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それは、甘い

07



下におりたくない。
ベッドで寝返りをうちつつ、階下の様子に耳をそばだてる。
いや、そんな能力ないですけど!
人が動く気配とか読めないですけど!!
人がいるかいないかなんて分からないですけど!!
枕元にある時計を見れば。
…まだぐっすり夢の中にいてもいい時間ですよ?

「でもなぁ。確かめとかないとなぁ。」

しょうがない、と部屋のカーテンを開ける。
朝日を体に浴びて頭を働かせ始めてから、部屋を出た。

「いないでよぉ、いないでよぉ…」

呪文のようにブツブツと唱えながら、音を立てて階段を下りる。
万が一イケメンズがまだいたとして寝ていても、足音を聞けば起きるだろう。
そうじゃなきゃ、武将じゃない。
ふぅ…とお腹から息を全部吐き出し、新しい空気をめいっぱい吸い込んで。
覚悟を決めてドアを開けたら、足に衝撃が走った。

「まりどのっ! かわやへ いっても よいで ござるか?」
「え?廁…あぁ、トイレね。どうぞ?」
「あいすまぬっ!!」

弁丸君が飛び出していく。
その後を、梵天君、松寿君が先を競うように飛び出していった。

「…あいつら、ちゃんとまりとの約束を守ってずっと待ってたんだぜ?」
「あぁ…それは可哀想なことをしました。と言うか、戻れなかったですか。」
「みてえだな。因みに俺もそろそろ限界。」
「ちょっ!?いい大人がおもらしなんて情けないことしないでくださいね!?」
「おう、持ちこたえてみせらあ。」

長曾我部さんがリビングを出たのを筆頭に、大人組もトイレへと続く。
その中に猿飛佐助がしれっと混ざっていて、思わず顔をしかめてしまった。

「はあー、 まに あったで ござる。」
「お待たせしてごめんね?弁丸君。」
「なんの。 まりどの、 おはようございまする!」
「はい、おはようございます。元気なあいさつをありがとう。」
「ぼんてんまるどのも しょうじゅまるどのも、 あいさつを するで ござる。」
「あ、あぁ…おはよう。」
「おはよう、梵天君。」
「貴様、起きるのが遅いわ。」
「…この時間は私達にとってはじゅうぶん早いのよ、松寿君。」
「日輪に対して申し訳なかろう。」
「日輪?あぁ、お日様のこと?松寿君はお日様が好きなのね。」

それなら、と窓を開けて庭へ出られるようにする。

「…出てもよいのか?」
「もちろん、どうぞ。大きいだろうけど、そこのサンダル使っていいから。」
「さん、だる?」
「履物。下駄みたいなのがあるでしょ?」

うん、松寿君は賢いらしい。
見当をつけて履いたソレ、まさしくサンダルって言うのよ。
覚えてね?
で、何をするか見ていれば。
両手を空へ高々と持ち上げ、日光をわが身に集めるように真っ直ぐにのばす。

「おお、日輪よ…」

…えぇと、戦国時代には日輪教なるものがあるのでしょうか?
目の前の松寿君は完璧に信仰者そのものだよ…。

「おっ、あいつまた始めやがったのか。」
「…長曾我部さん。またって?」
「松寿のやつ、毎朝お日さんを参拝してるんだぜ?今朝はまりが部屋から出るなって言ったから、この透明な扉を恨めしそうに睨んでたぞ。すげえな、お前。松寿を我慢させるなんて。」

クツクツと笑いながら長曾我部さんが隣に立つ。

「松寿君、いい子っぽそうですけど?」
「今に見てろ、本性を現しやがるぜ。何度あいつに煮え湯を飲まされたことか。」
「…長曾我部さんが、松寿君に?大人、が子供に…ですか?」
「違え違え。元の世界ではあいつらもとっくに元服を済ませてたんだよ。だから、正確に言えば『毛利の野郎』だな。」
「退け。図体のでかい貴様がそこにいては、我が入れぬだろう。」
「おまっ、小せえ頃から可愛げがねえなあ。」

ピクリとこめかみをひくつかせた長曾我部さん。
これは、何か因縁があるな。
まぁ、機会があったら聞いてみるか。

「松寿君、松寿君。」
「…何ぞ。」
「窓の開け方、教えておくね。そしたらいつでもお庭に出られるでしょう?」

あれ?
松寿君が驚いたように私を見ている。

「え?どうかした?」
「…我に教えてもよいのか?勝手に出て行くやも知れぬぞ。」
「だから、それは構わないの。敷地内は自由にしてていいんだから。」
「松寿。さっき言ったと思うけどよ、まりの部屋はいくんじゃねえぞ。」
「貴様に言われんでも、分かっておるわ。我の名を気安く呼ぶでない。」
「可愛くねえっ!」
「ふん。鈴沢、早う教えぬか。」
「あ、うん。」

長曾我部さんを鼻であしらうってすごいなぁ。
なんて思いながら窓を一度閉める。

「まり、俺も見てていいか?」
「もちろんです。覚えたら他の人にも教えてあげてください。」
「任せとけ。」
「鈴沢、早うせよ。」
「はいはい、ごめんね。では。」

松寿君が大人を小馬鹿にしたような態度を取っても何だか許せちゃうのは、その表情。
未知のものが怖い。
けど、興味はある。
そんな気持ちが綯い交ぜになったのを見ちゃえば、『あらあら、うふふ』ですませられちゃう。
あれだよ、松寿君はツンデレ属性なんだよ。
早くデレを見たい!
にやけた頬をにこやかに変え、動作を一つずつ確認する。
これをね、上にあげるの。
で、今度はこれをキュってして。
ほら、空いたでしょ。
閉める時は逆の手順ね。
説明の途中途中で確認を取るように松寿君を見ると、私の手を神妙に目で追いつつ手が上がっている。

「やってみる?」

あ、無言だけど頷いた。
場所を譲ると、確かめるようにゆっくりと覚えた動作を再現した。

「すごい!1回で覚えてるっ!!」
「…当然ぞ。」
「わっ、…さっそくデレをいただきました。」
「でれ?よく分かんねえが…まり、騙されんなよ?こんなの可愛くねえからな!?」
「煩い、馬鹿鬼。」
「酷えっ!!」

長曾我部さんに悪態ついている松寿君だけど。
開けたドアの幅は、3センチ。


2017.08.14. UP




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夢幻泡沫