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それは、甘い

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町の中心より少し離れた場所で車を降りる。
レンタカーはここまで。
店員さん、と言ってもこの町の出身者だから顔なじみの人。

「あら、鈴沢さんちのまりちゃんじゃない。今年も帰ってきたのね。」
「そうなんです。毎回毎回レンタカーではお世話になっています。」
「無事でなによりよ。おかえりなさい。」
「ただいまです。」
「後ろの人達は?まりちゃんの知り合い?二枚目が多いわねえ。」

…ほら、早速お出ましだよ。
田舎って、町中知り合いだらけなんだよね。
町ぐるみで子供を育てるようなものだから、小さい頃から知られてしまっている。
年頃になれば、男女関係なく誰でも半ばからかわれるように聞かれるこの話題。

「…まあ、ちょっと。お祭りに興味があるって言うので、観てもらおうかと。」
「あら、急に決まった事なの?この時期にそんなことできるなんて、幸運な人達ね。」
「ホントですよね。感謝してもらわなくちゃ。」
「その中にまりちゃんのいい人はいるのかしら?」
「…さあ?ご想像にお任せします。」

耳打ちしてきた店員さんに苦笑を返し、車内に荷物を残していないか確認する。

「それじゃ、家に帰ります。またお祭りの時にでも。」
「気をつけてね。」
「はぁい。」

使い慣れたキャリーバッグをゴロゴロと引き歩く私の後ろに、慣れないバッグを背負ったり持ったりしながらイケメンズが続いた。

「…さっきの人、知り合い?」
「うん。と言うか、この町の人はほとんどが顔見知りか知り合いだよ。」
「へー、そうなんだ。」
「小さい町だからね。それに、代々ここで生きている家が多いから。」

スポーツバッグを斜めがけにした慶次が横に並んで聞いてくる。
こうして見ると現代人そのもの。
他の武将ズもすっかり馴染んでいて、違和感がなかった。

「…ここは俺達の世界に似ているな。」
「似ている?小十郎さん、どういう事ですか?」
「街並みがどこか懐かしい。道は石畳と立派だが…家や店は見慣れたものが多い。着物を着ている奴も多い。それに、あれは…城だろ?」

そう、この町のシンボル。
山頂に佇む、こもりくの城。

「着物を持ってきて正解でしょう?お城には後で町を散策しがてら行きましょうね。中は博物館のようになってしまっていますけど。」
「まりが住んでいるあそことは違うな。」
「この町は昔ながらの家や建物が多くて、国から『保存に努めなさい』と指定されているんです。住んでる人達もそれを誇りに大切に守っています。小京都、なんて言われる事もあるんですよ。」

良い事も悪い事もすぐに噂になるのも田舎ならではで。
そしてこの町は観光に力を入れているから、知り合い同士協力し合うのは当然のことで。
だからこそ悪い事はしないし、できない。
お年寄りは敬われ、壮年者が町の中心になり、若者が動いて盛り上げ、子供達は素直に育つ。
そうしたことを脈々と繰り返し保たれてきた町なのだ。

「あー、何となく京に似ているかも。顔なじみが多いってのも京に似てる。」
「ふぅん、そうなんだ。慶次がそう言うなら、もっと自信が持てるね。さっきも言ったけど、町全体が知り合いなの。だから、同じような事をたくさん言われるからね。覚悟しといて。」
「同じような事?」
「『男前が多いね、誰がまりのイイ人なの?』って。たぶん、会う人会う人に言われると思うよ。」
「俺は構わねえぜ。」
「私が構うの。元親達、絶対に注目の的だって。はぁ、もう…」

そんなこと言いながら歩いている間にも、『まりちゃん、お帰りなさい』とか『おっ、ようやく帰ってきたのか』とか『イイ男達つれてるね』とか…。
観光客だって多い中、一声かけてくれるのは嬉しいけど。
内容がねぇ…まぁ、それだけ仲間意識を持ってくれてるってことなんだろうな。
うん、ポジティブに考えよう。
『ただいまです』『どうも』など当たり障りのない返事をしながら進むこと十数分。
懐かしの門が見えた。
敷地内には2つの戸建て。
その片方の玄関を開けて、私は奥にいるであろう人達に声をかけた。

「ただいま。」

木造のきしみを時々鳴らせながら顔を出したのは母親で。

「あら、お帰りなさい。思ったより遅かったのね。」
「休憩たくさんしてきちゃった。」
「どうせ買い食いばっかりしてたんでしょ。」
「だって美味しいんだもん。いいじゃない、たまの帰省ぐらい好きにさせてよ。」
「はいはい、ぶーちゃんにならない程度にね。それより…」

キラリと母親の目が光る。
あぁ、この先の展開が…

「随分とハンサムさんを従えているじゃない。どなたがまりのお相手さん?」

…デジャヴかな、これ。
答えたくないんだけど。

「…ハンサムって…久し振りに聞いたよ、その言葉。誰も違うから安心して。」
「安心なんてできるわけないじゃない!あんたねー、いい年した女がいつまでも一人でフラフラと…」
「お客さんの前でそういう話はやめてくれる?」
「まりがお相手を連れてきたら、私もこんな話はしないわよ。本当にこの人達の中にいないの?素敵な方達じゃない。お母さん、歓迎するわよ!?」
「彼氏じゃなくても歓迎してほしいんだけどなぁ…」
「もちろんよ!ようこそ、いらっしゃいませ。まりの母です。」

勢いに押されているのか、引き気味になっている武将ズに母親がにこやかに挨拶をする。
一番早く立ち直ったのは佐助さんで、人好きのする笑みを浮かべて挨拶を返していた。
…さすが、としか言いようがないと言うか。
それを皮切りにまず大人組が挨拶を返し、続けて子供達も挨拶をする。
私は挨拶に合わせて彼らを紹介した。

「それで?倭はどこ?」
「練習に行ってるわよ。」
「帰ってこいって言った本人が出迎えなしなの?」
「そんな余裕もないみたいよ。まりも一息ついたら行きなさいよ。あの子達も喜ぶわよ、きっと。」
「私じゃなくてもいいと思わない?何が悲しくて現役から何年も退いてる私が…。」
「でも負けるのは許さないんでしょ?」
「当然。」
「それなら、まりもやるしかないじゃない。年齢ギリギリだけど、きっと何かの役には立つでしょうよ。鈴沢の家に泥を塗るような真似だけはよしてね。」
「…久し振りに返ってきた娘に対して手厳しいお言葉を。」
「それがこの町に生まれた者のさだめだから。」
「はいはい。」
「おじいちゃんとおばあちゃんがお待ちかねよ。」
「うん。挨拶とお願いをしてくる。それが終わったら鎮守さまにご挨拶に行って、町を案内して、それから練習かな。」
「一応期待されているんだから、早く顔を出してあげなさいよ。」
「倭、お昼にはいったん戻ってくるんでしょ?」
「らしいわね。」
「それなら、私達もお昼に戻ってくる。そしたら、練習は午後から行こうかな。」
「分かったけど、随分と余裕ねえ。」

私の荷物は自室へ置き、武将ズを連れてもう1つの実家へ。
お父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃん、ついでに弟よ。
騙すようなことをしてごめんなさい。
でもホントのこと言っても信じられないだろうし。
1週間ぐらいだから、うまく騙されてね?


2018.12.24. UP




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夢幻泡沫