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それは、甘い

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みんなが水分補給に戻ってくる頃には、慶次もいつもの慶次に戻っていて。
既に顔を真っ赤にした子供達は、スポーツドリンクをがんがん飲む。
飲み過ぎはよくないと思うんだけど…。
大人組も一息ついたところで、来る時に買った木刀を使う事にしたらしい。
弁と猿飛さん。
梵天君と小十郎さん。
松寿と元親。
慶次は、今はまだ休んでたいって。
アスレチックから離れた、でも私達がいる位置から見える芝生に移動して稽古を始めてしまった。

「…こんなところでしなくたって。」
「みんな嬉しいんだよ。俺達がいたところと同じ事ができるからさ。ほら、見てごらんよー。竜の右目だって何となく顔が緩んでるように見えないかい?」
「ホントだ…。」

心なしか目が輝いてるように見える。
梵天君にアドバイスする声も、いつもより大きい。

「うわぁ…小十郎さん、容赦ないっ!梵天君の右ばっか打ち込んでるじゃん。」
「鍛えてるんじゃないのかなー。敵が真っ先に狙うところだし。」
「そっかぁ。ハンデを克服するのってたくさん努力がいるもんね。」
「はんで?」
「ハンディキャップ、不利益ってこと。梵天君の右目はかなり不利だよね。だけど弱音を全然吐かなくてすごいなぁ。まだ小さいのに。」
「戦に出るのはまだ先だろうけど、いつ敵に襲われるかも分からないからね。その時、竜の右目がいるとも限らないし。」
「自分の身を守れるのは自分だけ?」
「極論を言っちゃえばそうだと思わないかい?守りたいもの、守らなきゃいけないものもあるだろうけどさ。」
「…それにしてもすごいねぇ。一番小さい弁でさえも、あんなに速く飛び込めるんだねぇ。」

子供達が大人に食いついていく。
それでも力の差があるのか、悔しそうに唇をかむ姿がたびたび見られる。
…んだけど。

「…え?」
「うん?どうかしたのかい?」

え…見間違い…?
今、弁の周りが赤くなったような…

「…や、何でも…」

なくないっ!!
やっぱり赤くなってる!!
梵天君を見れば…。
あ、おっ!?
松寿は緑!?
え…ちょ…

「はっ!?何あれ!?何で子供達の周りに色があるの!?」
「え?まりちゃん、見たことないの?」
「ないっ!え、何!?あれって、慶次達の世界では普通の事なの!?」
「普通ではないけど、持ってる人は持ってるよ。俺も持ってるし、竜の右目も、佐助も、元親も持ってるよー。」
「ちょっ…とりあえず、一旦集合!全員集合!!慶次、連れてきてっ!!」
「えー、俺ー?」
「いいから早くっ!!」

一秒でも早く!
お願い!!
切実に!!
あんなもの誰かに見られたら騒ぎになるでしょ!?
珍光景とか言ってネットにアップされちゃうから!!
焦って近くをキョロキョロ見渡してみると、あまり人がいないおかげで気づいている人はいないみたい。
…はぁ、マジ焦った。
本人達はそんなことどこ吹く風でのんびりと歩いて戻ってくる。
いいから、早く集合してよっ!!

「何かあったのか?」
「『何か』じゃないですよっ!さっきのは一体なんですか?」
「さっきの?」
「弁や梵天君や松寿の周りに見えた色!」
「まりどの、 しらぬので ござるか?」
「知らないから聞いてるの。アレは何?」
「婆娑羅だけど〜?」
「ばさら?ばさらって、うつけ者や傾奇者に似ている意味の婆娑羅ですか?」
「え、何それ。そっちの方が初めて聞いた。婆娑羅って言うのはね〜、特別な力。誰でも持ってるわけじゃなくて、ある日突然使えるようになったって感じ?」

だよね〜?と猿飛さんがみんなに確認するように聞く。
ああとか、うんとか、どれも肯定する返事をもらって満足いくように頷いた後、佐助さんが私を見た。

「この力が使えるとね〜、戦で大活躍できるんだよ〜。まりちゃんは持ってないの?」
「持ってません!と言うか、ここでは誰も持ってません!!こっちにいる間は、その婆娑羅を使うのは禁止です!!」
「そんなんじゃ稽古にならねえ。」
「じゃあ、使っていいです。でもその代わり、私は無関係ですからね。さっき言ったように、この世界には婆娑羅を使える人なんていません。体の周りに色を纏ってる人を見たら、きっと驚くでしょうね。何の関係もない人達から不快な視線を送られるでしょうね。それだけならいいですけど…不審者扱いになるかもしれませんね。超常現象だって騒がれるかもしれないですね。そうしたら、警察が捕まえに来ますね。あっ、私は無関係でした。ご自由にどうぞ?」

一気にまくし立てる。
そして、みんなをどかしてレジャーシートをたたみ出した。
何度でも言うけど。
私は平穏に暮らしたいの!

「…まりどの?」
「私、無関係だから帰ります。警察に詰問されたところで、知らないものは知りませんから。巻き込まれたくありません。」
「ちょっ…ちょっと待ってよ、まりちゃん!」
「こうやって話している間も、私は関係者だって思われてしまうんです。私は婆娑羅なんてもの知りませんから、はっきり言って困ります。」
「…まり、ばさらは使わない。これでいいか?」
「…梵天君、ありがとう。」
「小十郎も、それでいいな。剣の稽古ならばさらを使わなくてもできるだろう?」
「はっ。」
「さすけ、 それがしも ばさらは つかわぬぞ。 おぬしも つかうな。」
「はいは〜い。」
「松寿、お前はどうするんだ?」
「使わねばよいのであろう。馬鹿鬼も気をつけよ。」
「俺も使わないようにするね!」
「…譲ってくれてありがとうございます。たくさん我慢させてすみません。」

少し場所を移動しましょう、と荷物を持って歩き出す。
俺が持つよ!とすかさず私の手から取り上げた慶次が横に並んだ。

「ごめんね。」
「うん?何がかい?」
「いろいろと。」
「…約束さえ守れば出来る限りの事はしてくれるんだろう?ここはまりちゃんの世界なんだ、俺達が合わせるのは当たり前だよ。」

…ホント、ごめんなさい。
たくさん我慢させてしまって。
木刀の時に胸が痛んだはずなのに。
すぐまた強要するようなことをしちゃった。
悔やむ気持ちを隠すように、一番に婆娑羅を使わないと言ってくれた梵天君の頭を撫でる。
驚いたように見上げてきた梵天君は、口を動かそうとして…やめた。
そして、私の手を振り払うでもなく少し俯いて歩いた。


2018.06.11. UP




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夢幻泡沫