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それは、甘い

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「じゃあ、まあ。取りあえず乾杯っ!」

一体、何に?
と聞くだけ野暮なことで。
近くに座る同窓生とグラスを合わせ、離れた席にグラスを高く上げ。
帰省するたびに開かれるお決まりの飲み会。
私が帰ってきてから、今夜で何回目になるのか…。
同窓の誰かが帰ってくるたびの飲み会は、お祭り時期なだけに連日開催されていてとっても楽しいひととき。
うん、楽しい。
楽しい、んだけど…ね。

「それで?まりの本命はあの中の誰なのよ!?」

…この話題でさえなけりゃ。

「マジで!?お前、例の男達を見たのかよ!?」
「何の話?」
「まりが男を連れて帰ってきたのよ。しかも複数!」
「は!?何それ!?まりに彼氏ができたの!?初耳なんですけど!!」
「そりゃあ、あんたは今日帰ってきたからね。」
「仕事がなかなか休み取れなくてさ。やっとだよ。」
「お疲れさん。まあ、飲めって。んで、お前は本当に見たのかよ!?」
「見た見た!!まりってば練習に連れて来てるんだもん。」
「うっそ!?ちょ…俺、明日から笹穂に行くわ。」
「なに言ってんのよ!偵察禁止〜!!」
「鈴沢の男候補を見ないで練習なんかに集中できるかよ!?お前さあ、男を連れて練習とか。
 大胆だな!」
「…語弊がある言い方、止めてくれない?」

だってしょうがないでしょ。
武将ズがついてくるって聞かないんだから。
私は毎日観光を強く強ぉくお勧めしてるんだけどね…。

「どんな人達なの!?」
「すっごいイケメン!イッケメンだらけ!!」
「マジで!?」
「も〜、まりってば面食いだったのね〜!」

…。
まぁ、彼らがイケメンなのは否定できないけど。
なんと言ったってイケメンズですから?

「で?本命は誰?」
「…あの人達はただの知り合い。」
「うっそだあ!ただの知り合いを実家になんか泊めないでしょ〜!!」
「だって急にお祭りを観たいって言ってきたんだもん。この時期
 急になんて旅館が空いているわけないでしょ。仕方なくだよ。」
「ほんとに〜?」
「ホントホント。」
「じゃあ、私狙っちゃおうかな!」
「いいけど…遠恋確実だから覚悟しておいた方がいいよ。」

距離的にも時間?的にも。
今はまだこっちにいても、いつかは帰るはず。
いつ帰るかは分からない。
帰る場所は何百年前の戦国時代。
しかも私達の過去ではないどこかの世界。
遠く遠くへ戻ってしまう彼ら。
青いタヌキもどきのネコがいないと好きな時に会えないんじゃない?

「…そっか。会えなくなっちゃうんだ。」

友人の言葉にとりとめもなく考えたことがずんと心に重く落とされる。
ポツリと呟いた独り言がさらに重りになった。
彼らはいつか帰る。
それこそ、私が知らない場所へ。
私が行けるはずもない場所へ。
遠恋どころじゃない。
永遠に会えなくなってしまうのだ…。
暗くなってしまった気持ちを追い払うようにグラスを一気に煽る。
それでも心は晴れてくれなかった。

「まり、どうした?やっぱ、あの中に本命がいるの?」

急に黙ってしまった私を不思議に思ったのか、友人が笑いながら茶化してくる。

「…違うよ。お祭りのこと考えてた。」

お祭りのことに話題を変えれば、簡単に乗ってくるのがこの町の人達の性。
今日になって帰ってきた友人が確認するように聞いてきた。

「まりが今年の笹穂の姫なんだって?」
「そ。諸事情があって急になんだけどね。」
「止めてくれる!?あんたが姫とか、悪夢再びなんですけど。」
「そんなことないよ。もぉ、カンが鈍っちゃってて困る。」
「ねえ、ちょっと!まりがこんなこと言ってるけど、本当なの?」
「さ〜ね〜?どうでしょ〜!?」
「うっわ、ムカつく!巴は大丈夫なんでしょうね!?」
「中直はどうなってる?」
「バッカじゃねえの、お前ら。手の内を曝すわけねえだろ。」
「まり、本当にカンが鈍ってるんだね!?」
「ホントだって。老体に鞭打って頑張ってるとこ。」
「あのね〜、老体とか言わないでくれる!?あんたが老体なら、私も老体になっちゃうでしょ!」
「俺ら、今年で最後だからなあ。割と出るんだろ?」

出るヤツ挙手!
その掛け声に挙がった手は半数近くで。
悔いの残らないようにしなきゃ、と気が引き締まる。

「楽しもうぜ!有終の美を飾ってやろう!」
「出ない俺らは俺らで、裏方がんばろうぜ!こいつらに花を持たせてやんねえとな!」
「ああ、頼むぞ!!」

その言葉にまたグラスが高々と上がる。

「祭りの成功を願って!」
「誰もケガしないように!」
「みんな楽しめるように!」
「乾杯!!」

カチンと気合の入った音に、この町に生まれ育ってよかったと改めて思う。
全力を出し切って、後悔しないようにするんだ。
いっぱい動いて、いっぱい笑って、この夏最高の思い出にするんだ。
武将ズを驚かせてやるんだから!

「取りあえず、鈴沢にしこたま飲ませろ!」
「おう!」
「はあ!?酔い潰させやしないんだから!まり、あんたは水しか飲んじゃダメ!!」
「…」
「いやいや、せっかくの飲み会なんだからたくさん飲んでけよ!」
「まり!誘惑に乗るんじゃないよ!?」

…なんちゅう姑息な手段を!
負けないもんね!
私は飲む!
だけど、うたた寝だってしてやるもんか!
逆に酔い潰してやる!!


2021.08.02. UP




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夢幻泡沫