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それは、甘い
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鎮守さまが麓にあれば、山頂にはお城があり。
何百年も町を見守っている。
お城へ行ってみますか?と聞くと、行くとの答えで。
まぁ、そうだろうね。
割と勾配のある古道を進み始めるとすぐに見えてきたのは苔生した石垣。
それをなぞるようにさらに進むと綺麗にされた石垣に案内役が変わり、しばらくして虎の口が見えた。
「…立派な縄張りだ。」
「小十郎さん?」
「自然を見事に活かしている。城の南には崖、東には掘切。他は分からねえが、
城への道が少なそうだ。守るに易く攻めるに難い、治めるには最上の地だ。」
「確かに。そんなに高い山じゃないけど、攻めるのは難しそうだね〜。」
「攻めないでください。このお城は町のシンボル、象徴なんですから。」
「城も立派なもんだな。」
「ありがとう、元親。天守は建てられた当時のままじゃないけど、石垣は昔からのものなんだよ。」
「この世界の我らの時代のもの…と言うことか?」
「うん、松寿。そう思うと、何だか感慨深いよねぇ。」
虎の口前は広場になっていて、町を見下ろすことができる。
お城に上った方が見えるけれど、博物館になっているから。
今までなんだかんだで隠していた歴史を、知られてしまうことになる可能性が高いからなぁ…。
「…あの、お城に入りますか?」
「はいりとう ござる!」
「…それなら先に言っておく事があります。」
これは真面目な話。
変な誤解をしてほしくなくて。
トーンが変わった私の言葉に、武将ズは真剣な眼差しを返してきた。
「今は戦がないので、お城の中は昔のもの…みなさんの時代のものも展示しているんです。鎧やら兜やら
屏風やらいろいろあるんですけど、同時にこの町の歴史についての説明もあちこちにあります。」
「ふーん、そうなんだ。でも、それがどうかしたの?」
「あのね、慶次。中に入れば、今まであえて触れなかったことが分かってしまう可能性が高いの。
この世界の事だけれど…誰が天下を取り、日の本を治めたのか。その後、日の本がどうなっていくか。
そういうことが大体分かっちゃうんだけど…それでも入る?」
「…」
「あくまでこの世界の歴史だから、みなさんの世界とは違うはずです。
けれど、ある程度の流れは同じ部分もあるので絶対とは言い切れません。私は…」
「…」
…私は。
「出来れば知ってほしくありません。みなさんの未来は、みなさんが決めるものですから。
『こうなるんだ』と分かってしまっていると、取るべき行動が変わってしまう…その結果が良ければ
いいですけど、もしそうでなかったら…私は、みなさんの望む未来と違ってしまうのが怖いんです。」
「…」
「みなさんの未来は、それぞれに決めて欲しいです。」
「…あいしー。まりがそう言うなら、おれは入らないぜ。」
「梵…」
「おれの未来はおれが決める。これでいいんだろ?おれにはまりとの約束がある。
それをまだ果たしてないのに、結末を知る必要はない。」
「…ありがとう、梵。」
「それがしも はいらぬで ござる!それがしとて まりどのと やくそく しもうした!
その やくそくに わかっておる ゆくすえなど いらぬ!」
「弁…弁もありがとう。」
…この子達はホントに優しい子。
まだこんなに小さいのに、私の気持ちを汲み取ってくれる。
「我も入らぬ。」
「松寿…」
俺も、俺も…とみんなが続いてくれ。
「…隠すようなことをしてごめんなさい。それから…ありがとうございます。」
「気にするな。俺達のことを慮って言ったことだろう?気遣いばかりさせてすまねえな。」
「ありがとうございます。そしたら、ここから町の説明をしますね。」
お城からは低い位置だし、鬱蒼と生えている木も中々に邪魔なのだが、虎の口前からでも町は見渡せる。
ポイントになる場所を指でさしながら、1つずつ説明をした。
「これからお祭りまで、私は練習漬けになると思います。せっかくこの町に来たんだから、
みなさんは自由にあちこち見て回ってください。」
「えー!?まりちゃんの練習は見ちゃいけないの?」
「練習を見てもいいけど、同じことの繰り返しだからそのうちつまらなくなるよ。」
「でもよお、まりがいないのに散策するのもどうかと思うぞ?」
「じゃあ、おじいちゃんやおばあちゃんをお散歩に誘ってよ。そしたら町の事を話しながら見て回れる
でしょ?もちろん、みんなだけで行くのも全然構わないからね。もしこの町で迷子になっちゃったら、
『笹穂の鈴沢はどこ?』って町の人に聞いて。よっぽどの事がない限り帰ってこられるから。」
「迷子になどならぬわ。我はそこまで愚かではない。」
「万が一よ。『笹穂の鈴沢』で通じるって分かっていれば安心でしょ?」
「ふん。」
話の区切りで腕時計を確認と、そろそろいい時間。
「じゃあ、いったん家に戻りましょう。お母さんがお昼を作ってくれていると思うので。
ここにいる間は3食になってしまいますけど、食べられるだけでいいですから。」
「俺達は厄介になっているんだから、そういう事はまりのご家族に合わせるだけだ。」
帰りの道すがら、説明できるところはした。
だけど、何と言っても彼らは現役の戦国武将だから。
歴史的価値のある街並みはごく普通の街並みらしい。
…あれ、おかしいな。
そしたら観るところあまりないんだけど。
少し不満に思いながら実家まで近づくと、門に見慣れた人影が。
「…おかえり。」
「ただいま、倭。」
寄りかかって腕を組んでいたのは、弟の倭だった。
不機嫌そうに口を結び、ジロジロと私の後ろを見ている。
「…あぁ、紹介するね。お祭りを観たいって言うから一緒に来たの。」
みんなには弟を、弟にはみんなを。
武将ズはにこやかに挨拶をしたけれど、倭は『どうも』とそっけなかった。
「…で?姉ちゃんの彼氏はどれ?」
「…」
「姉ちゃん?」
「さあ…?」
「ちっ!」
紹介する時に体の向きを変えたので、倭に背を向けていた。
すると前に出てきて私を隠すようにし、何やらブツブツと言っている。
また少し背が伸びたんじゃない?
背中の位置が高くなっているような気がする。
「…何してるの?」
「こいつら全員に禿げになる呪いをかけました。」
「は…?ちょっ…なに言ってんの?バカじゃない!?アホでしょ!」
「母さんが飯だって。行こうぜ、姉ちゃん。」
こいつ…っ、私の話を聞いてないな!?
クルリと振り返って私の手をむんずと掴むと、倭はスタスタと歩き出す。
「ちょっと!待ってよ、倭!」
「しっかり食えよ。午後から練習に参加すんだから。」
「分かったから!お客さんを置いていってどうするの!?」
「…」
「ちょっと、聞いてるの!?」
「…」
「もうっ!みなさん、どうぞ一緒に!!」
門の向こうで唖然としているみんなに慌てて声をかける。
ごめんなさいと空いている方の手を顔の前で形作れば、苦笑と共に大人組の足が動いた。
2020.07.06. UP
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夢幻泡沫