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それは、甘い
40
ゆっくりと目を開ける。
まりに視線を合わせられず、情けなさと悔しさが胸に渦巻いた。
「…あんま見んなよ。お前まで呪われちまう。」
「なに…言ってるの?こんなに綺麗なのに…」
は…?
まりは今、何て言った?
思わずまりを見てしまえば、覗き込むように頬に手を添えてきた。
「綺麗。元親さんの目、すっごく綺麗。」
「…無理して言わなくても…」
「ムリなんかしてない!ホントに綺麗!!」
「…そ…う、か?」
「うん、素敵なもの見れた!ありがとう。」
「…いや。寝ようぜ。」
「そうだね。」
頭の中が混乱してやがる。
綺麗って…俺の左目が!?
あり得ねえだろ。
人と違う色をしてんのに。
呪われた目だって言うのに。
ベッドに座りこんでいる腰に手を伸ばして、横になれと促す。
りもこんで電気を消したまりは、俺の腕の中でもじっと見つめてきた。
「あんま見るなよ…」
「照れてる?」
「…違え。」
「元親さんって、アルビノ?」
「あ、るび、の…?」
「生まれつき、その色なの?」
「…ああ。」
「アルビノってね、生まれつき白い人や動物のこと。詳しくは分かんないけど、遺伝子の疾患らしいよ。だから他の人と目の色が違ったり、左右で違ったりすることもあるみたい。」
「…」
「ごめんね、説明になってなくて。でも日の本にも昔からいたみたいだよ。確か、大昔の天皇にもいたような。」
「…だが気味悪いだろ。」
「そんなことないよ!逆に神秘的。『神様の使い』って言われたりもするんだけど…」
「はっ。凶事の前触れだって恐れられてたぞ。城の外に出たことすらなかったんだからな。」
「あぁ、だから『姫若子』だったのね。可愛かったんだろなぁ。」
「っ!!だから、お前それを誰から…っ!!」
「誰からって言うか…前に言わなかったっけ?元親さん達のこと、少しは知ってるって。」
あ、ああ。
そういやあ、そんなこと言ってかもしれねえ。
けどな、それは葬り去りたい過去なんだ。
つついてくんじゃねえ!
「まぁまぁ、姫若子は今は置いといて…」
「なら蒸し返すなっ!!」
「あのね、元親さん。アルビノって皮膚や目の色が違うだけで、あとは他の人と同じなんだよ。」
「…」
「ただ、肌や目が他の人より弱いから気をつけた方がいいみたい。」
「…どうなるんだ?」
「お日様に当たり過ぎると肌の病気になったり、視力が下がったりする可能性が大きいんだって。元親さん、大丈夫?」
「どうだろうなあ?船に乗っちまえばずっとお日さんの下だしな。」
「気をつけてね。」
「ああ。」
会話が途切れたところで、まりがごそりと動いて体を俺の方に向けた。
「アルビノはね、呪いなんかじゃないよ。」
「…おう。」
「前世の業でもないし、凶事の前触れなんかでもない。」
「おう。」
「自分じゃどうしようもできないことだし、周りだってどうしようもない。」
「おう。」
「今の時代でもまだ迷信を信じている人だっているんだから、元親さんの時代だったらなおさらだよね。」
「おう。」
「元親さんの目、とっても綺麗。ビー玉みたい。宝物にしたい。」
「宝…?俺の目が?」
「うん。」
仄かに明るい光がまりの瞳に反射する。
キラキラと光るそれの方が宝みてえだ。
褥ん中で女を抱くなんざ久し振りで、疚しい気持ちがむらりと湧いてくる。
…いや、今は拙いだろ。
静まれ。
「…ありがとな、まり。」
「うん?」
「気が楽になった。」
「そんなつもりで言ったんじゃないんだけど…。元親さんがそう思ったのならそれでいいや。」
「元親。」
「え?」
「元親って呼べよ。『さん』なんていらねえ。」
「…男の人を呼び捨てにするって苦手なの。」
「いいだろ、まり?元親、だ。」
「…そんなに強要するなら『ちかちゃん』って呼ぶよ!かわいくて姫若子にピッタリ。」
「おまっ!?」
「はいはい、もう寝よう?眠くなってきた。」
まりは俺のことを軽くいなしてぺしぺしと胸を叩く。
それから、手で口を隠しながら欠伸をした。
可愛いじゃねえか。
引き寄せるように腰に腕をまわして、一定の調子を取る。
「…優しい、ね。元親、さん。」
「もう寝ろよ。」
「ん…なんか、お話、して?」
「話?何の話だ?」
「なんでも、いいの。元親さんの、育った国のこと、でも、私が、いない時に、何を、しているのか、でも、昔話、でも、歌って、くれても、なんでも…」
舌たらずになってるまりが幼子のようで、ついつい笑みが漏れる。
「そうだなあ、まりが出かけた後は…」
弁丸が学問を嫌ってること。
梵天丸は割と真面目に受けてること。
松寿はこっちの文字がだんだん読めるようになってきたこと。
前田が風呂掃除でずぶ濡れになって、片倉からこっぴどく叱られたこと。
取りとめもなくそんな話をしていると、まりの体から力が抜けていった。
こりゃあ、もうすぐ寝るな。
「…まりが起きるまでいてやるから、しっかり寝るんだぞ。」
「…ん…あり、が、と…元、ち…か…」
最後の言葉は聞こえるか聞こえねえか。
完全に体を預け切った状態で眠るまりの頭をそっと撫でる。
人肌があると安心するってのは、誰でも思うもんなのか。
俺も瞼が重くなってきた。
まりの肩と腰にぐっと手を絡め、目を閉じる。
鼻からまりが放つ甘い香りが入ってきた。
2018.04.30. UP
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夢幻泡沫