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それは、甘い

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「まりどの。 ほんじつ、 この あたりにて なにか ありますのか?」
「ん?」
「まちが さわがしゅう ござった。」

買い物から帰った弁が不思議そうに聞いてきた。

「…佐助さん。どういう事ですか?」
「何かね〜、人が多かった。それから、屋台みたいなのもあったかな。」

佐助さんの言葉に、ハッとしてカレンダーを見る。
…そっか。
今日だったっけ。

「すっかり忘れてた…。今日はね、花火大会があるんだよ。」
「はなびたいかい…」
「花火って何?」
「え?見た事ないですか?えぇと…夜空に火薬をつめた玉を打ちあげて、火の花を作るんです。綺麗ですよ。」
「は?火薬をそんな風に使うの!?勿体ない!!」

花火って説明が難しいなぁ…。
そして佐助さんは違うところに食いついてるし。

「ここら辺では結構有名な花火大会らしいんですよね。家からも見えますよ。」
「おおっ! みえるので ござるか!?」
「うん。」
「それがし、 みたいで ござるっ!」
「時間になったらお庭に出て観ようね。」
「たのしみで ござる!しかし、 やたいは なにゆえ…」
「何故…って…食べながら見るため?始まるまでの時間潰し?…よく分からないけど、花火大会に屋台は付き物だよ。」
「なれば それがし、 やたいへ いきとう ござる!」
「ふぅん。じゃあ、後で行ってみようか。」
「ちょっとまりちゃん!弁丸様に甘すぎ!!」
「いいじゃないですか。年に一回の事なんですから、楽しまなくちゃ。」

日本全国津々浦々、いろいろなところで花火大会はやっているけれど。
この花火大会は年に一度しか開催されない。
だったら少しぐらい雰囲気を楽しんだってバチは当たらないでしょ?

「梵も後で行ってみる?」
「…小十郎、かまわないな?」
「は。」
「小十郎さんも一緒にどうですか?」
「ああ、もちろんだ。」
「我も行くぞ。」
「うん、松寿も一緒ね。」

子供達が動けば大人組が引っ張られるのは当然のこと。
結局、全員で屋台を見て回ることにした。

「そしたら、今日の夕飯はお庭で食べましょうか。レジャーシートを敷いて、テーブルを外に出せば、ゆっくりと花火も見られますしね。」
「おっ、いいなそれ。手伝うぜ。」
「ありがとう、元親。」
「俺も手伝うよ。」
「うん。慶次もありがとう。小十郎さんも佐助さんも、今日はゆっくりしましょう?夕飯は屋台で買えばいいですよね。」
「…いいのか?」
「はい。」
「まあ…まりちゃんがそう言うのなら。」
「じゃあ、そういうことで。食べ物だけじゃなくて遊ぶ物も少しはあると思いますし、ギリギリに行っても混雑しているだけですから、もうちょっとしたら行きましょう。」

混んでいる屋台の並びを歩くのなんて一苦労だ。
逸れちゃうかもしれないし、汚れちゃうかもしれないし。

「それがし、 もう いきたいで ごさる…」
「弁丸様〜、行ける事になったんだから少しは堪えてくださいよ。」
「ぬう…」
「あはは。じゃあ、弁。ちょっと待っててくれる?お化粧だけ軽くしてきちゃうから。」
「わかり もうしたっ!」
「みなさんも出かける準備して待っててくださいね。」

ちょっと屋台を見るだけだし、最低限でいいだろう。
部屋の外からは弁のまだかコールがひっきりなしに聞こえてくる。
…あ、佐助さんに怒られて引きずられていった。
早くしてあげないと可哀想かも。
通勤バッグからお財布とスマホと家の鍵を取り出し、ショルダーミニバッグに移しかえる。
ななめがけにして下に降りていけば、弁がしょんぼりとしていた。

「弁、お待たせ。…怒られちゃった?」
「…さすけは うるさいで ござる。」
「煩いのは弁丸様でしょ!」
「ごめんね、弁。梵も松寿もお待たせ。行こうか。」

途端に笑顔になるのは子供ならでは、ってところかな。
もどかしそうに靴を履いた後、玄関を出たところでわくわくした様子で待っている。
全員が出たのを確認して鍵を閉めて、いざ。
会場は街中から少し外れたところだからか、屋台が道順を示すようにずらりと並んでいた。

「…なあ、まり。こっちの女には恥じらいってもんがないのか?」

突拍子もない事を突然言われた。
元親を見れば、顔をほんのりと染めて視線がおどおどと動いている。

「え、と…どういうこと?」
「あの女達が着てるのって…その、浴衣だろ?布地や帯は随分と豪華だが…」
「…あぁ、そういうこと。あのね、今は夏の着物と言えば浴衣なんだ。外で着るのも問題ないの。」
「女の子しか着てないねー。男はほとんど着てないや。」
「まあ、ある種の勝負服だから。花火大会デートと言えば、浴衣だからねぇ。」
「でえと?」
「えぇと…好き合った男女が一緒に過ごすこと、かな。逢い引きで通じる?」
「あー、逢い引きね。」
「夏の定番デートだよ、花火大会は。」
「それなら、俺とまりちゃんもでえとしてるってことになるの?」
「ふふっ、何それ。好き合った、って言ったでしょ。」
「俺、まりちゃんのこと好きだよ!」
「ありがとう、慶次。私も慶次のこと、好きよ。」
「じゃあ、好き合ってるからでえとだね。」
「残念。デートって誰にも邪魔されずに男女だけでイチャイチャラブラブタイムの事なんだよねぇ。」
「いちゃい…らぶ…?」
「あはは、分からなくていいよ。とにかく、女は私一人なのに男の人が何人もいるのはデートとは言いません。」
「なあ。まりも浴衣着りゃあよかったんじゃねえ?」

慶次と言い合っていると、挙動不審に視線をうろつかせていた元親が私を見ながら言ってきた。

「それも残念。浴衣、持ってないんだよねぇ。」
「一枚もか?」
「そ、一枚も。実家に帰ればあるんだけど、こっちじゃ着る機会…はなくもなかったけど、今の私には若すぎる柄だから。」
「…勿体ねえな。お前、ぜってえ似合うのに。」

すっと撫で上げられた頬に、ぼっと熱が点る。

「ちょっ…元親!」
「いつか見てえもんだぜ、まりの浴衣姿。誰よりも一等似合うんだろうな。」

そう優しく微笑む元親から顔を背けて、ほう…と吐息を逃す。
急に甘い雰囲気を作らないでほしい。
やめてよね、本当に。
心臓に悪いったら。
これだからイケメンは!


2018.11.05. UP




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夢幻泡沫