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それは、甘い
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「まりどの。 きょうは やすみで ござるか?」
「うん、そうだよ。」
「随分と遅く起きたものだな。」
「ぐっすり眠れたから。」
呆れている松寿への私の返事に、元親が意味ありげに笑みを深める。
恥ずかしいなぁ、もう!
「ニヤニヤ笑わないでよ、元親。」
「何でもねえよ。」
何でもないんだったら、こっち見ないでよっ!
「まり、まず朝餉を食え。」
「あ、ありがとうございます。小十郎さん。」
「今日はどんな予定でいるんだ。」
「え…っと、特には。何かしたいことはありますか?」
「食糧がなくなってきている。補充してえな。」
「はい。じゃあ、時間になったら行きましょう。」
「まりどの。 きょうも さんじ すぎで ないと、 そとへ でられぬので ござるか?」
「うぅん。今日は休日だから、遅い時間じゃなければ外に出るのは構わないよ。どこか行きたい?」
「それがし、 ひろい ところにて からだを おもいきり うごかしとう ござる。」
「なるほど。そしたら…そうだなぁ、アスレチックに挑戦してみる?」
「あすれちっく?」
「う…んと、まぁ行ってみれば分かるよ。」
「なれば、 それがしは いきとう ござる!」
「他に行きたい人は?」
あらら、全員行く気満々だわ。
別にいいんだけど。
「えぇと…それなら、今日は電車で出かけます。それで、帰りに食材を買い足しましょう。」
「でんしゃ!? でんしゃとは、 まりどのが しつむに いかれる さいに つかっている のりものの ことで あろうか?」
「…仕事ね。うん、そう。」
「俺達も乗れんのか!?」
「運賃さえ払えば乗れるよ。」
うっわ、いい笑顔。
「ただし、公共の乗り物ですからルールがあります。それを守れない人は残念ながら乗れません。」
「説明致せ。」
「そんなに難しい事じゃないからね。運賃をきちんと払う、静かにする、並んで待つ、座席は譲り合う…これくらいかな。」
「は、造作もない。」
「でしょ?だからしっかり守ってね。」
「まりどの、 まりどの! いつ でかけるので ござるか?」
…ヤバい。
弁が可愛すぎる。
そんなピョコンピョコンと跳ねるように近づいてくるなんて。
少し離れた所からチラチラとこっちを見てくる梵天君も可愛い。
早う食せとお椀を押しつけてくる松寿も可愛い。
よく寝たから食も進む。
パクパクとお箸を動かしていると、弁が隣に座った。
にっこりと見上げてくる赤い子に、ご飯やらおかずやらをちょこちょこ分ける。
親鳥になったみたい。
あーんって!
無垢に口を開けて催促する弁が可愛い。
なんだろう。
朝から萌え殺されそう。
「あ〜っ!ちょっと、弁丸様!!まりちゃんの膳を食べるってなに考えてんの!?」
「さっ… さすけっ!?」
「そんな卑しい事しないでよね!大体、弁丸様の分はしっかり食べたでしょ!?」
「人が食べてるの見ると、食べたくなるもんだよね。それにあげたのは私だから、弁は悪くないよねぇ?」
「そっ、 そうで ござるっ!!」
「ちょっと、まりちゃん!弁丸様を甘やかさないでくれる!?これでも、武田家有数の武将の若様だからね!?一応、将来を期待されてるんだからね!?上に立つ者としての教育をしてる最中なんだからね!?」
「ねぇ、弁。猿飛さんって結構ひどいことを平気で言うんだね。弁は誰が見てもいい子なのにねぇ。優秀な子だって言うのも、会った日に分かってることなのにねぇ。仕えてる主のことをそこまで言っちゃうのって、どうなんだろうねぇ?」
「さすけの くちの わるさは、 いつもの ことに ござる。 まりどのが きに なさることでは あらぬ ゆえ、 すておいて くだされ。 さすけ、 げんきゅう いたす。」
「なっ…ちょっ…どうして俺様が悪いことになってんの!?」
「弁は優しいねぇ。弁はいい子。弁はお利口さん。いっぱい食べて、大きくなるんだよ。」
「しょうち いたした!」
よしっ!
弁は私の味方!
「…まり。いいからさっさと食え。弁丸ももう終いにして、今一度歯を磨け。いいな?」
「はぁい。今日の朝ご飯って小十郎さんが作ったんですか?」
「ああ。いつものように俺と猿飛で作った。何か問題があったか?」
「ないですよ。美味しいです。ありがとうございます。」
「…ああ。猿飛、そんなところでいじけてねえで、掃除しろ。この後、出かけるんだろう?」
「…だって…俺様、減給って…今でもあんまり貰ってないのに…俺様、弁丸様第一に働いてるのに…」
あらら、猿飛さんが拗ねちゃった。
背中に哀愁を背負って、部屋の隅で体育座りって。
「…ん?梵天君、どうかした?」
「っ…」
ふと見た先でじっと私を見ている梵天君に気付いて声をかけると、驚いたように体をビクつかせて急いで視線をそらした。
「梵天君も食べる?」
「…いらない。」
「ふぅん、そう?」
「まり、でざあとは我によこせ。」
「え、デザートあるの!?」
「今日は桃の寒天寄せだ。」
「…何ですか、それ。何でそんなオシャレなものを作ってるんですか…。」
「てれびでやってたんだよ。賑やかな楽が流れてる、午の刻の短い時間のやつ。簡単そうだったから、作ってみちゃった。」
「まり!よこすのか、よこさぬのか。どちらなのだ!?」
「…松寿次第かな。」
「…欲しい。ください。」
「ふふっ、半分こね。」
あれ?
また梵天君が…。
「…梵天君もいる?」
「…いらないって言ってるだろう。」
「それがし、 いただきとう ござる!」
「弁丸様はもう駄目!!いいからまりちゃん、さっさと食べちゃって!」
「まり、でざあとはまだか。」
まだだって!
見れば分かるでしょっ!!
猿飛さんも松寿もそんなに急かさないで。
美味しいご飯はゆっくり食べたいんだよ。
ホント、誰かを懐柔したい時に胃を掴むって大事だよね。
…そして、見事に私は掴まれた。
戦国武将が作った朝ご飯。
大変美味しゅうございました。
2018.05.14. UP
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夢幻泡沫