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いつか一緒に
14
第二セレクション当日、控え室で着替える音羽の表情はあまりすぐれなかった。
月森の両親に会うことに気が引けてしまう。
2年前、何も言わずに連絡を断ったのだから…
軽く息を吐きながらタートルネックになっているノースリーブのトップを着る。
下はAラインのロングスカートにベルトを締めた。
ダイヤのラインの耳飾りとネックレスをつけて、毛先を遊ばせて纏めた髪にも同じような飾りをつける。
ステージ袖に行くと、月森の両親がいた。
「ごめんなさいね、蓮。突然で。」
「でも、お前のステージ姿は久々だからな。楽しみだよ。」
「ご期待に添えるかわかりませんが、頑張ります…」
久しぶりに見る月森の両親は、彼に優しく手を差し伸べていた。
「音羽ちゃんじゃない!?」
月森の母親である浜井美沙が音羽に気付いた。
「…お久しぶりです、蓮ママ。」
「どうしていなくなっちゃったの?ずっと心配していたんだから。」
「ごめんなさい…」
「まあ、元気そうでよかったじゃないか。今はどうしているんだい?」
「蓮パパもお久しぶりです。蓮から何も聞いていない?今は…ここの普通科に通っているわ。」
「普通科!?音楽科ではなくて!?」
「うん…」
二人の驚きに金澤や参加者が驚く。
「えっと、お話し中すみません。お知り合いですか?」
「あ、はい。金澤先生ですよね?いつも蓮がお世話になっている上に、今日はコンクールにまでご招待いただいてしまって…本当にありがとうございます。」
「いえ、こちらこそ光栄です。」
「金澤先生、彼女を知りませんか?」
「どういうことでしょうか?」
「蓮ママ、止めて…」
音羽は浜井の腕を引っ張る。
「『Der Prinzessin Musai liebt』、聞いたことありませんか?」
「…ムーサイが愛する姫、ですか…そう言えば、どこかで…」
金澤が上を見ながら考え込む。
「彼女につけられたキャッチコピーですよ。」
月森の父親が音羽を見ながら言う。
「ハープ…Der Prinzessin Musai liebt…ああ…確か日本人の子でそんなこと言われていた奴が…。」
「それが彼女です。」
「僕も思い出しました。確か色んな国際コンクールのジュニア部門で何度も優勝していう上に、ヨーロッパを中心に何度もリサイタルを開いている女の子がいるって聞いたことがあります。日柳さんがそうなの?」
「…昔の話です。」
柚木に聞かれ、音羽は俯きながら答える。
「でも確か『日高音羽』じゃなかったかな…?」
「それは…」
「蓮ママ、今話すことじゃないし…これ以上は…」
必死の表情で話を終わらそうとする音羽の頭を、月森の父親は優しく撫でる。
「なあ音羽ちゃん、コンクールが終わったらゆっくり話をしよう?」
「…うん。」
「それにしてもまた綺麗になっちゃって。音羽ちゃんの音、久しぶりだから楽しみ。」
「…蓮には『変わった』って言われたけど。あっ蓮ママ、こちら土浦梁太郎君。蓮ママの大ファンなのよ。」
話題を変えようと、音羽は明るく土浦を紹介する。
「初めまして、浜井美沙です。同じピアニストとして貴方の演奏、とても楽しみだわ。」
ニコッと笑って言う浜井に、土浦はかーっと顔を赤くする。
「きょっ…恐縮です!」
「では私達は観客席の方へ行きます。」
月森の両親が連れだって観客席へ行くと、会場が一気に騒がしくなった。
2013.05.13. UP
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夢幻泡沫