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いつか一緒に
11
部屋に籠って練習していた月森は、いつの間にか眠ってしまった。
夢の中で、小さい頃の自身が周りの人間から賞賛されている。
しかし月森は腑に落ちない。
「蓮…音楽は自分も他人も楽しませるものなんだ。いいかい?技術ばかりではいけないんだよ。」
幼い月森の頭に優しく手を置いて、月森の両親が話す。
浮かんでくるのは、母のピアノに合わせて弾く父のヴァイオリンの音色。
二人とも笑顔で見つめ合いながら弾いている。
家族の音楽はどこまでも…甘く、やさしく…
そこで、月森は目が覚める。
「…眠ってしまったのか。」
ふと外からハープの音が聴こえてきた。
優しいゆったりとした曲が風に乗って運ばれてくる。
月森は誘われるように外へ出た。
ハープを持ち出し、月明かりに照らされて淡く優しく微笑みながら弾く音羽を月森はじっと見つめる。
…そう…かれらの音楽はどこまでも…心惹かれる…
月森は音羽の奏でる旋律に合わせて弾き始めた。
パッと彼女は振り向く。
そこでは月森が目を閉じて演奏をしていた。
彼自身気付いてないだろう。
微かな、本当に微かな笑みを浮かべながら…。
音羽も目を閉じて月森の音に合わせて弾き始めた。
弾き終わると月森は音羽の傍まで来た。
「…蓮、変わらないね。」
「そうだろうか?」
「うん…成長しているけど、芯の部分は昔の蓮のまま。」
音羽は月森を眩しそうに見上げる。
その瞳には懐かしさと共に寂寞の色も混じっていて、月森は微笑む彼女が何故だか痛ましく感じる。
「…この2年、何があったんだ?」
「何も聞いていないの?」
「ああ。」
「…じゃあ知らない方がいいわ。少なくとも、このコンクール中に知ることでもないし…」
「音羽の音が変わったのと関係あるのか?」
「そうね…」
「急に日本に戻ってきたこととも、か?」
だんだん核心に迫ってくる話に、音羽は俯いてしまう。
「これ以上は聞かないで?ねえ、蓮…私、蓮の音好きだわ。」
「…」
「完璧で正確で、でも優しさも混じっていて…」
音羽の言葉に、月森は驚いたように彼女を見る。
「何を驚いているの?一緒に弾く時、蓮は絶対に私の音を拾ってくれるじゃない。蓮が優しい音で弾いてくれるから…私もいい音が出せる。気付いてなかった?」
「俺の音は…」
「蓮の音、大好きよ。」
ふわりと笑って言う音羽に、月森は戸惑ったように頬を染めて戻っていってしまった。
「信じるもの?」
「また…えらく抽象的ですね。第二セレクションのテーマも…」
コンクールのメンバーが集められて、第二セレクションのテーマが金澤から発表された。
「イメージを膨らませろ〜、イメージを。」
「なーんかさ、金やんに言われても説得力ねえな。」
「あははは、確かにー。」
「うるせ。ああ…それと今回のセレクションなんだが…月森の親御さんが見に来ることになったんだ。なんでも、うちの校長と懇意で是非に…と校長が頼んだらしい。だよな、月森。」
「ええ…」
「へえ〜、月森君のお父さんとお母さんが来るんだ。」
「すっげー、浜井美沙がゲストかよ…」
土浦が唖然とした様子で呟く。
「なぁなぁ、柚木。月森君のお父さんって何している人?」
「楽器会社の社長さんだよ。」
「社長!?スゲーッ!!」
火原が興奮したように月森を見てまくし立てる。
「2人とも忙しいだろう?スケジュールは大丈夫なのか?」
「母は今海外公演に行っていますが、セレクション前に戻ってくると手紙にありました。父も出張中ですが、それまでには戻ると…」
金澤の質問に月森は淡々と答える。
そこからはセレクションの話より、雑談して時間が過ぎた。
その後、あっという間に月森の両親が第二セレクションのゲストで来ることが学院中の話題になった。
2013.05.03. UP
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夢幻泡沫