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それは、甘い
41
ぼんやりと意識が浮き上がってくる。
今…何時?
今日は休日だからゆっくり寝ててもいいんだけど…。
頭上にある小棚からスマホを取ろうと身じろぎをして、思い出した。
…そうだ。
昨日は元親に添い寝してもらったんだ。
ちょっと暑いくらいだったけど、逞しい腕、大きな手、低く柔らかい声に安心した。
頭の下と腰にある感覚が、元親がまだ隣にいると教えてくれる。
…優しいなぁ。
ゆっくりと瞼を開ければ、昨日と同じ位置から声が聞こえた。
「…目が覚めたか?」
「…ん…」
「ははっ、まだ覚めてねえようだな。」
そうだね。
目が開いたからと言って、頭はすぐに働かない。
だから、そんなに優しく撫でないで。
心地よくてまた寝ちゃいそう。
楽な方へ流れようとする脳に刺激を与えるために、自然と閉じた瞼を両手でこする。
「あまり擦んな。」
「…ん。」
「起きたか?」
「…おはよう、元親。」
「おう。よく眠れたみてえだな。」
「うん。いつの間にか朝になってる。」
「そりゃよかった。ぐっすりだったぞ。」
「元親は眠れた?重かったでしょ、ごめんね。腕、痺れてない?」
「こんくらい、何てことねえよ。俺もよく寝た。」
「それならいいんだけど。」
まだ体がだるい。
もう少しゴロゴロしていたいなぁ。
今、何時なんだろ?
「…うわ、もうこんな時間。」
「だが、今日は休みなんだろ?」
「まぁね。でも、元親はもう起きてる時間でしょ。…起きる?」
「そうだなあ。まだお前の隣にいてえって感じだけどな。」
私のぐうたら具合を笑いながら元親は上半身を起こすと、そのまま覆いかぶさるように私の顔の横に両手をついた。
…今、確実に心臓がキュンって鳴った。
なに、これ。
朝からどういうシチュエーションですか!?
床ドンならぬ、ベッドンですか!?
イケメンは何しても似合うなぁ、おい。
じっと私を見ていた元親が、にっと笑う。
だから、寝起きの心臓に悪いってば…。
「…すっきりした顔してらあ。」
「…おかげ様で。ありがとう、元親。」
「おう。礼、もらうぞ。」
「え…?」
何を?
なんて聞き返す暇もなかった。
唇に感じたのは、少しだけがさついた感触。
私もいい年なんだし、何かなんて考えなくても分かる。
「ちょ…っ、元親!?」
「こんくらい、いいだろ?一晩、耐えたんだぞ。」
「え、ちょ…」
「舌からめなかったんだから、可愛いもんだろ。」
「…そういう問題じゃない。」
「次はもっとしっかり、な?」
「次なんてないっ!」
「ははっ。先に着替えて下に行ってる。体がついてきたら、まりも降りてこいよ。」
「…はぁい。」
少しだけ乱暴に私の頭を撫でた元親は、うんと伸びをすると部屋を出て行った。
広くなったベッドで寝がえりを打つ。
うわぁ…。
なに、これ!?
ホント、イケメンはなにしても絵になるなっ!
相手が私でごめんなさいね!!
何だろう、この気持ち。
はちみつを舐めた気分。
部屋の空気も何だか甘ったるい。
恥ずかしさのあまり元親が使っていた枕に顔をうずめれば、シャンプーの香りが吸い込まれてくる。
…余計に恥ずかしくなった。
勢いよく起き上がり着替えを取りに弁達の部屋へ行くと、お布団を抱えた猿飛佐助がいた。
「あ、起きた?おはよう。」
「…おはようございます。」
「顔赤いけど、大丈夫?熱でも出た?」
「大丈夫です。」
「そう?」
せっかく朝からいい気分だったのに。
…昨日、元親がああ言ってくれたけど。
悪いけど、まだ信用できない。
完全に背中を向けないようにして服を用意していると、まりちゃんと呼ばれた。
え、何で呼ばれるの?
話すことなんてなくない?
「…何ですか?」
「あ〜…あのさ。協定、結ばない?」
「…は?」
「俺様、これでも反省したんだよ。まりちゃんが初めに言った俺達に守ってほしいこと。その中に俺様達がここにいる間は不戦でお願いってあったでしょ?」
「はい。」
「だから俺様達の間で協定は結ばれた。だけど、考えてみたらまりちゃんとは結んでないじゃん?」
…そんな必要ないもん。
ここでは命に関わる争い事なんて滅多にないもん。
少なくとも、私の周りには皆無。
なのに、何で私が結ばなきゃいけないの?
「だから俺様もちょ〜っと手荒なことしちゃったんだなって思い至ったわけ。まりちゃんには世話になってるんだし、俺様としても楽しく過ごしたいんだよ。もう怖い思いをさせないって約束するから、協定結ぼ?」
「…協定を結べば、猿飛さんに襲われる心配も、毒を盛られる心配も、嫌味な口撃をされることもないんですか?」
「俺様どんだけ信用ないの…。約束する、もうしない。まりちゃんのことも守る。弁丸様の次になっちゃうけど。」
「…分かりました。協定を結ぶのなら、私から猿飛さんに言いたいのは初めの約束を守ってくださいと言う事だけです。私だって、平穏に暮らしたいだけなので。」
「了〜解。怖がらせちゃってごめんね。」
随分と軽い謝罪だこと。
でも…まぁ。
自分の家でピリピリしなくてよくなったのは、ありがたい。
さっさとその何でも疑う考えを捨ててください。
ここではそんな心配はないんだから。
2018.05.07. UP
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夢幻泡沫