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それは、甘い
04
イケメンズに包囲されなう。
すっごく疲れたから一人になりたいのに…。
「俺達をどうするつもりだ。」
ぎろりと光った瞳から視線を逸らさなかった私、えらい!
片倉さんの睨みはこの時代のやのつくお兄さん方も縮み上がりそうな迫力なんだから、私に向けないで。
「どうもしませんよ。むしろ、私の方が弱いじゃないですか。」
「だが、俺達はこの世界をよく知らん。」
「だから少なくとも慣れるまではここにいればいい、と言ったはずです。慣れてなおこの世界にいるのならば、自分で生きていけるならば、いつでもこの家を出て行ってくれて構いません。」
「んな淋しいこと言うなよ。俺はまりの家でよかったと思ってるぞ。」
…いきなり名前呼びですか。
すごいですね、戦国の武将様方は。
眼帯イケメンは長曾我部元親と名乗った。
「長曾我部さん、ありがとうございます。さっき、べんまる君に言いましたが…」
「若様の名前を気軽に呼ばないでくれる〜?」
「…失礼しました。では、猿飛佐助がいるんですから『幸村様』とでもお呼びすればいいですか?」
「アンタっ、それ…っ…」
途端に首が締まる。
息苦しさに涙が出て、だけど負けたくないから猿飛佐助を睨みあげる。
この人、ホントに世話になろうって思ってるんだろうか?
「佐助、やめろ!まりちゃん、死んじゃうよ!!」
「風来坊には関係ないでしょ。いいよ、別に。殺すつもりだから。」
「そしたらこの世界の事、誰が教えてくれるんだよ!」
「俺様はここで暮らすつもりはない!この世界の事が少しでも分かったら、弁丸様を連れてすぐにでも出てくつもりだから!!」
「…それはてめえの勝手だろう。少なくとも今の俺達では、この世界でまともに生きていけねえ。だから鈴沢も俺達をここに置いたんじゃねえか。女に助けられるとは情けねえが仕方ねえ。手を離せ、猿飛。…鈴沢も挑発するな。」
チッという舌打ちが聞こえたと思ったら、空気が一気に体内に入ってきた。
ゲホゲホとむせている私の背中を長曾我部さんがさすってくれる。
前田さんが猿飛佐助を抑えてくれていた。
「…すみませんでした。片倉さん、前田さん、長曾我部さん、ありがとうございます。さっき説明した通り、あなた方から見てここは先の…未来の時代です。そこで生きている私は、少しだけ分かっている部分もあるんです。例えば、弁丸君が元服をしたら真田幸村になるとか。梵天丸君は伊達政宗、松寿丸君は毛利元就、ですよね?あ、敬称略ですみません。」
「…ああ。」
「あなた方の関係も、ある程度なら分かります。もちろん、間違った部分もあるかもしれませんが。それを踏まえた上で、ここで暮らしていく以上お願いしたい事がいくつかあります。」
「聞こう。」
「元の世界では天下統一を目指して争っているかもしれませんが、この世界は既に覇権争いは終わっています。ですので、この世界で暮らしている間は協定?同盟?…とにかく不戦でお願いします。」
「この世界では誰が天下を統一した。」
「…答えが欲しいですか?」
「…いや、いい。」
「まぁ、紆余曲折あったんですけど。今はこの国に住んでいる人達が一人一人考え、その考えを代表する人達の集まりで政を行っています。ついでに言っておくと、誰かを殺したなんて事になると警察に捕まります。そうしたら牢に入れられて、一生外に出られなくなります。」
多少誇張しても大丈夫だと思う。
とにかく警察沙汰は勘弁してほしい。
身元がはっきりしないこの人達が捕まって、面倒な事になるのは本当にやめてほしい。
私の切羽詰まった感じが伝わってしまったのか、長曾我部さんが苦笑しながら背中をポンポンと叩いた。
「分かった。まりの言う通りにする。ここにいる間は協力し合おう。なあ、兄さん方?」
「俺もいいぜ。」
「ああ。」
「…ッチ。」
それは肯定の舌打ちと見なします、猿飛佐助。
「ありがとうございます。そしたら、武器をお預かりしたいのですが…」
…あれ?
そう言えば、見てないような…
「…あの、武器は持っていますか?刀とか槍とか?」
「それがよく分からないんだけど、気づいたらなくて。絶対に手放さないものなのにおかしいよな、ってまりちゃんが寝てる時に話してたんだ。」
「…つまり、今は誰も持っていないという事ですか?」
「うん。」
「それなら、もし手に入った時は必ず教えてください。持ったままでいますと、不法所持で警察に捕まってしまいます。」
『警察』のキーワードが案外効いてるみたい。
神妙に頷くイケメンズに私も頷き返した。
「あとは…ここってやっぱり知らないものばかりですか?」
「おう、見たこともねえもんばかりだな。」
と言いつつ、キョロキョロするのは長曾我部さん。
「気になると思いますが、私が説明したもの以外は触らないでください。怪我する恐れがありますので。」
「お、おう。」
「そのうち必要なものから一つずつ教えますので、それまでは我慢してください。」
「分かった。俺ぁ、絡繰が好きなんだ。よろしく頼むぜ。」
「絡繰…ここでは機械とかマシンとか言うんです。追々説明しますので、よろしくお願いします。」
にっと笑った長曾我部さんに気が少し楽になる。
肩の力が抜けたところで、もう一つ大事な事に気がついた。
「あと、私の部屋には入らないでください。初めに会ったあの部屋です。」
「入っちゃまずいのか?」
「まずいと言うか気まずいと言うか…。その、プライベートルームなので人に入ってほしくないんです。お互いにプライバシーは大事にしましょう?」
「ぷ、らい、べ…?ぷ、らい…?何だそれ。」
「…すみませんでした。この時代は外国の…う、んと…南蛮、異国の言葉が日常会話に入り込んでしまっていますよね。分からない言葉も随時聞いてください。プライベートもプライバシーも個人という意味で使っています。要するにあの部屋は私が大事にしている空間なので、あまり人に入られたくないという事です。」
「私室、ということか。」
「そうです。えぇと…奥座敷、で通じますか?」
「ああ。」
「よろしくお願いします。明日、残りの部屋をあなた方に振り分けます。私のものが入ってしまっているので少し狭くなってしまいますが。」
「いや、助かるぜ。あんがとよ。」
「…今後もルール、あ…規則が増えるかもしれませんが、約束さえ守っていただければ私も出来る限りの事はします。」
「よろしく頼む。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。じゃあ、明日に備えて寝ませんか?皆さんを雑魚寝させてしまって申し訳ないですが…」
「続きは明日な。」
「起きたら帰ってた、ってことになっていれば一番いいんでしょうけどね。取りあえず、カーテンの開け方は覚えましたか?」
「おう、左右に開けばいいんだろ。」
「そうです。お日様が昇ったらカーテンは開けて構いませんので。あとは私がおりてくるまで待っててください。」
頼むよ、みなさん。
一日で目も当てられない光景になってるとかやめてね。
ホント、明日になったら帰っててくれないかなぁ……
「…後で毛布を持ってきますので、寒かったら掛けて寝てください。病気になっても困りますので。では、おやすみなさい。」
イケメンズが子供達のところへ戻ったのを見届けて、電気を消す。
まだ実感がわかないけど…。
猿飛佐助はともかく、大人組は協力し合えそうだということは確かめることができた…かな。
2017.07.24. UP
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夢幻泡沫