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con amore
18
「つっ…つ、ち浦先輩…」
「よう。」
「…ビックリしました。急に入ってくるんですから。」
「悪いな。吉隠の音が聴こえてきたから、つい。」
苦笑しながら扉を閉めた土浦に、目をまん丸くしていた静香もホッと息をつく。
「そういえば…コンクール優勝、おめでとうございます。」
「ああ、サンキュ。来てたんだってな。」
「はい、会場で聴いていましたけど…特に『革命』が素敵でした。激情の中にも優しさを感じて。土浦先輩しかできない解釈ですよね、あれは。」
「ははっ、面と向かって言われると照れるな。」
心なしか顔を赤くして視線を逸らした土浦の照れが静香にも移る。
何とも言えなくなった雰囲気に、土浦は咳払いをするとじっと静香を見た。
「今の演奏を聴いてたが、少し変わったな。」
「…え?」
「メランコリックだし脆いのは相変わらずなんだが。あ、今のは悪い意味で言ったんじゃないぞ。そうじゃなくて、なんと言うか…その、甘かった。」
「っ…!?」
「何かあったか?ピアノ、続けていいって言われたか?」
「…それは…」
瞬間的に眉を顰めた静香に、土浦も申し訳なさそうに眉を寄せた。
「悪い。今のは忘れてくれ。じゃあ、何があった?」
コクリと静香の喉が上下する。
逃げ出してしまいたい。
自分の気持ちが分かった今、土浦先輩の顔が見られない。
どうしよう…
心臓が、爆発しそう…
「…あ、あの…」
「ん?なんだ?」
「…その…せ、先輩が…」
「俺?」
「音を…変えてくれるって…言って、くれましたよね?」
「ああ。」
既に真っ赤になってしまった顔を俯かせる静香に、土浦の鼓動が先を急き立てる。
…期待、してもいいのか?
口の中が異様に渇く。
それでも土浦はしっかりとした声で誓いをたてるかのように静香に答えた。
「言った。吉隠が好きだ、と。お前の音を変えてやる…響かせてやるって。」
「あ、あの…私…その…」
「…」
「…その、せ…先輩の、ことが…」
早く。
早くその先を教えてくれ。
「…好き…です…」
その言葉を聞いた途端に頬が緩んだのが分かる。
土浦は嬉しいことを隠さずに静香に近づくと、思い切り優しく頭を撫でた。
「サンキュ。その言葉、ずっと待ってた。」
「…あ、あの…」
「ん?」
「…いえ…」
「約束だ。お前の音は、ずっと俺が聴いててやる。これから先ずっと、な。だから、思うように弾けよ?」
「…はい。」
「でもな、ピアノを弾こうが弾かなかろうが…俺は吉隠のことが好きだぞ。」
「っ…」
「これからよろしく…静香。」
「は…い…」
2人の間にあった空間がなくなる。
土浦はそっと静香を引き寄せると、自分よりずっと小さい身体を抱きしめた。
…静香と音楽が離れるまで、あと2年。
2015.12.14. UP
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夢幻泡沫