、それ完璧に肯定してるよね。
小十郎さんのお姉さん、喜多さんは史実通りの人なんだ。
「…まぁ、私はしがない一般人なので働かないと生きていけないんですよ。みなさんの世界ですと、そうだなぁ…城下町のお店で働いている奉公人と考えてくれれば、大体あっていると思います。」
ふふっ、初めて会った日にお姫様と勘違いされたっけ。
ごめんね、庶民で。
ホント、何で私のところに来てしまったんだか。
どうせならお金持ちのところとか、広い家のところとかの方が暮らしやすかっただろうに。
「夜にもう1回話しますね。私がいない時の日中の過ごし方とかも併せて。」
お金をお財布にしまいつつ時計を見ると、だいぶいい時間。
そろそろ買い物へ行こうかしら。
「因みに、夕飯は何を食べたいですか?今日は私が作ります。」
「あっ!それなら俺、こっちのもん食ってみたい!」
「こっちの?」
「あー、何て言ったっけ…俺達が食べたことのないやつで、まりちゃんがいつも食ってるやつ。」
「えぇと、洋食?南蛮の食事のこと?」
「そう、それ!」
「って慶次さんが言ってますけど、他の人はどうですか?」
意見を聞こうと顔を見れば、あれ?
何か興味を持ってる感じ?
「…じゃあ、夕飯は洋食と言う事で。先に言っておきますけど、期待しないでくださいね。一般家庭のよくある食事しか作れませんからね!」
「それを食ってみたいんだよ。」
キラキラと輝く慶次さんの瞳が、期待している姿そのものなんだって。
どんなのを想像しているか分からないけど、大したものは作れないから。
「…ホント、期待はしないでね。小十郎さん、お買い物は全員で行きますか?」
「ああ、そうだな。どんなもんがあるのか見てみたい。」
「きっと知らない食材もあるんでしょうね。」
「ああ。」
「2、3日分の食材を買うつもりですから、小十郎さんも選んでください。明日からは小十郎さんが作ってくれるんでしょう?」
「ああ。知ってる食材があればいいんだが。」
「ありますよ、きっと。よろしくお願いしますね。」
「そうだな。行ってみなけりゃわからねえか。」
すっと立ち上がった小十郎さんを筆頭に。
わらわらと準備を始める武将ズの横で、自分も準備を始める。
特にお財布の中身を確認。
さて、これで足りるのかしら?
だけど…。
お料理、お洗濯、お風呂掃除。
家事の大半はお任せできそうで。
この頼る感じ。
悪くない。
あとはお掃除をどうするかだな。
2018.01.22. UP
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夢幻泡沫