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それは、甘い
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流れるような外の景色に食いついてる人。
運転席を窓越しにじっと見つめる人。
何か言いたそうに何度も私の顔を見る人。
…一応、『静かにする』って約束は守ってくれてるんだけど。
視線が煩いです。
いっその事、質問しちゃってください。
答えられるかは別ですけど。
「あの。立ちっぱなしで疲れませんか?席が空いてるから、座りましょう?」
「俺はここで見てるからいいっ!!」
あぁ、うん。
元親はそうだと思ったよ。
問題は小十郎さんと猿飛さんなんだって。
ただでさえ電車の揺れに慣れてないのに、外を見たい梵天君と弁を抱っこしてるんだもん。
ツラいでしょう。
「まり、これは鍛錬になるな。」
「ほ〜んと。俺様の場合、弁丸様がさらに動いてくれちゃってるからね〜。」
…あはは、そうですか。
主をウェイト代わりにするのってどうかと思うけど。
それなら自由にしてください。
「松寿、座らない?」
「座ってもよいものなのか?」
「空いてればね。こっち、おいで。」
「まりちゃん、俺も。」
小さな揺れが続く電車の中を、松寿の手を引いてシートへ移動する。
慶次さんもついてきた。
すごい、体が揺れてないわ。
体幹がしっかりしてるのかな、足腰がしっかりしてるのかな?
大きめのトートバッグを持ってるのに流石だね。
空いている場所へ座ると、向かいの窓を見ながら松寿がぼそりと言った。
「以前乗った、とらっくとやらより速いな。」
「そうだねぇ。電車って時速どれくらい出るんだろ?普通の車より速いのは確かだけど…。」
「まりちゃん、まりちゃん。このでんしゃはどうやって動いてるんだい?」
「電気だよ。」
「へーっ、でんきってのはすごいねー。こんなでっかいのまで動かせちゃうんだ。」
「これはどこまで動くのか?」
「乗り換えすればどこまででもいけるよ。」
「おっ!京にもかい!?」
「うん。」
「安芸にもであろうか?」
「うん。」
「どれくらいの日数がかかる。」
「お金さえ払えば今日中にでも。」
「まことか!?」
「うん。」
唖然としながら質問を重ねてくる2人に答えていると、目的地に着いた。
「降りますよぉ。」
「まりどの! それがし、 ぴっと したいで ござる!!」
「うん、よろしく。他の人達は切符を通してください。使いきりのものなので、今度は出てきません。そのまま改札口を通ってくださいね。」
実は電車を乗る時、弁だけ切符を買えなくて。
年齢の問題だからしょうがないことなんだけど、自分だけ買えなかったことに弁は相当ショックを受けたみたいで半泣きだった。
でも、一転。
私の磁気カードで一緒に入ってもいいと分かって大喜び。
みんなとは違う形での入場に、ニコニコ笑っていた。
一緒に行動しなきゃいけないのを既に理解している弁は、きゅっと私の手を握って『どちらへ むかえば よいで ござるか?』と引っ張る。
みんながついてきていることを確認しつつ、電光板の案内に従って改札口へと向かった。
無事に全員が改札から出る。
すると、駅前の通りにはお土産屋さんが並んでいた。
「あれ?何でここはこんな雰囲気なの?何だかちょっとだけ俺達の世界に戻ってきた感じがするねー。」
「そうなの?」
「うん。こう、道の両脇に店が並んでる様子がさ。」
「城下町って感じ?」
「城下もそうだし、門下もそうだし、街道沿いの宿場もそうだし、京や堺にも少しだけ似てる。」
「ふぅん。」
「きだちだっ!」
目敏く見つけたのは弁だった。
「きだち?…あぁ、木刀ね。弁って、こっちに来る前は剣の稽古してたの?」
「もちろんに ござるっ!!」
「梵天君は?」
「…してた。」
「松寿も?」
「ああ。」
おぉっ!
流石は戦国武将ズ。
そんな小さい頃から稽古に励むんだ。
「じゃあ、使えそうなら買おうか?」
「いいので ござるかっ!?」
いいに決まってるから、言ってるのに。
ここは古戦場とか宿場町とか、歴史的なゆかりがたくさんあって観光スポットにもなってるんだよね。
だからかな、木刀が売られてるのは。
「まり。この世界は、刀を必要としないのだろう?なぜこんな道端で木太刀など売っている。」
「お土産ですよ。」
「土産?木太刀が土産になるのか?」
「なるんです。男の子や外国人には結構人気ですよ。」
ホントはよく知らないけど。
男の子に人気なのは本当ですよ。
「お土産用だから、丈夫かどうか分かりませんよ?持ってみていけそうなら買っていきましょうか。これから行く公園には、広場もあるみたいですから。」
途端に走り出す弁。
それを追いかける猿飛さん。
小十郎さんの手を引いて小走りな梵天君。
「松寿は行かねえのか?」
「ふんっ。貴様に指図される覚えはないわ。」
「お前なあ…俺には長曾我部元親っつう名前があるんだぞ。」
「うるさい、鬼。」
「まりちゃん、まりちゃん。俺達も行こうよ。俺も欲しいなー。」
結局7本お買い上げです。
いいんだけどね。
…だけど。
今、初めて武将ズの素顔を見た気がした。
木刀を握りしめる瞬間の顔が締まっていて。
けれど、それを持てて安心したような瞳をしていて。
やっと『自分』というものを一つ取り戻せたような安らぎを見せて。
…私は自分のことしか考えてなかった。
苦しいのは自分だけだと思い込んでいた。
きっと彼らの方が苦しかったはず。
困惑していただろうし、我慢も相当していたと思う。
木刀一つであんな表情を見せる武将ズに、胸が苦しくなった。
バカだなぁ…私は。
2018.05.21. UP
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夢幻泡沫