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それは、甘い
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「これとこれ。それに、こっちも必要かな…」
本棚から必要そうなものを抜き出す。
こう見えて史学科卒業だからね、えっへん!
一時期は古文書読解にハマっていたこともあったり。
暗いなんて言わせない、面白いんだから!
私が育った場所は歴史が色濃く残っている。
だから、あそこで生まれ育った子は自然と歴史に興味を持ってしまう。
私も、そんな中の一人。
本棚を見ても、日本史のコーナーが幅広い。
そこから適当に見繕って重ねると、意外にあったのか視界が上だけになってしまった。
危なくないようにゆっくりと階段を下りてリビングに入る。
すると持っている物に興味があるのか、みんなが集まってきた。
「ちょうどよかったです。少しいいですか?」
「いいけどよお、何だこれは?」
「本だよ、元親さん。これは後で話すとして、みなさんに言っておかなきゃいけないことがあるんです。」
「何だ?」
「明日から日中はいなくなるって軽く言ってあると思うんですけど。」
「仕事で、だよね〜。」
「はい。だから、みんなだけで過ごすことになるんです。特に制約はないんですけど、日中はできるだけ子供達は外に出ないでほしいんです。」
「なぜで ござるか?」
「ここではね、子供たちは全員学校というところで勉強を受けるって言う権利があって。保護者は勉強を受けさせなきゃいけないって言う義務があるの。」
「学校?全員か?農民の子もか?」
「学校は勉強をする場所。同じ年代の子が集まって、先生からいろいろ教わるの。お金持ちとか貧乏とか、そんなの関係なく全員。」
「だが、貧しいやつは謝礼ができねえだろう?」
「国が発展するためには有能な人材が必要ですよね?その基礎となる学問を全員が修めておけば、国そのものがレベルアップすると思いませんか?教養を身につけておいて損な事はありませんし。だから、どんなに貧乏な子でも学校へ行けるように費用は国が持っているんです。親が払う必要がないんです。」
「へえ〜。」
学校へ行くのが当たり前だったから、子供のころはそんな事考えたこともなかったけど。
勉強は嫌いじゃなかったけど、宿題や課題は嫌だったし。
天気が悪くて休校になった時は嬉しかったし。
気分が乗らない時は休みたいと思ったし。
決して真面目なわけでも優秀なわけでもなかったけど。
学校の良さは大人になると分かるものなのかな。
今ならもう一度行きたい。
あの頃の自分より頑張れる気がする。
「義務教育って言うんですけど、6歳から15歳の子は男女関係なく全員受ける権利があるし、受けなきゃいけないんです。だから、日中の家や外に子供がいることがおかしいんですよ。学校に行ってなきゃいけない時間だから。」
「なるほどー。だから外に出ちゃいけないんだね。」
「街中やお庭なんかで姿を見られたら、『あの家はどうなってるんだ』って役所の人が調べにくるかもしれないんです。そうなってしまったら、私は庇う事ができません。」
「家の中で大人しくしていればよいのだな?」
「そうしてくれると助かるの。お願いね、松寿。」
「致仕方あるまい。」
「ありがとう。もし外に出るんだったら、そうだなぁ…小学校はどれくらいに終わるんだっけ…?…えぇと…3時過ぎ、かな?くらいからなら大丈夫だと思うよ。あ、ちゃんと大人の人と一緒に出てね。」
「…別に外に出なくてもいい。」
「うん。もし出たかったらって話ね、梵天君。」
「俺達はどうなんだい?」
「大人は特にないよ。最初に言った約束さえ守ってくれれば。」
男性が日中にあまりウロウロしているのも充分怪しいけどね。
でも、世の中フリーランスのお仕事も増えてきているから大丈夫でしょ。
…最悪、自宅警備と思ってくれれば。
「でもよお、そうなるとやることがねえから時間を持て余しそうだぜ?」
「あ、うん。そこでね、これなのよ。」
ようやく本の出番。
自分の脇に置いてあった本をテーブルの上にどさっと乗せる。
「慶次さんに聞いたんだけど、お城にいる子って偉い人を呼んで勉強してたみたいですね。」
「こちらから出向くこともあるがな。」
「お寺でしたっけ。」
「ああ。」
「これ、家にある本の中で使えそうなものをピックアップしてきたつもりです。ざっと目を通してみませんか?」
そう言った途端、まず手を伸ばしたのが小十郎さんだった。
それから、猿飛佐助。
あは、弁が嫌そうな顔してるわ。
博物館巡りなんてものにも一時期ハマって、古文書のレプリカを集めたりもしたんだよね。
生きているうちに役に立つことがあるとは…
「…てめえ、やはりどこかの姫だろう?」
「いやいや!ホントにしがない一般人ですよ。」
「一般人がこんなに素読本を持ってるわけねえだろう!しかも女子が!」
「この時代は男女平等が謳われてるんです。男も女も平等に教育を受けられるんですよ。私がそれを持っているのは、まぁ…趣味というか。どうです、使えそうですか?」
「ああ。」
小十郎さんが心なしか嬉しそう。
使えるんだったらよかった。
「…まり。我はここにあるものは読み終えてしまっている。他のものを出せ。」
「後は自分で見つけてちょうだい。あ、だけどその前にこっちの字を勉強した方がいい?」
「ふむ…そうやも知れぬな。」
「じゃあ、仕事帰りにでも用意してくるよ。覚えたら本棚のものは勝手に読んでいいからね。」
あ、松寿の目がキラリと光った。
読書、好きなのかなぁ。
勉強が好き?
さすが、謀神・毛利元就。
後で歴史関係の本はごっそり抜いておかなきゃ。
あまり未来は知られたくない。
「なあ、まり。そっちの残ってる本は何だ?」
「え?あぁ、これは料理本です。洋食とか、大陸の食事とか、この時代の和食が載っています。小十郎さんと猿飛さんが興味あるようなので持ってきました。」
「えっ!?」
「ならば、俺達もここの字を学んだ方がいいな。…読めねえ。」
「分かりました。取りあえず、みんなの分を用意します。ちょっと時間がかかるかもしれませんが…」
「手間をかける。」
「気にしないでください。それと、もし全員で出かけることになった時の為に鍵を渡しておきます。火の元と戸締まりだけは確実にお願いします。」
「いいのか?」
「しょうがないですよ。私がいないんですから。でもこれをなくされると非常に困りますので、普段はしまっておきますね。」
みんなにスペアキーを見せ、保管場所を確認する。
使う事がなければいいけど。
「これで伝えるべきことは以上です。何か質問は?」
「ふむ…」
「実際に過ごしてみなければ分かりませんよね。困って事があればすぐに教えてください。本はここに置いておきますね。それじゃ、今日はもう寝ましょう。」
おやすみなさい、の言葉にそれぞれの部屋に上がっていく武将ズ。
とりあえず、私も部屋に戻りますか。
2018.03.05. UP
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夢幻泡沫