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con amore
15
コンクール当日、かねてからの宣言通りに学内コンクールメンバーは揃って会場にいた。
「チケット…ありがとうございます、柚木先輩。」
「いいよ、いいよ。冬海さん、気にしないで。」
「楽しみ…です。土浦先輩の演奏。」
「だよね、志水くん!でも、吉隠ちゃんも一緒に来ればよかったのにー。」
「火原、彼女にも都合があるんだから無理言わないの。」
「でもさー。土浦のヤツ、吉隠ちゃんがいたらきっと張り切っていい演奏すると思うんだけどなー。」
「すみません、火原先輩…私、静香ちゃんのこと…誘ってみたんですけど…」
「あー、違うんだ!ごめんね、冬海ちゃん!別に冬海ちゃんのこと責めてるわけじゃなくて!!」
「でも…あ…」
申し訳なさそうに頭を下げていた冬海が、驚いたように火原の後ろに視線を向ける。
「冬海ちゃん?」
「…あそこにいるの、静香ちゃんじゃ…」
「えっ!?どこどこ!?」
冬海の言葉に火原がパッと振り返る。
「あっ!ホントだ!おーい、吉隠ちゃ…」
「火原、やめとこうか。」
「柚木?何で?」
「…1人で聴きたいんじゃないかな。そっとしておいてあげよう?もし彼女から声をかけてきた時は、一緒に応援すればいいんだし。」
「そっか、そうだね。」
上げた手を下ろして火原はニパッと笑う。
「でもさ、吉隠ちゃんが来てることは土浦に知らせない?」
「うーん…」
「おれも始まる前に土浦の顔を見たいし!」
「…それなら、僕達を代表して火原だけ行ってくるのはどうかな?あんまり大勢で行っても土浦君の集中力が切れちゃうだろうし、他の演奏者にも迷惑だし。僕達は客席で待っているから。」
「わかった!じゃあ、おれ行ってくるね!」
楽しそうに駆け出した火原は、キョロキョロと首をせわしなく動かしながら後輩を探す。
しばらくしてネクタイを緩める仕草をしながら遠くに視線を向けている土浦を見つけた。
「つーちうら!」
「…火原先輩、マジで来たんですか。」
「うん、みんなも来てるよ。」
「はあ…ヒマっすね。」
「あっ!なんだよ、それ!応援してやんねーぞ!?」
「はいはい、ありがとうございます。で?何の用ですか?」
「特に用ってわけでもないんだけど、始まる前に土浦の顔が見たくてさ。がんばれよ!」
「どーも。」
「それと…」
意味ありげな笑みを浮かべる火原に土浦は頭を捻る。
「…なんですか、火原先輩?」
「来てたよー。」
「は?」
「だから、来てたんだって!」
『来てた』と言うからには、誰か人なんだろう。
だけど、あいにく俺は来てほしいと思っている人はいない。
いや、1人いるが…あいつは来ないだろうな…
「誰ですか?」
「誰だと思う?」
「…一応コンクールが控えてんですけどね、俺。中に戻っていいですか?」
「吉隠ちゃん。」
「は…?」
「だから、吉隠ちゃんが来てたんだって。」
「…」
「土浦?聞いてる?」
「…ああ、聞いてます。俺、ホントに戻りますね。」
「あっ、ちょっと土浦!がんばれよ!!」
クルリとうしろを向いて歩き出してしまった土浦に、火原は慌てて声をかける。
返事がないことにむくれ気味になりながら火原も方向転換をした時、少し離れた所から呼ばれた。
「…火原先輩!」
「ん?なに?」
「…有益な情報をどうもありがとうございました。」
硬派な土浦の顔が照れたように歪んでいる。
それが嬉しくて、火原はルンルンとしながらメンバーが待つ客席へ向かった。
2015.11.23. UP
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夢幻泡沫