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それは、甘い

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「あれは ひなわじゅうに ござるか?」

弁丸の言葉に彼の指が指す方を見ると。

「…あぁ、火縄銃じゃないよ。射的って言う遊び。」
「しゃてき?」
「傷つかない弾で商品を撃ち落とすゲーム。やってみる?」
「おう!」

えっと…予想とは違う方向から返事が来たんですけど。
私の後ろから聞こえてきたってことは。

「元親?してみたい?」
「おう。銃なんざ、餓鬼にゃあまだ早いだろ。」
「銃って言っても、安全だよ。」
「あいつらはよーよーとやらで遊んだじゃねえか。今度は俺らの番だ。」

先を歩いていた子供達を押しのけるようにして、元親が屋台へ先陣を切る。

「…餓鬼は貴様であろう。」
「うっせ!よーよーで浮かれてたお前に言われたくねえよ。」
「な…っ!?黙れ、馬鹿鬼!」
「ああん!?なんだと?」
「あぁ、もうっ!松寿も元親もこんなところでケンカなんてしないでよ。ほら元親、射的やるんでしょ?私も一緒にやるから行こう!」
「まりもか?」
「うん。弁達がやってるのを見てたら、私もなんかしたくなっちゃった。」

カウンター越しに2人分のお金を渡してコルク弾をもらう。
並べて置かれていた銃から適当に1つを取ると、元親が待ったをかけた。

「これは火縄銃と構造は同じか?」
「え…そんなこと知らないって。玉を先の部分に込めて打つんだよ。火縄銃みたいに火薬を使うんじゃなくて、空気圧を利用してたんだと思うけど…。」
「空気圧…なら、こっちの銃の方がいいんじゃねえか?こっちの方が引鉄が重い。ってことは、反発力があるってことだろ?弾がよく飛ぶんじゃねえか?」
「よく分かるね、そんなこと。」

お店のお兄さんをチラリと見ると、少しだけ苦い顔をしている。
元親の言っている事が当たってるって証拠だよね。

「絡繰いじってるんだ。これくらいなら分かる。」
「それでも見た事ないものなのにすごいって。さすが、元親!」

ありがたく銃を交換すれば、元親は満足気に自分の銃を選んだ。

「どう使うんだ?」
「そんなに難しくないよ。ここのレバーを引いて、コルクを詰めて、引き金を引く。」

説明しながら手順を踏んでいき、景品を狙う。
重いものは落ちにくいから、なるべく軽いもので。
真ん中を狙っても動きにくいから、角を狙って回転させるようにして落とす。
小さい頃から縁日で遊んでいれば、経験上これくらいは常識で。
カウンターに両肘をつき、銃床を頬に固定し、脇をしめる。
両目で景品を狙い定め、銃口を合わせる。
反動のせいで少し銃口が上がってしまったが、ほぼ狙い通り当てることができた。

「まりどの、 すばらしいで ござる!」
「ありがとう、弁。でもね、落ちなかったからダメなの。もう1回…」

1回で落ちないのはよくあること。
同じ手順で同じものを狙うと、今度は落とすことができた。

「はい、お姉さん!なかなか上手っすね!」
「ありがとうございます!元親、やり方は分かった?」
「おう!どれ狙ってもいいんだよな?」
「うん。だけど、多分あっちの方のは落ちにくくなってるよ。」
「へっ!海賊が狙った獲物を取り逃すかよ。」

任せとけ!と胸を叩く元親はとても頼もしかったけど…。

「…こいつぁ、軽すぎる。」

あっという間に顰め面になってしまった元親が銃を睨む。

「こんなん、いくら撃っても損害なんざ与えられねえぞ。」
「…与えなくていいんだよ。落とすだけなんだから問題ないでしょ。損害を与えちゃったら、景品が景品じゃなくなっちゃうって。」
「だがよお…」
「これはゲームなの。お遊びなんだから、銃も弾も軽くていいんだって。本物と比べちゃダメ。」
「…」
「どうする?もう止める?」
「いや、獲物を前にして尻尾を巻いて逃げるかっての!軽い事は分かったんだ、扱いに慣れりゃいいだけだろ?」
「うん。」
「まりはどれが欲しいんだ?」
「え、私?そうねぇ…」

こういうところの景品って子供向けが多いから、正直あまり欲しいものなんてないんだけど。

「じゃあ、駄菓子がたくさん欲しいかな。」
「菓子だあ!?」
「だって家にあっても困らないし、会社のみんなにお裾分けもできるし。あ、そんな量は取れないか…。」
「おまっ…」
「私の残った弾もあげるから、頑張ってね!」
「…まりよお、目ぇかっ開いてしっかりと見てるんだな。」

…え。
何でそんなにムキになってるの?
ぐっと真剣な目つきをして、両足をしっかりと開いて体を固定して。
すごい、全然ぶれない。
撃った後も体が揺らぐことがなく、カタリ、カタリと物が落ちていく音が止まることもない。
ウソでしょ…。
初めてで百発百中なんて。
何者なの、元親って!?
あ、戦国武将様か…。
もう、ただ見つめることしかできない。
出されたコルク弾がなくなるころには、お店のお兄さんの方が悲鳴を上げていた。

「お兄さんっ!もう勘弁して下さい!!」
「あ…?なんでえ、もう終いにしろってか?」
「上手すぎっす!景品がなくなっちまいますって!!」
「…仕方ねえなあ。」

屈託のない笑みでお店のお兄さんから景品がどっさり入った袋を受け取る。

「ほら、まり。やる。」
「全部!?元親の分は?欲しいものはないの?」
「俺はいい。それより、見直したか?」
「見直すって?」
「『取れないか』って挑発してきただろ。」
「は…!?あっ、あれはそんな意味で言ったんじゃなくてっ!」

まさかそんな風に取るとは思わなかった。
コルク弾が少なかったからどんなに頑張ってもたくさんは取れないでしょ、って意味だったのに。

「…何かごめん。」
「謝るようなことじゃねえだろ?気にすんな。で、見直したか?」
「見直したどころじゃないよ!かっこよかったよ。」
「だろ!?」
「うん。撃っている時の姿がすっごく絵になってた。ホント、かっこよかった!ずっと見つめてたよ。」
「そうか。なら、よし!」

わしわしと私の頭を撫でる元親は、上機嫌に鼻歌なんか歌っていて。
さっきまでの元親と違いすぎて、胸がドキリと跳ねた。
…これがギャップ萌えというものでしょうか?
心臓に悪い。


2018.11.19. UP




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夢幻泡沫