
Main
それは、甘い
48
こう言う時、大きな駅ってホントに便利。
改札を出なくてもいくつもレストランが並んでいて、普段なら視界に入れないように足早に通り過ぎるんだけど。
その中にある1店舗を選んで入れば、客足は控えめだった。
奥の方の席に案内してもらって、梵天君にメニューを見せる。
「ここね、こっちでの奥州名物を扱ってるんだよ。おいしいって評判なんだから!」
「…」
「どれにする?お子様メニューもあるけど。」
「…」
「私はねぇ…え、どれにしよう…」
ヤバい。
目移りする。
メニューを何往復もして、吟味する。
「…よし、これにする!梵天君は?」
「…まりと同じでいい。」
「大人と同じ量はムリだよね?同じものでお子様用があるからそっちにしようか?」
聞けばコクリと返されたので、店員さんに同じものを2つ頼んだ。
待っている間も、食べてる間も、特に話しかけたりはしなかった。
だって、梵天君にとってあまりしたくない話だろうし。
無理に聞くようなことじゃないし。
人間って、お腹が空いてると気持ちも荒んでくるじゃない?
だから、少しでも気持ちが落ち着けばいいなぁくらいで。
「あぁ、美味しかった。梵天君、お腹一杯になった?」
「…」
「私ね、デザート頼もうと思うんだけど。梵天君もいる?」
「…欲しい。」
「オッケー。」
頼んでから割とすぐに出てきたデザートも、これまたご当地メニューなもの。
素材そのものの甘味が充分に引き立っている仙台名物。
ほっこりとそれを味わっていると、梵天君がポツリと呟いた。
「…おれ、は…」
「うん?」
「…おれは、他のやつらとそんなにちがうのか?」
「え?」
「片目がないのがそんなにみにくいのか?」
「醜くないよ。ただ、他の人とは違うよね。」
「…」
…そんなに絶望的な顔しないで。
ちゃんと最後まで聞いて。
「ねぇねぇ、梵天君。あの人見て、どう思う?」
私が差したのは、店の外。
大きな駅だけあって、人の往来が激しい。
そして、多分この子は見たことない人達も多い。
俯いた顔を少し上げてチラリと視線だけ向けた梵天君は、驚いたように私を見た。
「…あいつ、黒すぎないか?」
「ほら、ね。」
「は?」
「梵天君だって、いま口にしたでしょ。」
「何をだ?」
「不思議に思ったこと。梵天君とあの人とじゃ肌の色が違うもん。梵天君の周りには同じような色をした人しかいなかったから、見たことないものは知りたくなっちゃうよね。」
「ああ。」
「でもあの人にとって、それは言われたくないことだったかもしれない。」
「っ…」
「さっきの子も同じだよ。自分や知っている人には目が2つあるのに、梵天君は1つしかなかった。だからどうしてだろう?ってあの子のお母さんに聞いたのよ。」
「…」
「お母さんは自分の経験から、怪我か病気か…とにかく、直る前だから眼帯をしていると思ったんじゃないかな。だから、『早く治るといいわね』って言ったの。」
「…」
「馬鹿にしてるわけでも、蔑んでるわけでも、嫌ってるわけでもないんだよ。」
「…でも、おれの…」
「それにね、梵天君。」
しっかり私を見てほしかったから。
ちゃんと聞いてほしかったから。
名前を呼んで、視線を交わわせる。
「人ってそれぞれ違うでしょ。梵天君と私は同じ?」
「…違う。」
「梵天君と弁は同じ?」
「違う。」
「梵天君と小十郎さんは?」
「違う。」
「でしょ。それぞれ違って当たり前。それでいいの。それが、いいの。」
こんな小さなことで傷つく必要なんてない。
梵天君は立派な武将になるんだから!
後世に名を残すようなことをやってのけるんだから!
知ってるのはこの世界の伊達政宗だけど、梵天君もきっとそうなるっ!!
「…帰ろっか。」
「…ああ。」
「お腹一杯になった?」
「ああ。ごちそうさま。」
「それはよかった。」
お店を出ると、梵天君から手を握ってきた。
嬉しくてギュッギュッと何度も力を入れてると、何回かした後に力を入れ返してくれた。
思わず梵天君を見ると、顔が真っ赤になっていて。
ホントに可愛いんだからっ!!
「…まり。」
「ん?」
「何で長曾我部といっしょにねているんだ?」
「う…んと、精神安定のため?眠れなくなっちゃった時がちょっと前にあったんだけど、元親が気にしてくれてね。一緒に寝てよく眠れたから、何となく毎日一緒に寝るようになったってかんじかなぁ。」
「長曾我部は…」
「うん。」
「ねる時に、がんたいを…外しているのか?」
「うん、外してるよ。」
「お前は、がんたいの下を…見たの、か?」
「見たよ。」
「…そうか。…弁丸は…」
「弁?」
「弁丸といっしょに湯浴みをするのはなぜだ?」
…猿飛さん防止のため。
なんて言えない。
「特に理由はないけど。あえて言うなら、頭や体をちゃんと洗えてるか心配だからかなぁ。一番小さいからね。それに、一緒に入ろうって誘ってくれるし。」
「…そうか。」
梵天君が電車の中で躊躇いながら聞いてくる。
慣れないことの連続だった今日は、とても疲れたと思う。
そのうち、腕にポスリと重みがかかった。
見れば、梵天君が眠ってしまっていて。
それでも手は繋がれたままだった。
2018.06.25. UP
← * →
(48/96)
夢幻泡沫