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それは、甘い

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なんだかんだでお買い物は一応成功した。
武将ズも自分で清算できたし。
子供達なんかは、すっごい得意顔になってて可愛いったら!
これでもうお買い物は任せらせそうだな。
で、帰り道は荷物を持たせてもらえませんでした。
なんで!?
持てる、って言っても誰も渡してくれなかった。
元親さんなんか、お米10kgを肩に担いで逆の手に袋を持ってたって言うのに。
小十郎さんなんか、袋を3つも持ってたって言うのに。
え、なに?
任せられないってこと?
信用ならないってこと?
若干ふてくされて家に帰り、冷蔵庫の使い方を説明しつつ食材をしまった。
うちのは一般家庭で使う大きさなんだけど、さすがにこの人数分だとギッチギチ。
一人暮らしでも大きいの使っててよかった…。
それからお風呂の準備を弁達に頼んで、順番に入ってもらう。
その間に夕飯を作ったんだけど…。

「お待たせしました。さぁ、どうぞ。」
「…」

…ねぇ。
何で誰も手をつけようとしないの!?
頑張って作ったのに!
ハンバーグって何気に手間がかかるんだよ!
ソースだって3種類も用意したんだよ!!
そもそも食べたいって言ったのは武将ズじゃんっ!!

「…食べないんですか?」
「…なあ、まりちゃん。俺達、気付かない間にまりちゃんのこと怒らせちゃった?」
「は?何で?」
「…これ、土の塊だよね?」
「えっ!?」

土って!
仮に怒ったとしてもそんなもの出さないよっ!!
唖然とした顔で慶次さんを見てると、隣に座っている弁がくいっと服の裾を引っ張った。

「…まりどの。 これは まことに つちの かたまりなので ござるか? それがし、 まりどのが そのような ことを する おかたとは おもえませぬ ゆえ…」
「違うよ。これはハンバーグって言って、お肉料理。洋食の代表的なものなんだけどな。」
「にく? …ししで ござるか?」
「しし…あ、猪?違う違う、これは牛と豚の合挽だよ。」
「牛っ!?牛なんか食うのか!?角が生えちまうだろっ!!」
「…元親さん…そんな迷信、信じてるの?じゃあ、猪を食べたら牙が生えるわけ?兎を食べたら、耳が長くなる?そんな人、見たことある?」
「っ、いやっ…」
「鴨でも鶏でも、鳥を食べたら羽が生えるの?」
「…そんなことはねえだろ…」
「それなら、牛だって同じだと思わない?もひとつ言うと、私は小さい頃から牛も豚も食べてるよ。角が生えてる?牙が生えてる?」

あぁ、ビックリ。
そんなこと、戦国時代から言われてたの?

「狩りで獲ったのはよくて、家畜はダメなんて変だよ。同じ動物なのに。」
「…」
「とにかく、もう命を頂戴しているんだから。感謝していただきましょう。」

両手を合わせ、いただきますと食前の挨拶。
誰も重ねてこなかったけど気にしない。
嫌だったら食べなきゃいいだもん。
まぁ、そんなことになったらもう作らないけどね。
大根おろしと刻み大葉をハンバーグの上に乗せ、和風だれをかける。
大根おろしは、今朝梵天君に作ってもらったものの残り。
ちゃんと活用するんだから。
作るのはめんどくさいんだけど、ハンバーグは好き。
お昼がない分、お腹も空いている。
止まることなくパクついていると、誰だか知らないが喉の鳴る音がした。

「…それがし、 いただくで ござる。」
「待って、弁丸様!俺様が毒見するから!」

…毒見、ねぇ。
ホント、猿飛佐助はムカつく。
ハンバーグを箸で一口サイズに分けると、くんくんと匂いを嗅いだ後で意を決したように口の中に入れるのが視界の端に見えた。
そんなに警戒しなくてもいいじゃん。
あんたは作る工程を見てたでしょ!
目だけで武将ズを見ると、みんな猿飛佐助に釘付けじゃない。
戦国武将って大概失礼なものなのかしら。

「…おいしい。」
「…」
「まりちゃん、何これ。おいしいんだけど!」
「…そうですか。よかったです。」
「弁丸様も食べてごらんよ!猪肉と違って噛み切りやすいし、臭みもないし、なんか味が立ってるし。うわっ、これいいかも!」

猿飛佐助の言葉に、みんなが一斉に箸を取る。

「…おお、 おいしゅう ござる!」
「でしょ、でしょっ!まりちゃん、このたれってやつをつけて食べてもいいんでしょ!?」
「はい、どうぞ。」
「これが南蛮の味…小十郎、しっかり覚えろ。」
「はっ。」
「城に帰ったらお前が作るんだぞ。」
「さすけ! おぬしも おぼえておくで ござる!!」
「はいよ〜。まりちゃん、後で作り方教えてね。」
「まり、俺にも頼む。」
「分かりました。そんなに難しくないので、お2人ならすぐに覚えちゃうと思いますけど。」
「…ふむ、悪くない。」
「まり、うめえなっ!!」
「うるさい、馬鹿鬼。黙って食せ、味が分からなくなるではないか。」
「珍しいねー。松寿の箸が止まらないや。」
「貴様もうるさいぞ!」
「あははっ、照れてんのかい?まりちゃん、これほんとおいしいよー。南蛮の食べ物ってのもいいもんだねー。」
「黙れ、根無し草!照れてなどおらぬわ!!」
「まり、おかわりくれ!」
「真ん中のお皿にあるのをどうぞ。それで作ったの全部だから、ケンカしないようにね。」
「うしっ!早いもん勝ちだなっ!!」
「ちょうそかべどの、 まつで ござる! それがしも まだ いただきたい!!」
「おれも、もらう。」
「梵天丸様、先に取り置かれるのがよろしいかと。」
「あっ、ちょっと待ってよー!俺も欲しいって!!」
「…」
「おまっ、松寿!そんなに取るんじゃねえっ!!」

それぞれが口に入れた後の感想を、きっと私は一生忘れないだろう。
未知のものに出会う瞬間の恐怖。
対峙しなきゃいけない勇気。
美味しいものを口にした時の興奮。
彼らは表情と言葉を持って、余すことなく私に伝えてくれた。


2018.02.26. UP




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夢幻泡沫