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それは、甘い
94
他の男なんかほのめかすんじゃねえ。
白い肌にあるいくつもの赤い痕に、胸の内がざわついた。
背中が大きく開き、腕ももろ出しで、鎖骨から胸元までもざっくり開いてやがる。
首の後ろの蝶結びが解けちまったら危ないんじゃねえか?
ま、俺としては眼福だがな。
男とは全く違うまろやかな稜線に、みずぎに隠れながらもその赤は主張していた。
上着を脱いだまりはすぐに欄干に乗ったから、他の奴は気がつかなかったようが。
躊躇いなく飛び込んだまりは周りからの拍手に手を上げて応えている。
ありゃあ、まり自身も気がついてねえな。
それなら利用して牽制しとくか。
欄干に足を掛け、上半身を脱いで慶次に押し付ける。
…おそらく、あの痕は慶次だろう。
昨晩いなかったし、慶次もまりも明け方に帰ってきたみてえだし。
隠れてこそこそすんのも興奮するが、人前で堂々とすんのも興奮するだろう?
指くわえて見てろってんだ。
まあ、相手が誰であろうと構わねえ。
慶次だけじゃなく、他の男も悔しい思いを味わえばいい。
「あ、おい。元親!?」
「面白そうじゃねえか。俺も飛び込むぜ。荷物、頼んだぞ。」
まりに場所を開けろと声をかけ、一息に飛び込む。
川の水は清らかで、海と違いべたつかない。
滑るようにして泳いできたまりが『どうしたの?』と首を傾げているので、指摘してやった。
俺の指を辿った先を見て慌てるまりの頬に朱が差して…。
ぐっとまりを引き寄せて痕を噛んでやった。
「ぁっ…んっ…!」
「随分と悪い虫がいるもんだなあ、まり?ここにもついてるぞ。」
目についた片っ端から、噛む、吸う、舐める。
「んっ…い、たっ…」
「『気持ちいい』…だろ?」
「ばかっ…!」
どん、と俺を蹴飛ばしてまりは距離を取る。
水の中だからそんなに痛くはなかったが。
そのまま体を反転させて笹穂の奴等がいない方向へとまりは泳ぎ出す。
へえ、綺麗に泳ぐもんだ。
感心してたらあっという間に離れてしまって、慌てて追いかける。
川中にある太い橋脚の陰、飛び込んだ逆側は人目につきにくいらしい。
まりはそこで胸元を覗き込んでいた。
「…綺麗についたな。」
「ちょっ…見ないでくれる!?」
「いいだろ、見せろよ。」
逃げようとする細腰にもう一度手を回し、もう片方の手をまりの首裏に回して蝶結びを引っ張る。
水に濡れて締まっていたが、少し強めに力を入れりゃずるりとほどけて頼りなく垂れ下がった。
「きゃあっ!?」
「おお、よく見えらあ。」
「ふざけないでよ、エッチ!!」
「えっち?」
「もうっ!スケベ!むっつり!好色!色魔!」
「ひでえなあ、おい。」
あまりの慌てぶりにくっくっと笑いが出てくる。
「消毒してやってんじゃねえかよ。」
「元親のは消毒とは言わない!」
「なら、何だ?」
「…っ!ばかっ!!離してよ!」
「放してやってもいいが、そうするともっと見えちまうぜ?」
「っ…!!」
悔しそうに唇を噛み顔を逸らすまりは気付いているんだろうか。
逸らしたために胸がよく見えてしまっていることに。
己がつけた噛み痕を、鬱血痕を、もう一度舐める。
「っ…やっ、だから…っ!」
押しのけるように俺の頭を押すまりの手を取る。
小さい、薄い手。
白い指の間に一本ずつ己の指を入れ込めば、知っていたはずなのにその細さに胸が疼く。
俺の片手はまりの腰に、まりの片手は俺の肩に。
水の中だからそれだけで簡単に支えてやれる。
交わった視線が、まりが困惑していると言っているが。
俺は止めてやるつもりはねえ。
じっと見つめたまま口を吸う。
逃れるように閉じた瞼にまりの長い睫毛が影を作っていて、黒い睫毛が白い瞼に映えていて。
何度も角度を変え、啄ばむように柔らかな感触を楽しむ。
そうしてると、絡めていたまりの指から力が抜けた。
絡め取っていた指を離し、まりの後頭部を押さえるようにして添える。
触れていただけの唇をべろりと舐めれば、観念したようにまりが小さく口を開けた。
できた隙間に舌をねじ込み、歯列をなぞり、頬裏を舐める。
逃げるように奥へ引っ込む舌を吸い、出てきたところを絡め合う。
…はっ、甘え。
癖になっちまいそうだ。
もっと欲しくて、もっと犯したくて、口を大きく開けて喰らう。
「…っゃ、見られ…ちゃ…」
「…見せつけてやろうぜ。」
「やっ…ムリ…」
首に手を回して応えているのに、呼吸の合間にまりが小さく首を振る。
こんなもんじゃ俺は満足しねえぞ。
ならば…、とまりを水中へ引きずり込んだ。
まりの目が大きく開かれ、水の揺らめきが乱れ映って艶めかしい。
ここなら誰にも見られねえだろ?
ぐっと体を密着させ、覆いかぶさる。
遠慮などせず、好きなようにまりの口内を弄んだ。
息が苦しくなりゃ一瞬だけ顔を出す。
すぐに清らかな流れに引きずり込んで味わう。
貪るように、唇を、舌を、肌を、乳を。
水の中なのに体は冷えることなく、むしろ昂って仕方ねえ。
まりの息が絶え絶えになる頃には、赤い痕は俺がつけたものだけになっていた。
「…どうするのよ、コレ…」
「見せつければいいだろ?」
俺にしなだれかかって荒い息を整えるまりが、様々な痕を指でなぞって恨むように見上げてくる。
尖らせた唇を掠め取って、みずぎの紐を首の後ろで蝶結びにしてやった。
「…俺のこれはどうすればいい?」
主張している下半身をごり、と擦りつければ。
顔が茹で上がったように真っ赤になるまり。
「しっ…知らないわよ、ばかっ!」
ぶるぶると震えた手をあげ、勢いよく俺に向かってくる。
それを難なく受け止めて、代わりに頬へ唇を寄せる。
「元親っ!!」
「仕方ねえなあ。ひと泳ぎして熱を冷ますか。それくらいなら付き合ってくれんだろ?」
「…」
「なあ、まり。頼むって。」
「…もぅ。」
先程の剣幕を引っこめたまりが呆れたように笑った。
2025.06.02. UP
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夢幻泡沫