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con amore
22
「…さっき、また…母に言われました。音大進学はダメだって。私を心配してそうしているんだって。…気持ちは嬉しいけど、でも…」
「ああ…」
「…我が儘なのかもしれませんけど、音楽のこと…ピアノのこと、もっと知りたい…」
「別に我が儘じゃないだろ?」
「でも…」
「何だ?」
「前に比べて、諦めというか仕方ないなって気持ちが大きくなってきているんです。ピアノを禁止されたわけじゃないから、それでいいやって思うようになって。」
「…」
「…きっと土浦先輩のおかげです。」
「は?俺?」
「先輩が私のピアノを聴くって言ってくれたから。あの言葉…すごく救われました。」
「…そうか、それならよかった。」
「そう言っておきながら、まだまだ諦めきれそうにないんですけどね。」
抱き寄せた胸の位置でふっと小さく息を零して自嘲する気配がした。
静香の気持ちを解すように土浦がゆるゆると頭を撫でてやると、背中に回った手がシャツを掴む。
こうして甘えてくれると、甘やかし倒したくなる。
静香の思考を溶かしてやりたくなる。
土浦が彼女の頭を撫でていた手を頬に添えて自分の方に向かせれば、不思議そうに見上げてきた。
「どんな静香も好きだ。」
そう言ってポカンとしている唇に自分のそれで触れる。
「っ…!」
軽く触れるだけのキスを何回か繰り返しているうちに、静香が驚きに丸くなっていた目を閉じた。
シャツを掴む手に力を必要以上に入れているのは、初めての経験なのだろうか。
舞い上がる気持ちを唇に乗せて、何度も何度も啄ばむ。
「せん、ぱ…」
「好きだ…」
「…っ、ぁ…」
「ピアノ…俺のために弾いてくれ。」
ちゅ、とリップ音をならしてゆっくりと唇を離す。
紅潮した頬と少しうるんだ瞳に理性がぐらりと揺れた。
…下に母親がいるのだし、マズイよな。
欲情を隠すように静香の前髪を掻きあげて額にキスをすると、土浦はまたぎゅっと彼女を抱きしめる。
「もし本当に音大に進めなくなっても、俺が静香のピアノをいつまでも聴いている。だから、俺のためにピアノは弾き続けてくれないか?お前の音、好きなんだ。」
「土浦先輩…」
「切なくて、苦しくて、脆くて…でも甘い。お前の音、お前の世界が好きだ。」
「私も…先輩のピアノ、好きです。情動的で、繊細で、優しくて…ピアノ、弾いてくれませんか?」
「ああ。何がいい?」
「『革命』を。好きです、土浦先輩の『革命』。」
「分かった。」
そっと離れて恋人の顔を覗き込めば、情けなく歪んだ顔が見返してくる。
泣かせたくはなかったので、土浦はわざとおどけてみせた。
「お望みのままに、お姫様。」
「…先輩はそんなキャラじゃないでしょう?」
クスリと笑った静香に一安心し、プレイエルの前に陣取る。
彼女が感じているであろう理不尽さ、悔しさ、やるせなさを激情の中に代弁する。
いつもよりアグレッシブに弾いた。
静香の気持ちが少しでも晴れるように…
2016.01.11. UP
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夢幻泡沫