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con amore

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流れてくる煌びやかなワルツ。
目の前にいる満面の笑みの衛藤。
この状況はこの状況で楽しいのだけれど…。

静香はどこか納得しない様子で衛藤とダンスを踊っていた。

「静香さん、他のこと考えてるでしょ?」
「…え?」
「ほら、ね。俺の話、聞いてなかった。」
「あ…ごめんね、桐也くん。なに?」
「いいよ、もう。」
「ごめんなさい。」

しゅんと俯いてしまった静香に、衛藤も溜息をつく。

「…楽しい?」
「え?」
「俺と踊ってて楽しい?」
「うん、楽しいよ。なんで?」
「…ならいいけど。」
「あ、そうだ。桐也くんって天羽先輩と知り合いだったの?」
「菜美さん?知り合いっていうか…新入生歓迎会で演奏した後、すぐにインタビューさせろって突撃された。それからはなんだかんだ理由をつけて追いかけ回されてる、ってかんじだな。」
「そうなんだ。」
「菜美さん、標的見つけたらしつこいよ。静香さんも気をつけてね。」
「あー、うん…質問させて、とは言われたよ。」
「うわっ!逃げたほうがいいよ、それ。」

思い切り眉を寄せた衛藤に、静香も顰面になってしまう。

「悪い人じゃなさそうだけど…」
「すっぽん並のしつこさがなければね。にしても、静香さんもやっぱり踊れるんだ。」
「うん?ワルツ?」
「そう。」
「まあ…それなりには。文化祭近くになると、学院でもワルツの講習会もあるしね。そう言う桐也くんだって踊れるじゃない。」
「当たり前だろ?アメリカじゃ週末ごとにダンスパーティーがあったんだから。」
「でも、アメリカってワルツというよりも…」
「チークってかんじ?こんな風に?」

意地悪く口端を上げると、衛藤は腰に回していた腕をぐいっと引き寄せる。
衛藤自身の手に乗せていた静香の細い手を自分の首に回させると、衛藤は空いた手を腰に伸ばした。

「ちょっ…桐也くん!?」
「あはは、静香さん焦り過ぎ。」
「もうっ!!」

体を離すように肩に置いた手に力を入れれば、衛藤はすんなりとワルツの形に戻す。
スマートにリードしながらもクックッと笑いをかみ殺して肩を震わす弟分に、静香はパシンとその肩を叩いた。

「からかわないで。」
「なんだよ、少しは気分まぎれただろ?」
「…もう…」
「不満でもあるの?」
「…桐也くん、すっかり大人になったのね。少し寂しいな。アメリカ行く前は素直でかわいい子だったのに。」
「そんなんじゃ、向こうでは簡単に飲み込まれちゃうよ。自己主張しなきゃ、どんなに実力があったって負けちゃう。俺はそんなのゴメンだね。」
「そっか…怖いね。」
「だけど、実力さえあれば上にいける。俺はまだまだ上にいくよ。」
「うん、楽しみ。」

同じように暁彦さんから音楽について言われているはずなのに、桐也くんは自分の道をしっかりと切り開いている。
あの暁彦さんにも負けていない。
私は少し強く言われただけでもう諦めて…。
いいな…羨ましいな。
…すごいな、桐也くんは。

強気な瞳を輝かせながら歯を見せる衛藤を、静香は眩しく感じた。


2016.03.07. UP




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夢幻泡沫