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それは、甘い

92



『鎮守さま』は日の本にたくさんあるが、まりちゃんのところの鎮守さまはとても大きくて立派だ。
京でもこの大きさの神社仏閣はそうそうお目にかかれないって。
そんな鎮守さまでも。
正面近くには人がたくさんいたけれど、奥に行けば行くほど人気が消えていく。
そして、光も。
手に持っている酒で喉を潤しつつ、まりちゃんとする探索はわくわくした。
提灯はとっくになくなって、今は月の光のみ。
木々に守られるようにして建っている奥殿の、更に裏側。
遠くから聞こえてくるのは祭囃子。
互いに浴衣姿。
己の世界に戻ってきたような感覚に囚われる。

「誰もいないねー。」
「ホント。慶次ってばどんどん奥に行くんだもん。」
「だってさー、すっげえ広いからどこまで行けるのかなーって思って。」
「このまま山を登っていけばお城に出るよ。」
「へー、つながってんだ。」
「ここら辺の木々は手つかずなんじゃないかなぁ?鬱蒼としているよね。」
「うん。でも俺はこういうところ慣れてるから、嫌いじゃないよ。」
「慣れてる?」
「俺達の世界はね、人が住んでいるところ以外は昔っからのままなんだー。」
「昔っから?え、と…人工物がないってこと?」
「そう。」
「自然が豊かなまんまなんだね。」
「町でも道でも、一歩外れるとすぐ林や森でねー。」

俺がいた世界を思い出すように、目の前の森を見る。
まりちゃんも同じように視線を先にやって教えてくれた。

「この世界も数十年前まではそんなものだったみたいよ。
 この町はまだそんな事ないけど、日本中が急激に開発されたって。」
「へー…」
「この町だって、町屋群の外なんかは新興住宅だったり、
 小さいけどビルが建ったり、大きな道路が通ってたりしてるでしょ。
 便利だし、ないと困るけど…そういうのだらけなのもちょっと味気ないよね。」

そう言ったまりちゃんの瞳が何だか切なく見えて…。
俺はまりちゃんにそんな顔をしてほしくない。
だからこの雰囲気を変えたくてまりちゃんの両脇下を掴むとひょいと持ち上げた。
うわっ、軽い。
女の子ってどうしてこう柔らかいんだろう。

「きゃっ…!?」

ぱしゃりと零れてしまった清酒を気にすることなく、まりちゃんを奥殿の切目縁に腰かけさせた。

「ずっと立ちっ放しは疲れるだろう?」
「疲れる、けど…でも、急にこんなこと…」
「あはは、驚いたかい?」
「そりゃ驚くって…」
「ごめんよー。」
「お酒も零れちゃ…っ!?」

帯から小さいたおるを出して拭こうとしたまりちゃんの手をそっと掴む。
透明の芳香が白い指から滴り落ちそうになるのをぺろりと舐め上げた。
…簡単に酔っちゃいそうだな、これは。

「ちょっ…慶次!?」
「んー?勿体ないだろ?」
「だからって舐めなくても…拭けばいいんだから。」
「それが勿体ないんだってー。」

きめ細かいまりちゃんの肌に浮いている酒はもちろん、滲み込んだかもしれない酒も味わいたくて。
指先、指の股、手の甲にも舌を這わせる。

「…ぁ、っ…け、い次…ちょ、ホントに何やって…」

ぴくりと反応するまりちゃんが可愛くて、堪らなくて。
浴衣の裾を乱して足を割らせれば、これまた白い足に誘われた。
まりちゃんが驚いて茫然としているのをいいことに、足の間に体をねじ込む。
彼女の手を見せつけるように高い位置に持ち上げれば、まりちゃんは慌てて顔を横に背けた。
それがまた可愛らしくて、口端が上がってしまう。
どちらかと言えば、普段のまりちゃんはお姉さんのような立場で俺達に接している。
そのまりちゃんが生娘のように恥じらっているなんて。
それも、俺のしていることが原因で。
ぴちゃ…とこの場にそぐわない水音をたてれば、幼子がいやいやをするように小さく首を振る。
それがまた何とも愛らしい。
しばらくその様子を堪能してから、舐めていた手にそっと指を絡める。
違う行動に出た俺を窺うように、横を向いていたまりちゃんの顔がゆっくりと俺の方を向いた。
見えた頬に空いている手を添えると、まりちゃんの目が大きくなった。
それに構わず、顔を寄せる。
何か言いたげな唇を己のそれで塞げば、まりちゃんが息をのむのが分かった。
触れるだけの口吸い。
それでも幸せを感じるんから、体はもっと先を欲する。
飽きるほど唇を合わせた後、頬や首へと移していく。

「…慶、次…」
「…まりちゃん、知ってるかい?」

小さく体を震わすまりちゃんに気をよくして、色香を放つ肌へ何度も何度も口付ける。

「んっ…な、にを…」
「祭りってさ、男女の無礼講の場でもあるんだよ。」
「…」

ぴくり、とまりちゃんの肩が跳ねた。
…もしかして。

「知ってた?」
「…うん。」

顔を離してまりちゃんを見れば、視線が揺れ動いている。
あー…少し露骨だったかなー。
でも俺、まりちゃんのこと好きだしなー。
ここで止めたくないなー。
小さく開いている唇を吸った後、こつりと額を合わせる。

「…女の子が拒否すれば、それで終わりなんだけどね。」

交わった視線に苦笑しながらそう言うと、まりちゃんは淡く笑って瞳を伏せた。

「…昔は娯楽なんてあまりなかったんでしょ?だからお祭りに
 かこつけてって言うか…それぐらい楽しみが少なかったって。」
「うん。まあ、それもあるけど…」
「一番の目的は子孫繁栄?村や町が栄えるために、って聞いた。
 あとは…神様の恩恵に預かる、だったかなぁ。」
「…俺、難しいことはよく分からないや。でも…」

俺はまりちゃんが好きだから。
もう一度頬に手を添えると、伏せられた瞳が上げられて俺を映し出す。
ゆっくりと顔を近づけると、その俺は瞼の緞帳に消えていった。
紅をさした柔らかい感触を楽しむ。
しっとり合わせた唇を離し、耳元へ口を寄せる。

「…ね、いいだろ?」

できるだけ優しく、柔らかく。
できる限り色を乗せて。
食みながら、囁く。
ふるりと震えた長い睫毛に、うっすらと弧を描く唇。
擽ったそうに首を竦めたまりちゃんから吐息が漏れる。
そこに甘さを感じ取って口を吸えば、彼女の手が背へ回った。
顔中に口付けるだけじゃ足りない。
着慣れた右前を暴いて、その奥に見えたちゃっくを下ろせば…。
少し強く吸っただけで赤く咲く花をまりちゃんにたくさん贈りたい。
だって女の子には花が似合いだろう?


2024.07.01. UP




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夢幻泡沫