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それは、甘い

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「…あの、ですね。」

若干気まずい空気の中、恐る恐る切り出したのは私。
『指切り』を使っちゃったのだから、私が帰るのは絶対なんだけど。
どうしたもんかなぁ…。
因みに会社の方は問題ない。
毎年この時期は夏季休暇を貰っているので、今年も実は既に取っていたのだ。
だって武将ズが来るなんて思ってなかったし。

「何かあったのか?」
「はい。実は…実家に帰らなくちゃいけないことになって…」
「…随分と急だな。」
「ですよね。それで、その…ここを1週間ほど離れたいんですけど…」
「いやで ござるう!!」

がばっと立ち上がったのは弁で、そのまま腰にタックルしてきた。
うん、気合の入った突撃をありがとう。
お姉さん、強烈なアタックを受け止めきれるかな…うふふ…。

「ちょっと、弁丸様!まりちゃん倒れちゃうから!」

たたらを踏んだ私を支えながら佐助さんが弁に注意をする。

「…ありがとうございます、佐助さん。」
「弁丸様がごめんね〜。さっきのでんわってやつ、その話だったの?」
「はい。弟からだったんですけど、人が足りなくなっちゃったから助けて欲しいって…」
「人?人手が足りねえってことか?」
「そうなの、元親。」
「何のための?」
「前に大きなお祭りがあるって言ったでしょ?それでいろいろ準備してたんだけど、中心となっている人がケガしちゃったみたいでね。代わりを私にしてくれないかって。」
「抜擢されたってこと?」
「抜擢…になるのかなぁ。昔は私も関わってたから今からでも大丈夫でしょ、ってことらしいよ。」
「祭りかー。まりちゃんのところの祭りって名の知れたもんなんだろ?観てみたいなー。」

…やっぱりそうなるよね。
慶次はお祭り好きって言ってたし。

「祭りか。おれも行ってみたい。」
「梵天丸様…しかし…」
「まりが一人で行くのは許さぬ。されど、まりは行かねばならぬのであろう?なれば、我も共に行ってやらぬこともないわ。」
「おっ!松寿、それはいい案だな!まり、俺も行くぜ。」
「もちろん俺もー。」
「それがしも いくで ござるっ!!」
「じゃあ、俺様も。」
「小十郎、行くぞ。」
「…は。」

えぇと、拒否権は…
あ、ハイ。
ないですね。
と言うわけで、半ば強制的にみんなを連れていくことに決まった帰省。
武将ズは長期外泊の用具なんて誰も持ってないわけで。
急遽、ボストンバッグやらスポーツバッグやらリュックやらを購入して。
当然子供達は同じデザインの色違いリュックですよ、ホント色違い最高!
夏でよかったなんて言いながら服やアメニティなどを詰め込み。
慌ただしく車のレンタルや準備を1日でやり終えて、その次の日。
つまり、今に至るわけで。

「…元親、分解した瞬間にこの車が壊れてみんな死んじゃうからやめて。」
「…おう。」
「着くまでまだたくさん時間かかるから寝てていいよ。」
「いや、見ているだけでも楽しいぜ。まりの運転も、周りの景色も。」
「そう?あまりじっと見られると手元が狂って事故りそうだから、見るなら私にバレないように見てね。」
「難しい注文だな…。」

そんなことないでしょ、見なければいいだけの話なんだから。
高速ってちょっとのミスで大惨事になりかねないから、いつも以上に神経を張らなきゃいけないんだよねぇ。
周りの車もビュンビュン飛ばすし。
適度な休憩、大事!
SA、PA、大事!!
そこで売っている、ご当地ならではのお土産や食べ物も楽しみの一つなんだよね。
半分ぐらいそれが楽しみで寄っている節もあることだし。
集中力が切れそうになるたびに休憩をして、限定品を買ったり、出店の食べ物を食べたり。
小十郎さんと佐助さんに呆れられ、怒られながらも、ご当地品を楽しんだ。
そんな事をしている間に、景色は人工物がほとんどない自然だらけになって。
緑の中を走っていけば、周りは山に囲まれて。
時々現れる地方都市にも満たない小さな市街地を何度も横目に通り抜ければ。
山あいの盆地にある小さな町、そこが私の故郷。
観光産業を中心に暮らすのどかな集落。
ただ、この時期だけは異様な熱気を見せつける。
私の愛すべき故郷。
久し振りの帰省に頬が緩んだ。
高速を降りて一般道を走らせている間に、みんなと最終確認をする。

「覚えていますか?私とあなた達の関係は?はい、真野さん。」
「…しゅみの… ええと、 さ… さ…? さすけえっ!」
「趣味のさあくるで知り合って仲良くなった、でしょ。弁丸様。」
「その通りです。真野さんのフォローをよろしくお願いしますね、猿野さん。」
「了〜解…だけど、変な感じだね〜。」

ポリポリと頬を掻く佐助さんをルームミラー越しに見る。

「本名だと流石に不審に思われてしまいますからね。すみませんが、我慢して下さい。」
「大丈夫だよ、まりちゃん。みんな分かってるって。」
「ありがとう、前野さん。じゃあ、一緒に来た理由は?はい、伊野さん。」
「名高い祭りをみるためだ。ゆーしー?」
「正解。」
「立派にございます、梵天丸様。」
「くーるだろ?」
「は。」
「…梵はどこかの会社の跡取り息子、小十郎さんはその会社社長の秘書って設定を加えますね。すぐに覚えてください、片野さん。」
「分かった。」
「弁と佐助さんも同じ設定がいいかなぁ?覚えられます?」
「お任せあれってね。」
「松寿はご両親と私が会社の仲のいい同僚で、夏休みの宿題の一環で連れてきてもらった設定だったよね?」
「分かっておる。」
「じゃあ、松寿と元親の関係は?」
「…」
「毛野さん?」
「…」
「松寿の両親と俺が仲良くて、仕事で来られない両親の代わりに俺。だろ?ついでに、俺とまりは顔見知りの仲だ。」
「その通り、長野さん。…松寿、大丈夫だよね?」
「…」
「松寿?」
「…分かっておるわ。」
「オッケー。」

それぞれの設定を確認し合い、頷く。
1週間、隠し通せるか…。
頼むよ、みんな。
少しだけ遠い目になりながら、懐かしの道程を進んだ。


2018.12.17. UP




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夢幻泡沫