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それは、甘い

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「何やってたの?」

第一声にギクリと肩を揺らした。

「…何って…泳いでいただけだよ。ね、元親?」
「おう。」
「それにしては随分長くなかった?」
「元親ってさ、泳ぐの上手なんだよ。」

これは本音。
豪快に水をかき分ける上半身としなやかに水を押す下半身。
飛沫がいっぱい立っているけれど、元親の周りは透明で。
正直、羨ましかった。
あんな風に泳げたら気持ちいいだろうなぁ。
ザブリと水を滴らせながら元親が河原へ上がる。

「あ〜あ〜、びしょ濡れじゃん。どうするの?」
「どうもしねえ、すぐ乾くだろうよ。」
「服で飛び込むとか信じられない!弁丸様が真似したらどうしてくれるのさ!」
「弁丸は水着だから問題ねえだろ?」

あはは…佐助さんに怒られてやんの。
持っていた手荷物からタオルを取り出し元親に押し付けながら、佐助さんは呆れている。

「まりちゃんも早く上がって。身体、冷えちゃうよ。」
「ほら、まり。これ着るんだろ。」

慶次に預けたトップスを私に向かって投げた元親がまた佐助さんに怒られる。
まぁ、私が上がれない原因を作ったのは元親だから仕方ないね。
川の中でトップスを着て、私もようやく河原へ上がった。

「まりちゃんも急に飛び込むなんて危ないことしないでよね!」

…おっと。
矛先がこっちへ来てしまった。

「あはは、ごめんなさい。」
「怪我したら大変でしょ!」
「しないように注意してますよ。」
「してからじゃ遅いでしょ!!」
「はぁい、気をつけまぁす。」
「うわっ、何その返事。かっる…」

呆れてしまった佐助さんと小十郎さんを引き連れて友人のところへ。

「はい、手土産。」
「おっ!スイカに飲み物。」
「野菜も少し持ってきた。」
「ナイス!男子が肉ばっか持ってきて困ってたのよ〜。」
「そんな事だろうと思った。スイカと飲み物は生簀に入れとけばいい?」
「うん、よろしく。」

野菜を渡すと、友人はさっそく網で焼き始める。
川の端に即席で作った石囲いの生簀にスイカや飲み物を入れに行けば、他の人が持ってきた飲み物やキュウリやトマトなんかも入っていた。
いいねぇ、これぞ川遊び。
川の近くで育っているから誰ひとりアルコールを持ってきてない、それがまた私達らしい。
子供達はすでに紙皿と割り箸をもらって、肉にかぶりついている。
笹穂のみんなとすっかり顔なじみになっているので、佐助さんも小十郎さんも咎めたりはしていなかった。

「まりどの! こちらへ おいで くだされ!」
「弁、たくさん食べてる?」
「いただいて おりもうす。 おいしゅう ござるな!」
「バーベキューって言ってね、川遊びの鉄板なんだよ。」
「まりどの! さきほどの かわへの とびこみは すばらしゅう ござったな!
 おそろしゅうは ありませなんだか?」
「小さい頃から飛び込んでいるからね、慣れてるんだ。
 久し振りだったから、少しドキドキはしたけど。」
「それがしも して みとう ござる!」
「いきなりあの高さはムリだよ。」
「なにを もうされる!それがし、 おそろしゅうは ござらん!」
「そうかもしれないけど、安全のためにも小さい子はダメなの。
 弁達ぐらいはあっちの岩から練習することになってるんだよ。」

あっちと指せば、高い歓声と、沈む水音と、応援する声と。
弁や松寿ぐらいの子達が、次々と飛び込んでは泳いでまた上がって飛び込んで…と楽しんでいた。

「行ってみる?」
「いきとう ござる!」
「おれも行く。」
「松寿は?」
「我は行かぬ。」
「飛び込まなくてもいいから川で泳がない?」
「必要があらぬわ。我はここにいる。」
「…そう?じゃあお腹が落ち着いたら、弁と梵と一緒に行こうね。」
「それがし、 やりとげて みせようぞ!」

バクバクと勢いよく食べ進める弁に、お手本のようなお箸の使い方の梵。
それを象徴するような飛び込みだった。
物怖じすることなく、『べんまる、けんざん!』と気合いの入った掛け声と共に躊躇いもせず飛び込んだのは弁。
飛び込んだ後も上手に泳いで私の側まで来た。

「まりどの! いかがで ござったか?」
「すっごい上手!こういうの、初めて?」
「はじめてに ござる。 とても おもしろう ござった。」

キャッキャッと無邪気な笑い声を上げて私の周りを泳ぐ弁に、一緒についてきた佐助さんが岩の上から苦笑していた。
それとは反対に、飛び込むまでに時間がかかったのが梵。
弁や周りにいる笹穂の子達から声援を受けても、なかなかあと一歩が出なかった。
初めてだからしょうがないって声を掛けたら、梵より小十郎さんの方に火がついたみたいで。
『伊達の頭領たる御方がそのような情けないお姿を曝して如何する!』なんて容赦ない発破を梵にかけていた。
たぶん相当な覚悟で落ちるように飛び込んだ梵は、何とか私のところまで来るとギュッとしがみついて。

「すごい、梵!できた、できたっ!!」
「…小十郎がおそろしかった。」
「でも見てよ、ほら。あの高さから一人で飛べたんだよ。」
「飛ばなきゃ小十郎にやられてた。」

…あの小十郎さんは確かに怖かった。
こんな小さな子にあんな剣幕で言わなくてもよかったんじゃない…?
背中に腕を回してポンポンと撫でてあげれば、ハッと私を見て慌てて何でもなさそうな顔を作る。

「のーぷろぶれむ。わけなかったぞ。」
「弁も梵も、初めてでできるってホントすごい。この町の子でも飛べない子がいるのに。」
「これができなきゃ、あの橋からとびこむなんてできないんだろ?
 まりができるのにおれができないなんて、そんなの…」
「そんなの?」
「…なんでもない。次はあの橋からとびこんでみせる。」
「その前の段階がまだいくつかあるけどね。」
「しっと!」

川で一緒に泳いだり。
バーベキューを楽しんだり。
そもそもの目的だったお祭りに感動してくれたり。
練習に付き合ってくれたり。
一緒に踊ったり。
すっごく楽しかった。
毎年この時期は楽しいけれど、間違いなく今年の夏が一番!

「まりどの、 とても たのしゅう ござった! また きとう ござる!!」
「みーとぅー!」

そう感じるのは私だけじゃないみたいで。
それが一番、本当に嬉しかった。


2025.07.07. UP




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夢幻泡沫