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それは、甘い

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「…きれいで こざるな。」

弁の大きな瞳に光が反射する。
梵も松寿も引っ張られるように目線が上を向いている。
暗いとまではいかないが、陽が落ち切り残照も鳴りを潜めた夜天に咲く花。
その後に聞こえてくるお腹に響く爆発音。
『戦か!?大筒か!?』と鋭くなったみんなに説明をすること暫く。
次々と空に開く明るい花に、武将ズはようやく腰を落ち着けて見るようになった。
テーブルにはおつまみ。
手元には冷酒。
ダークブルーには花火。
子供達は前を陣取り、お菓子やジュースを口にしつつ。
大人組はその後ろでちびりちびりと傾けつつ。
これ、なんて最高!

「でっかいねー。」
「ふふっ。もっと大きいのもあるんだよ。」
「うそだろ!?」
「ホント。」

頭上に煌めくのは色鮮やかな大輪の花。
短くも誇らしげに深紺を明るく染める。

「いろんな種類があるようだな。単色もあれば複色もあるし、形だって様々だ。」
「はい。小十郎さんはどんなのが好きですか?」
「俺か?俺は…どうだろうな。初めてみるものだから好みを聞かれても分からねえ。」
「そっかぁ。そうですよね。」
「まりちゃんはどうなんだい?」
「私?」

ぐび、とお猪口を空にした慶次が聞いてくる。
そこへお酒を注ぎつつ、これまで打ち上げられた花火を思い出してみた。

「…そうだなぁ。菊…かなぁ。」
「菊?はなびとやらに名前があるのか?」
「うん。菊はね、カラフル…いろんな色が放射状に広がるアレ。大きいし、華やかだし、これぞ花火って感じしない?」
「他にはどんなのがあるの?」
「ホントにいろんな種類があるみたいなんですけど、私も詳しくないので…。尾を引くように降っていく柳とか、椰子とか。いろんな形を作り出す型物とか。チリチリと動いて広がる蜂とか。あとは菊みたいに広がるんですけど玉になっている牡丹とか。他にもスターマインとか滝とか土星とか…名前は知ってるんですけどね、どういう仕組みかは知らないんです。」

佐助さんの質問に、知っている名前をつらつらと挙げる。
でもホントに名前だけだから。
作り方とか由来とか全然知らないからね。
ツッコミはなしでお願いします。

「まりの説明だと、俺ぁ『蜂』とやらが気に入ったぜ。あの動き方が面白え。」
「あぁ。元親、ああいうの好きそうだね。」
「俺はまりちゃんと同じ『菊』かなー。祭り!って感じで華やかだろ?」
「うん、うん。分かる。」
「それがしも 『きく』が すきで ござる!」
「弁。」
「まりどの、 つぎが うちあがりませぬが… もう しまいなので ござるか?」
「うぅん、たぶん最後の花火玉をセットしているんだと思うよ。そろそろフィナーレの時間だから。」
「なれば、区切りの最中ということだな。」
「うん。松寿は気に入ったのあった?」
「特にはあらぬ。日輪の如きはなびがあれば別なのだが。」
「…それはない、かな。」
「つまらぬものだ。」

…だってお日様のような花火って。
それってただの照明弾じゃない…?
そんなの打ち上げちゃったら、他の花火を楽しめないよね?
子供達は一休憩に入ったのが分かると、わらわらとテーブルに集まった。
ジュースを注ぎ足したり、おつまみに手を伸ばしたり。
小十郎さんや佐助さんがあまりいい顔してないけど、今日ぐらい大目に見てあげて。
楽しいでしょ?
みんなで同じものを観賞しながらワイワイするって。
隣に座った梵の小皿にトリカラを乗せてあげれば、『さんきゅー』と軽やかに返ってきた。
最近、梵は英語に興味を持っているようで。
単語や片言をよく口にしている。
ルー某なんて引き受けた覚えないんだけどなぁ。
だけどまだまだ日本語的な発音が可愛くて、私もついつい片言で返事をしたり話しかけたりしちゃう。

「Is these yammy?」

なんて簡単なものだけど。

「やー!」
「よかったね。梵は花火で気に入ったのあった?」
「おれは『ぼたん』だ。あの派手さは伊達に似合う。」
「ふぅん…そうかもね。菊だったら牡丹の方が梵には似合いそう。」
「だろう?」
「うん、パッと華やかに咲いて目に焼きついてしまう感じ。うん、なんか梵らしい。」

何かが吹っ切れたらしい梵は、あの日を境になんにでも挑戦するようになった。
弁と争うようにしてチャレンジする姿を見るたびに、小十郎さんが嬉しそうにしている。
…まあ、子供だからセーブが効かなくてしょっちゅうやりすぎて怒られているんだけど。
でも、その方が自然体でいい。
そう思いながら、野菜スティックと小十郎さんのもろ味噌を梵のお皿に乗せると顰め面が返ってきた。
でも梵は文句言わないもんね?
取り分けられたものはちゃんと食べるもんね?
じぃっと梵を見つめていれば、渋々と口に運ぶ。
全部飲みこんだところで頭を撫でると、笑顔を見せながら擽ったそうに首をすくめた。

「まりどの! それがしに きくは におうて おりまするか?」

梵との会話を聞いていたのだろう。
弁が反対側からずいと顔をのぞかせてきた。

「うん、似合ってる。牡丹に負けず劣らず華やかで、少しでも大きくなろうと広がっていく感じが弁にそっくり。」
「それがし、 おおきく なるで ござる!かならずや、 りっぱな ぶしょうに なって みせましょうぞ!!」
「ふふっ、期待してる。」

弁にも野菜スティックを差し出せば、美味しそうにパクリと齧りついた。
夜空を再び花火が賑わす。

「まり。この酒、飲んでもいいだろ?」
「え?あぁ、うん。どうぞ。ちゃんと冷えてる?」

いつの間にか室内に戻っていた元親が新しいお酒を抱えながら声をかけてきた。

「おう!美味そうだ。」
「それは…越後のお酒だね。辛口でスッキリ飲めるって評判なんだよ。」
「いいねえ。と、そうだ。まり、すまほが光ってたぞ。」
「あ、ホント?ありがとう。」

ほらよ、と渡されたスマホには確かに不在着信が光っていて。
みんなの輪から少し離れて折り返しをかけたら、すぐに相手は出た。
挨拶もそこそこに切り出されたのは、とんでもないことで。

「はあっ!?」

思わず大声で聞き返してしまった。
背後ではフィナーレの乱れ打ちが始まっていて。
たたみかけるような光と轟音の連発は、まるでマンガのように私の心情を表していた。
だから、何度でも言うけど。
私は平穏に暮らしたいだけなんだって!!


2018.12.03. UP




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夢幻泡沫