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con amore

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「やあやあ、冬海ちゃんに吉隠さん。」
「あ…天羽先輩。」

ドレスから制服に着替え直そうかと2人揃って控え室に向かった時、後ろから明るい声が呼び止めた。
先に呼ばれた冬海が振り返り、可愛らしく微笑む。

「2人とも、お疲れ様。すっごく綺麗な音楽だった。」
「あ、ありがとうございます…。」
「初めまして、吉隠さん。普通科3年、天羽菜美です。報道部の部長をしているんだ。よろしくね。」
「初めまして、吉隠静香です。」
「私ね、ずっと吉隠さんのこと取材したいと思っていたんだ〜。残念なかなかチャンスに恵まれなかったけど。ねえ、いま少しくらい時間ある?いくつか質問に答えてくれないかな?」
「え、あの…」

天羽の勢いに戸惑う静香に、冬海も助けを出してやれない。
えっと…だの、あの…だの、言葉を濁しているところに、手を挙げながら衛藤が近づいてきた。

「あっ。静香さん、いた。」
「桐也くん。」
「笙子さんも菜美さんもこんばんは。静香さん、連れてってもいい?」
「連れてくってどこに?」
「は?ダンスに決まってるでしょ。静香さん、行こう。」
「え!?ちょ…桐也くん!?」
「なに?ダンス、誰かに申し込まれてる?」
「それは…いないけど…」
「それなら、ほら早く。初めての後夜祭、楽しませてよね?」

有無を言わさないで静香の腕を取ると、衛藤は後夜祭の会場へ引っ張って行った。

「…積極的だね〜。」
「土浦先輩…静香ちゃんと、踊らないのでしょうか…?」
「土浦君はそういうの苦手そうだからねー。でも自分の彼女が他の人と踊っているのは、気分的にどうなんだろう?」
「…さっきは、怒っていました。その、土浦先輩…衛藤くんのこと、知らないですから…」
「ああ、それ!いい情報キャッチしたんだよね〜。土浦君もコレ知れば、少しは反省するんじゃない?」
「…俺がどうかしたか?」

低い声に冬海と天羽が後ろを振り返れば、不機嫌そうに土浦が歩いてきた。

「あー、土浦君。お疲れさま、かっこいい演奏だったね。」
「そりゃ、どうも。で、俺がどうかしたって?」
「衛藤君について1つイイ情報が入ったんだけど、知りたい?」
「…余計なお世話だ。」
「と言うかさー。なに、吉隠さんをダンスに誘ってなかったの?なんで?」
「何で急に後夜祭の話になるんだよ。」
「ついさっきまで吉隠さんもここにいたからね。誰にも誘われてないって聞いて驚いたよ。彼氏のアンタが誘わないでどーすんのよ!?」
「別にいいだろ。天羽には関係ない。」
「ま、そうだね。じゃあ、つい今しがた衛藤君が吉隠さんをダンスに誘ったのも土浦君には関係ないよね?2人で会場に行ったのも関係ないよね?」
「はっ!?」
「楽しそうだったよー、衛藤君。吉隠さんは…どうだったっけなー?」
「…」
「だから言ったじゃん。後で痛い目見るよって。」
「…」

ぐっと言葉につまった土浦を、天羽は詰るように見る。

「アンタと吉隠さんが付き合ってんのは、この学院じゃ周知の事実でしょうに。彼氏に誘われないなんてかわいそう!大体、他の男が彼氏持ちの女の子をダンスに誘うなんて下心アリアリでしょ!!衛藤君、グイグイいくタイプみたいだし?アンタ、本当に吉隠さんを取られてもいいの!?」
「…」
「衛藤君情報、知りたい?」
「…なんだよ。」
「衛藤くん、吉羅理事長と親戚なんだって。」
「…」
「あ、あの…土浦先輩。」
「…なんだ?」
「そこ、冬海ちゃんを威嚇しないで!」
「してねえ!…なんだ、冬海?」
「…静香ちゃんと衛藤君も…あの、親戚だって…静香ちゃんが、言っていました。」

不機嫌さが増した土浦に恐怖し、半ば天羽に隠れながら冬海も情報を付け足す。

「静香ちゃん、口にしてなかったけど…土浦先輩に、その、冷たくされて…た、たぶん、悲しかったのでは…ないでしょうか…。」
「そうだ、そうだ!もっと言ってやれ、冬海ちゃん!!」
「そ、そんな…すみません、お2人のことに口を挟んでしまって…」
「…いや。サンキューな、冬海。」
「いえ、あの…土浦先輩と静香ちゃんが一緒にいるところを見るの…私、好きなんです。とても、お似合いで…」
「サンキュ。」

バツが悪そうに頬を掻いた後、しっかりと冬海を見て土浦は礼を言う。

「心配かけて悪かったな。ちゃんと静香と話しをしてくる。」
「あ、これ…さっき、静香ちゃんに渡しそびれちゃったんですけど…私が作ったんです、静香ちゃんをイメージして…良かったら、その…」
「ああ、俺はそういうことに疎いからな。助かる。」

小振りの可愛らしい花が集合したコサージュを受け取ると、土浦は後夜祭の会場へ真っ直ぐ駆けて行った。


2016.02.29. UP




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夢幻泡沫