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それは、甘い
08
さて、と。
顔を洗えば少しだけさっぱりとした。
「まずは、と…」
何をしようかな。
そう思った時、可愛い音が聞こえてきた。
え?と見ると、顔を真っ赤にした弁丸君がお腹を押さえている。
「…すみませぬ。」
うわっ!
すっごい可愛いんですけどっ!!
恥ずかしそうに泳ぐ目がちらりちらりと私を見る。
「ふふっ。いいのよ、お腹が空いて当たり前なんだから。昨日から何も食べてないもんね。じゃあ、まずは朝ご飯にしようか。」
「あさごはん?」
「そう、朝餉。」
「おおっ!!」
途端に目を輝かした弁丸君、ホントに可愛いんですけどっ!!
「じゃあ、片倉さんと…猿飛さん。また一緒に来てくれますか?」
若干1名、すっごく不本意だけど。
「皆さんはまたしばらく待っていてください。あ、その前に…」
朝の習慣。
テレビでニュースチェックを。
そう思って、リモコンを持って。
いざつけようとボタンに指を乗せて。
「…先に言っておきますね。」
自分の後ろにいるのは戦国武将だとハッとした。
「これから、皆さんにとって奇妙な事が起こると思います。でもこの世界ではごく普通の事なので、慌てず騒がず落ち着いて…冷静沈着でいてくださいね。」
「お、おお…」
これで『知ってるぜー、それテレビって言うんだろー!イエーイ!!』とか言われたら、即追い出す!
家から出ても十分にやっていける!!
変な緊張感を持ちつつ、スイッチを入れた。
「おっ、 おおっ!? さすけ、 いたの なかに ちいさき ひとが うごいて おる!」
「弁丸様、下がって!!」
「梵天丸様も俺の後ろへっ!!」
「…」
「め、めめ…めん、面妖な…」
「すげえっ!ただの板だったはずなのに急に人が出てきたぞっ!?」
「…慌てず、騒がず、落ち着いて。…と言ったはずですが?」
走り寄ろうとした弁丸君。
腕を掴んで止めたのが猿飛佐助。
ものすごい形相で睨みつけている片倉さん。
あの、テレビに向かってそんなメンチ切られても…。
怖いです。
私が泣きそうです。
庇われた背中越しにちらっと見える梵天君。
及び腰になっている松寿君。
飛びついた長曾我部さん。
…ふぅ、セオリー通り。
冷静沈着はどこにいった!?
「それはテレビと言います。遠く離れたものやあらかじめ記録しているものなどを、画面に映して伝達したり紹介したりできる機械です。長曾我部さん、離れてください。そんなに近くで見ていると、目が悪くなる可能性があります。」
「あ、ああ。すまねえ。」
「私が持っているリモコンで操作します。つけたり消したり、色々なチャンネルに変えることもできます。自分が見たいものを選ぶことができるんです。」
ポチポチと押していくつかチャンネルを変えるたびに、おおっ!と小さな歓声が聞こえてきた。
「なあ、これ分解していいか?」
妙にわくわくした瞳で私を見るのはやめてください、長曾我部さん。
なぜ分解するんですか?
え、その必要ある?
「ダメです、やめて下さい。」
「…」
「…なんでそんなにがっかりするんですか?」
「鬼の旦那は絡操いじりが趣味だからね〜。」
「いじってるんじゃねえ!作ってるんだ!」
「…長曾我部さん。この時代はこういうもので溢れ返っています。それを頼りに生きていますので、なくなると困るものばかりなんです。」
「…そうか。」
「私で分かる範囲は説明しますので、それで我慢してもらえませんか?」
「おう。」
「ありがとうございます。じゃあ、テレビはつけっ放しにしておいてください。見るのなら、少し離れて見てくださいね。」
リモコンを持ったままキッチンに向かう。
チャンネルはそのままで。
「朝ご飯、朝ご飯。片倉さんと猿飛さんにはまた見ててもらいます。」
何にしようかな、と冷蔵庫を開けて…
閉じた。
ヤバい…。
そうだ、そうだったよ…
「…どうした?」
動きの止まった私に、片倉さんが胡散臭げな目を向ける。
「…」
「まりちゃん…?」
…何で猿飛佐助はいきなり馴れ馴れしくなってんの?
名前呼びなんてされたくないんですけど!
と、それは今は置いといて…
「鈴沢?」
「…大変言いにくいんですが…」
「ああ?」
「私、ここしばらく家にあまりいなかったんです。」
「…それがどうした。」
「家には、寝に帰ってきてたようなものなんです。」
「うん。それで?」
「あ、の…ですね…」
「はっきり言え。」
「…食材がほとんどない状態なのをすっかり忘れていました。」
「あらら…」
「ですので、朝食…朝餉はとても質素なものになってしまいますが、よろしいでしょうか?」
「気にするな。出してもらえるだけありがてえ。」
「すみません。」
ペコペコと頭を下げ、もう一度冷蔵庫を確認する。
「…その箱は?」
「冷蔵庫と言います。ここに食材を入れて保管すると長持ちするんです。えぇと…氷室?みたいなものだと思ってください。」
「それも機械なの?」
「はい。」
中身を確認しながら説明をする。
と言ってもすっからかんもいいところだけど。
あぁ…初めての食事がこれって。
失礼なんじゃないかな、ホントに。
うん、いろいろ諦めるしかない。
2017.08.21. UP
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夢幻泡沫