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いつか一緒に

20



「土浦君、いま帰り?」

前を歩いていた土浦のそばに小走りによって、音羽は肩をポンと叩く。

「ああ、お前もか?」
「うん、ハープが置いてある練習室って1つしかないからなかなか空かなくて…」
「そりゃそうか。そういやほとんど使ったことねーな、練習室。」
「私も。」
「じゃあ早く帰んねーと練習する時間がなくなっちまうな。」

だから早いのか、と納得して土浦は音羽を見る。

「大丈夫よ。うち、防音だから。」
「お前んちもか?ウチも防音。」
「…あっ、そうか。土浦君ちってピアノ教室だっけ。」
「そうそう。」

そのまま校門まで歩いていくと、他校生の女の子が俯き加減で立っていた。

「うわ…かわいい。」

音羽が思わず口にした言葉に、その子が顔をあげる。

「崎本!?おまっ…何してんだよ、こんなところで。」
「あっ、よかったあ。行き違いになったらどうしようかと思った。」

土浦の知り合いらしいその少女はニコニコと笑いながら彼に近づく。

「突然ごめんね。梁太郎に会いたくて来ちゃった。この間はグチ聞いてもらっちゃってごめんね。」
「いや…別に構わねーけど。」

音羽の頭が混乱している前で、二人は会話をどんどん進める。

「そのおわびと言うのもなんなんだけど…遊園地の招待券があるから、行かないかな?…って。」
「え?」

土浦が軽く驚いたことで会話が漸く途切れ、音羽はやっと声をかけることができた。

「あの…土浦君。」
「あっ、悪い日柳。」

土浦はパッと後ろにいる音羽を振り返る。
その少女も音羽に気付き、土浦に聞く。

「綺麗な人…お友達?」
「ああ…」
「こんにちは。崎本水枝と言います。土浦君とは中学校が一緒だったの。」
「はじめまして。日柳音羽です。」
「あの…もしよかったら一緒に行きませんか?」
「え!?」
「チケット2枚あるし、これ1枚で2人入れるからどうですか?」
「え…あの…」
「あー…でも奇数じゃないほうがいいのかな?」
「いえ…その…」

どんどん話を進める崎本に音羽はついていけない。

「どいてくれないか?」
「あっ、すみません。」

後ろから声を掛けられて音羽が慌てて避けると、月森がそこに立っていた。

「蓮。」
「お友達…?」
「あー…」

何とも言い難く、土浦は言い淀んでしまう。

「それじゃあ彼も一緒で、4人でどうかな?」
「え!?」
「崎本!?」

彼女の大胆な提案に、音羽と土浦は勢いよく崎本を見る。

「あっ…ごめんなさい。私ってば勝手に…。都合…悪いですか?」

少々強引なところもあったが、結局4人で遊園地へ行くことになった。



「何かすごく久しぶりかも、遊園地って。」
「音羽ちゃんも?私もすごく久しぶりなんだ。」

堅苦しいから『音羽ちゃん』と呼びたいと言う崎本が、ニッコリ笑いながら言う。

「音羽。これからどうするんだ?」
「そうだなぁ…」

月森の言葉に相槌を打った音羽だったが、どこか慌てたように彼を凝視する。
『どうする』って、遊園地に来てすることなんて何パターンしかないはずなのだが…。
様子を窺うようにジッと見てくる音羽に、月森は怪訝な目を向け返した。

「どうした?」
「まさか…遊園地に来るの、初めてとか言わないよ…ね?」
「馬鹿にするな。来たことぐらいある。」
「そうだよね、ごめんごめん。」
「物心ついたかつかないかの事だから、ほとんど覚えていないだけだ。」

呆れて溜息を吐く月森の言葉に、音羽は一瞬固まる。

「…それだけ!?」
「それだけだが、何か?」
「何か…って、ジェットコースターとか大丈夫?」
「大丈夫も何も、乗ったことがないんだから分からない。」

再度溜息を吐く月森に、音羽は妙に納得する。

「…面白いね、蓮。」
「は?」
「おい、日柳。お前何か乗りたいものあるかー?」

先を歩いていた土浦が振り返りながら声をかけてくる。

「私?」

音羽は少しだけ考えてニッコリ笑う。

「あれ。やっぱり醍醐味でしょ!」
「まあ…そうっちゃそうだけど…」
「あ、蓮。大丈夫?」
「大丈夫だ…」
「ホント?」
「ただ単に速いだけだろう?特に問題はない。」
「速いだけ…って…」

乗ったことがないのに言い切る月森に、音羽は苦笑した。


2013.06.03. UP




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夢幻泡沫