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それは、甘い
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なにが はじまるかと おもえば、 まりどのに やりが わたされた。
あいうるしぬりに、 まきえざいくに、 さいくちょうこく。
この じだいにも それらが あることに かんたんしたが、 やりに ほどこすには ぜいたくでは なかろうか。
まりどのの おとうとぎみに いわせれば、 がんかけ なのだとか。
いったい、 どのような ねがいで あろう。
まりどのも おなじように おもうて おられるのか。
こちらに くる まえから きこえてきた 『かち』、 『まけ』、 『ひめ』、 『たいしょう』、 『めいよ』。
そして、 まりどのの あの おすがた。
おなごの みながら はかまを はき、 しょうとうを たずさえ、 いま てに もって おられるのは やりでは ないか。
まりどのは まつりと いわれておるが、 まるで いくさに のぞむように みえる。
なにやら くちを はさめぬ ふんいきに ようすを うかがって おれば、 まりどのが するりと たすきを かけられた。
まこと、 いったい なにが はじまるのか。
それがし、 だまっては おれぬ。
「まりどの。 いったい なにを はじめられるのか?」
「あぁ、弁。少し下がっていてね。これから腕試しをするから。」
「うでだめし?」
「そう。私の腕が今も通用するかどうか、チェックしないと。
弱い姫大将なんて足手纏いなだけだからね。」
「まさかと おもいまするが、 まりどのが やりを ふるわれるので ござるか? あぶのう ござる!」
まりどのは おなごで あろうに!
きずでも おったら どうされるのだ!
この おかたは どうして おのれの ことを だいじに されぬのか!!
「まりどのが そのような ことを する ひつようは ござらん! それがしが かわりに…」
「姉ちゃん、まだ?」
「あぁ。ごめん、倭。すぐ準備するから。」
「邪魔するようならそいつら出ていってもらうぞ。こっちは時間がないっつうのに…」
「ごめんって。…ほら、弁。後ろに下がって。大丈夫だから。」
「なれど…っ!」
「佐助さん、弁をお願いします。」
「本当に大丈夫なの?」
「大丈夫ですって。」
にがわらう まりどのに ためいきを はきつつ、 さすけが それがしを ひょいと もちあげる。
「ですって、弁丸様。邪魔にならないように下がってましょうね〜。」
「おのれ、 さすけ! はなさぬか!!」
「はいはい。まりちゃんの邪魔になっちゃうからね〜。」
やめぬか!
それがしは にもつ などでは ござらん!
やめねば げんきゅう いたすぞっ!!
「あっ、こら!弁丸様、暴れないの!」
「はなすで ござるっ!!」
さすけの うでの なかで もがいている あいだに、 まりどのの まえに なぎなたを もった やからが たって しまった。
「まりどのっ!」
「チビ赤、うるせえ!」
「しかし…」
「これで姉ちゃんが負けるんだったら、姫なんてさせねえ。
姉ちゃんの今の実力を測るためでもあるんだ。」
「なれど、 けがでも おわれたら…」
「それも実力のうちだ。相手の人にはわざわざ巴から来てもらってんだ。
姉ちゃんの腕がどれくらいなもんか、黙って見てろ。」
おとうとぎみに じろりと にらまれ、 おもわず ことばが ひっこんで しもうた。
…ううっ、 するどき まなこで ござる。
おとうとぎみは おそろしい おかた なのだろうか?
おやさしき まりどのとは あまり にて おられぬ。
まりどのの おとうとぎみは、 ささほの そうだいしょうと もうされた。
そうだいしょうとは、 おやかたさまと おなじ おたちばで あろう?
なれば、 おとうとぎみの おっしゃられる ことには したがわねば ならぬ。
…それがしは みじゅくで ござる。
おしたい しておる おかたを たすける ことも できぬとは…。
むねの うちが もやもやと きもちわるい。
されど しかたなしに まりどのを みやれば、 かの おかたは おおきく あしを ひらき やりを かまえて おられた。
あいての やからも、 おのれの ぶきを かまえる。
そう なって しまえば、 あいだに はいる ことなど ゆるされぬ。
かいしの あいずなど なくとも、 おふたりの てあわせは すでに はじまっていた。
じり、 と そうほうが まあいを とる。
ながものが あいてと なる ばあい、 まあいは おおきく とられて しまう。
そこを いかに おのれの まあいに はいるかで しょうはいは きまる。
どちらが さきに しかけるので あろう。
そう おもった やさき、 おふたりは どうじに うごいた。
きいん、 と ききなれた おとが ひびく。
かと おもえば、 ふたたび さがって まあいを とる。
また くみあう。
えものを ぶつけあう。
…あなどる つもりは もうとう なかった。
されど まりどのは おなごの みゆえ、 あいての やからに かなわぬで あろうと どこかで きめつけて おった。
それがしは、 まことに みじゅくで ござる…。
「… あれは… まりどの、 で… ござるか?」
「…うん。」
「いや、 あれは… まりどのでは、 あらぬで あろ… う?」
それがしが しっておる まりどのは、 やさしい おかた なのだ。
よく わらう おかた なのだ。
あのように きびしい まなこを される おかたでは ない。
するどく ほえる ような おかたでは ない。
なれど…
「…うつくしゅう ござるな。」
めが はなせぬ。
するどい なかにも、 やわらかさを かんじる うごき。
やりを おのが うでの ように あやつり、 あいてに こうげきを しかける まりどの。
ひかりを うけて きらきらと ひかる やりの ほ。
すべてが うつくしい。
こがれる、 と いうのは この ような きもちを もうすので あろうか。
いまの まりどのを みて おると、 むねが くるしゅうて しかたない。
それがしも あのように うごきたい。
あのように、 じざいに あやつりたい。
「…さすけ。」
「何?」
「きめたぞ。」
「…何を?」
「それがし、 やりを えものと いたす。」
きめもうした。
まりどのが やりを えものと する ならば、 それがしも やりを えものと いたす。
いまは まだ まりどのの ようには できぬが。
いつか。
たんれんを つめば、 いつかは。
まりどのの ように なれるで あろうか?
そうなった それがしを、 まりどのは みて くださる だろうか?
ほめて くださる だろうか?
それがしは…。
まりどのを この てで まもれるで あろうか?
2020.12.07. UP
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夢幻泡沫