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それは、甘い
59
いつものように仕事から帰ったら、家の中の雰囲気が違っていた。
「ああ、まりちゃん。おかえりー。」
「ただいま。どうかしたの?何か慌ただしいかんじ。」
「あー…うん。松寿丸が熱を出しちゃったみたいで。」
「松寿が!?」
「うん。それなのに、松寿丸がかたくなに看病させてくれなくてね。」
「熱、計ってみた?」
「額には触ってみたよ。」
…うん。
看病も向こう式しかできないってことね。
お医者さんには連れていけないだろうし…。
「分かった。取りあえず、松寿の様子を見てくる。」
「佐助が粥を作るって。できたら持ってくかい?」
「そうだね。お願いしてもいい?」
「あいよ。」
救急箱はリビングにある。
そこから体温計を取ろうと寄れば、弁と梵が心配そうな目をしていた。
「…まりどの、 おかえりなさいで ござる。」
「ただいま、弁。」
「しょうじゅまるどのは いかがされたので ござろうか?」
「まだ本人を見てないから分からないなぁ。弁と梵は大丈夫?」
「ああ。熱なんか出てないぞ。あいつ、腹でも出してねたんじゃないか?」
「梵…松寿がそんなに寝相悪いわけないでしょ。風邪ぐらいだといいんだけど。とにかく、松寿の様子を見てくるね。2人はいつも以上にうがい手洗いをしっかりと!」
「わかりもうした。」
「それから松寿が寝ているかもしれないから、いつもより静かにしてあげてね。」
「仕方ないな。」
「よろしく。」
体温計を取り出し、2階に上がって部屋着に着替える。
それから、松寿が寝ている部屋をノックした。
「松寿?起きてる?入っていい?」
「…まりか?」
「うん、入るよ。」
返事があった事に安心してドアを開ければ、布団の中から松寿がこっちを見ていた。
「大丈夫?」
「これくらい何でもあらぬわ。」
「熱が出たって聞いたけど。」
松寿の側へ行こうとしたら、彼が起き上がろうとした。
「寝てて。」
「…」
「ちょっと触るよ。」
汗が滲み出ている顔をタオルで軽く拭いてから、首筋を触る。
…うん、熱い。
「熱あるね。どれくらいか計ってみて。」
「計る?」
「これ、体温計って言って体がどれくらい熱を持っているか計ってくれる機械なの。少し布団をめくるよ。」
「何故…」
「これを脇の下に挟んで。ピピッてなるまでね。」
「面妖なものを我に近づけるでない。」
「…それだけしゃべれるなら、少し安心だわ。」
もっと苦しんでるかと思ったけど、表情もそんなに厳しくなさそうだし。
あっという間に鳴った体温計を見せてもらう。
「…どうだ?」
「ん、そんなに高くないね。よかったぁ。慶次から聞いて心配してたんだからね。」
「だから何でもあらぬと申したであろう。」
「でも心配するでしょ!…喉は痛い?」
「痛くない。」
「咳は出る?」
「出ぬわ。」
「頭はクラクラする?」
「少し揺れておるような気はいたす。」
「胸は苦しい?」
「そのように次々と問うてくるでない。」
呆れたように松寿が溜息をつく。
あれ?
なにこの、私の方が宥められてる感。
「…思ったより元気で良かった。いきなり環境が変わったから、疲れが出ちゃったのかもね。取りあえず、今日はこのまま様子を見よう。」
「なれば、まりはもう出ていけ。」
「え?」
「病などではないのであろう?看病は要らぬ。」
「そんなこと言わないでよ。今、猿飛さんがお粥作ってくれてるんだって。」
そこへ丁度よく鳴ったドア。
開けると、猿飛さんがお盆に土鍋と取り皿とレンゲを乗せていた。
「まりちゃん。松寿丸の具合、どお?」
「たぶんですけど、体調を崩しただけだと思います。今日はこのまま様子を見ようと思うので、下にいるみんなにもそう伝えてください。」
「了〜解。」
「それにしても、よく土鍋なんて見つけましたね。」
「うん。奥の方にあったけどさ、粥を作るならこっちの方が慣れてるからね。」
冬の一人鍋用の土鍋だからね、これ。
今は季節的に真逆だし。
お盆ごと猿飛さんから預かれば、よろしくなんて言葉をもらった。
「じゃあ、俺様は風来坊と鬼の旦那に今日は下で寝るように伝えておくね〜。」
「いえ、食べ終わったら私の部屋に松寿を動かします。いいでしょ、松寿?」
「…看病など要らぬ。」
「またそうやって意地張って!松寿は私の部屋で今日は寝るの!決定だから!」
「…」
「猿飛さん、お粥ありがとうございます。タオルとかも取りに行きたいので、食べ終わったら下げに行きます。どうぞ、下に戻ってください。」
「そお?じゃあ、お願いするね。」
お大事にと松寿に手をヒラリと振って、猿飛さんが部屋を出ていく。
取り分けたお粥を不満げな松寿に渡しながら、私は苦笑した。
「勝手に決めてごめん。でも、松寿がいたら慶次も元親も遠慮しちゃうでしょ?だから今夜は私の部屋で寝よう?」
「…なぜ我が譲らねばならぬのだ。」
「譲るって言うか、私が心配なの。松寿達はここの病院にかかれないからね。寝てれば治ると思うけど、何かあった時に一番対応できるのが私だし。賢い松寿なら分かるでしょ?」
「…ふん。」
普段の勢いのままお粥を口に運ぶ松寿を見て問えば、鼻を鳴らされる。
暫く無言で食べていた松寿だったが、チラリと私を見て口を開いた。
「喉が渇いた。」
「お水にしておこうね。持ってくるよ。」
「甘いものがよい。」
「…少しだけお砂糖を入れるよ。甘過ぎても体に良くないだろうし。微糖ね、微糖。」
「何だ、それは?」
「…うん。気にしないで。」
何を言ってるんだか、私も疲れているのかな…。
曖昧な笑い顔を松寿に向けると、よいしょと立ち上がる。
「年寄りくさいことを申すな。」
…お塩にしてあげようか?ん?
2018.09.17. UP
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夢幻泡沫