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con amore

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自分の調整が一区切りついたから、吉隠のところへ行こうとしたんだ。
『私はコンクールメンバーじゃないから』と言って、俺達と一線を画しているアイツは一人でいると思っていたから。
理事会の要望なんだから遠慮することなんてないのにな。
冬海ともクラスメイトで仲がいいはずだし。
ステージを降りる時に客席を見たら、吉隠の隣に金やんが座っていた。
何か話していたようだが、そんなに深刻な話だとは思わなかった。
だから聞こえてきた言葉に耳を疑ったんだ。
『音楽は高校まで』…って、一体…
どういうことなんだ!?

「おい…今の話、本当なのか?」
「…土浦先輩。」

訳が分からないという声の土浦に、静香は眉を顰める。

バレて…しまった。
出来れば卒業するまで知られたくなかった。

音楽科に通っている生徒のほとんどはそのまま音大へ行くことが多い。
その中で静香は違う大学へ行かなければならない。
音楽から離れてしまうということを隠しておきたかった。
…音楽が大好きだから。

「何だよ、その『音楽は高校まで』ってヤツは。」
「土浦!」

しまったという顔をして止めに入った金澤を手で制して、静香は素っ気なく土浦の質問を遮断した。

「…先輩には関係ありません。」

またそれか!

土浦の中で何かが爆発した。
金澤も驚くような剣幕で勢いよく静香の腕を掴むと、自分の方に向かせる。

「何だってんだ!いつもいつも俺には関係ないばかりで!そんなに俺のことが嫌いかよ!?」
「…は?」
「心配してんのが分かんないのか?お前のことが心配なんだよ!お前のことが気になってしょうがねえんだ!俺はお前のこと、す…っ…!」
「…失礼しますっ!」

目を大きく見開いた静香は、口を手で覆いかくしながらバッと立ち上がった。
誰に言ったのか分からない断りを入れると、楽譜を掴んで逃げるように講堂から出る。
バタバタと走り去る静香の後ろ姿を呆然と眺めていた土浦は、近くから聞こえてきた咳払いにハッと意識を取り戻した。

「…あー…若いねえ…」
「っ…うるせえっ!」
「いいんじゃないか?青春、大いに結構。」
「くそっ…」
「若い時は勢いで何とかなるもんだ。励めよ、若人。」
「うるせえな…ほっとけ。」
「はいはい。年寄りは退散するとしますかね。じゃあな、土浦。音合わせは最後までしっかりするんだぞ。」

クツクツと笑ってサンダルを引きずりながら金澤は講堂から出ていく。

「チクショウ…」

感情が暴走してしまった土浦は、ズルズルとその場に座り込むとぐしゃりと自分の前髪を掴んで俯いた。


2015.10.12. UP




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夢幻泡沫