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それは、甘い
29
やってきました、近所のディスカウントスーパー。
目的の食材を横目に、まずはキッチン用品のコーナーへ行く。
残念ながら、うちには一人暮らしに見合ったお鍋やフライパンしかない。
大勢の食事を一気に作るとなると、大きなものが必要になってくるはずだから。
普段は来ないコーナーだから、どこに何があるのか分からない。
ぐるりと巡り、棚の下の方に展示されていたそれをようやく見つけた。
いくつか種類がある中で、大きめのものを小十郎さんに見せる。
「このぐらいの大きさの鍋って使いますか?」
「ああ、そうだな。まりが持っている鍋は、全員分を作るには小さい。」
やっぱりね。
朝、気づいてよかった。
「ですよね。そしたら、フライパンもあった方がいいですね?」
「ふらいぱん?」
「焼いたり炒めたりする時に使うものです。片手で使えるようになっているので、便利ですよ。」
「まりが卵焼きを作る時に使ってたものか?」
「そうです。」
「鍋だけでも充分だぞ?俺達のところにはふらいぱんとやらはないからな。全て鍋で出来る。」
「それだとお鍋が傷みやすいんですよ。それなら、深皿タイプのフライパンなんかどうです?」
そう言っていくつか手にとって渡すと、小十郎さんは案外気に入ったみたい。
見事な手首の返しを披露しつつ、大きめのものを選んだ。
「これがいい。」
「分かりました。それならお鍋みたいにも使えますから、すぐに使いこなせそうですね。」
「ああ。」
「他に調理用具で必要そうなものはありませんか?」
「…いや、問題ない。何かあったらまた調達を頼むかもしれないが。」
「はい、そうしてください。」
「ね〜、まりちゃん。」
小十郎さんと話していると、横から声を掛けられた。
そっちを見ると猿飛佐助がへらりと笑っている。
「何ですか?」
「あのさ、包丁って買い足すことできる?」
「え?」
「今朝さ〜、『包丁がないからできない』って言ってたでしょ。てことは、包丁があればいいんじゃない?俺様、右目の旦那に負けないよ〜?料理、俺様にも手伝わせてよ。」
分かりました、と言いかけてハタと気づく。
…え、なに?
猿飛佐助に包丁を握らす!?
あり得ないんですけど!
自分に危害を加えた人に凶器を渡す!?
あんたにそんなもの持たせるなんて、狂気の沙汰じゃないんだけどっ!!
「今さ〜、ぱっと確認してきたんだけど。この鍋とかと大して変わらない値段だったと思うんだよね〜。まりちゃん、明日から家にいないんでしょ?俺様と右目の旦那で留守を預かるからさ〜。ね、右目の旦那?」
「…そうだな。それでいいか、まり?」
しばらく考えた後で、小十郎さんが猿飛佐助の提案を受け入れる。
「まりどの! さすけは りょうりが うまいで ござる。」
「あは〜、お任せあれってね!」
「それがし、 まりどのにも しょくして いただきとう ござる。」
「…分かりました。包丁はどれにしますか?菜切包丁が慣れていますかね…」
不本意ながら受け入れるしかないようで。
しぶしぶ包丁のところへ行き、形を確認する。
四角い形のそれは昔からあったらしく、猿飛佐助が嬉しそうに手に取った。
それを見て、弁の顔が輝く。
「さすけ! きょうの ゆうげは だんごが よいっ!!」
「団子は食事にはならないでしょ、弁丸様。それに、今日の夕餉はまりちゃんが作ってくれるんじゃなかったっけ?」
「はっ! そうで あった!! ようしょくとやらを つくって いただけるので あったな、 まりどの!!」
「うん。お団子は別の日のおやつかな。白玉粉を買えば、猿飛さんが作ってくれそうだね。」
「それがし、 たのしみで ござるっ!」
弁はホントに素直な子。
ニコニコの顔が可愛いわ。
期待してるのが夕飯なのかおやつなのか、もうどうでもよくなってくる。
「…まな板ももう1枚あった方がいいかもしれませんね。」
必要最低限のものを確認すると、籠に入れる。
うわ、かさばるなぁ。
持ちにくくなった籠に手間取っていると、ひょいと目の前から消えた。
あれ、デジャヴ?
「だからまりちゃん、こういうのは俺が持つって。」
きょろりと確認すると、慶次さんが苦笑しながら籠を持ち上げている。
もう、アレだよね。
慶次さんは改名すればいい。
『前田・フェミニスト・慶次』って。
「ありがとう、慶次さん。」
「いいってことよ。あそこにある印のところへ行けばいいんだろ?」
「うん。¥マークがぶら下がってるところ。」
慶次さんはこのお店に入ったことがあるから、どこへ行けばいいのか分かっているみたい。
1回しか来てないのにすごいなぁ。
籠を持っている慶次さんと話しながらレジへ向かえば、女1人に男4人、子供3人。
どんな関係だと思われているのか、好奇心が含まれた視線でちらりと見られた。
まぁ、たぶんレジのお姉さんが想像しているのはだいぶかけ離れていると思うけど。
奇妙な関係であることには間違いない。
「先にサッカーのところに行ってて。」
「うん?さっかあ?」
「買ったものを袋に詰める台のところ。」
「籠を持たなくていいのかい?」
「あそこまで持ってくぐらい大丈夫だから。みんなと待ってて。」
「そうかい?」
レジが並んでいるところは狭いでしょう?
他のお客さんに迷惑だから。
そう言って、慶次さん達に邪魔にならない位置にいてもらう。
ピッピッとバーコードに商品を通しながら、レジのお姉さんがにっこりと私を見た。
「素敵な彼氏さんですね?」
「え?」
「荷物を進んで持ってくれるなんて。」
「あ、あぁ…。でも彼氏ではないですよ。」
「ええっ!?すごくお似合いだったものだから。すみません。」
「あはは…いえ…」
そうなんですか〜?とにこやかに笑うお姉さんの目はキラリと光って。
こりゃ、休憩時間のネタにされるわ…。
これからお得意さんになる予定だからあまり広めないでね、お姉さん。
とか、考えつつ。
金額を払ってサッカー台へ移る。
「こうやって、買ったものはここで袋に詰め替えます。籠のままお店の外に持ち出したら窃盗になってしまうので、気をつけてくださいね。」
「へえ〜。」
「詰め替えたら、使っていた籠はこうやって重ねて戻します。」
「それがしが もどすで ござる!」
「その荷物を持ちゃいいんだな?」
籠は弁が、袋は元親さんが。
レジのお姉さんの目がまた光って気づく。
…あぁ、またネタを提供してしまった。
2018.01.29. UP
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夢幻泡沫