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いつか一緒に

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「うっわぁ、高ーい!蓮、見て!遠くまで見えるよ!!」
「そうだな。」
「あっ…そうだ、さっきはありがとう。」

お化け屋敷で散々醜態を曝した揚句、月森に手を引っ張ってもらった音羽は恥ずかしそうにお礼を言う。

「いや。」
「蓮、遊園地どう?」
「…気分転換と言うか、普段の自分の生活にはない感覚だな。」
「来てよかった?」
「頻繁にはごめんだけどな。でも…悪くはない…」
「ホント!?よかったぁ!」

ニコニコ笑いながら月森を見る音羽に、彼は困ったように視線を逸らした。

「…音羽の方こそ、気分転換になったか?」
「うん、楽しい。」
「それならばいいが。…第三セレは一体どうしたんだ?」
「あー…ひどい演奏だったよね?」
「そうだな。テクニックだけは完璧だったが、あれはまるで機械が奏でているようだった。」
「…うん。自分でもそう思う。」

苦笑しながら外を見る音羽の横顔を、月森は真っ直ぐ見据える。

「何かあったのか?」
「うぅん、何も。…ただ、他のメンバーのように…蓮のように明確な目標もないのに、一度は自ら避けた道にまた向かうのは…甘いんじゃないかと思って。そしたら…音楽自体が楽しくなくなって…」
「音羽がそんなに感情に振りまわされるようになるとはな。」
「…昔からそうだよ。音楽に触れている時は、どんな状況であっても楽しかったし嬉しかった。」
「楽しい、嬉しい…か。だからムーサイに愛されているんだろうな、きみは。」
「逃げたけどね。もう嫌われちゃったかも…。それでも、初心に帰ろうと思って…心配かけてごめんなさい。」

音羽の言葉に月森は優しく目を細める。

「そうか。…最終セレが楽しみだ。」
「私も。蓮のあの演奏をまた聴きたいな。」
「あの演奏…?」
「第二セレの後にひとりで弾いていたでしょう?あの演奏はすごく…」
「音羽も聴いていたのか…」
「…『も』?」
「あ、いや…お母さんが。」
「うん、蓮ママと一緒だったよ。」
「あの演奏…あの演奏は他と何が違ったんだ?」

分からなくて困ったように眉を寄せながら月森は音羽から視線を外す。
まるで聞きたくない、けれど知りたいと言うように…

「いつものステージや私と一緒に合奏してくれる時とは違って…演奏に勢いがあって、いつもの蓮より伸びやかで自由な感じがした。だからなのかな…蓮の世界に引き込まれるような、捕われるような感覚に圧倒されたわ。」

眩しいものを見るように目を嬉しそうに細めて音羽は続ける。

「羨ましいとかもどかしいとか…そんな感情を全て飛び越して、ね。いつもの蓮とは違う一面が見られたって言うか…」

好き勝手言ってごめんと謝る音羽を、月森は穏やかな顔で見返していた。



「何か食べて帰る?」
「そうするか?」

日も落ちかける頃、音羽達は遊園地を出た。
繁華街を歩きながら食べる場所を探す。

「蓮、時間大丈夫?」
「ああ。」

音羽の方を見た月森は、その後ろにあるガラス張りの建物に目を移した。
彼の視線に気づいて、音羽は自身の後ろを見る。

「こんなところに大きい楽器店があったんだ。」
「ホントだ。知らなかったな。」
「寄る?」

音羽は月森に提案する。

「ああ、欲しい楽譜があるんだが…いいか?」
「うん。崎本さん、ごめんね。いい?」
「全然平気だよ。気にしないで。」

自動ドアの中はたくさんの楽器が置いてあった。

「うわぁ、種類が多いね。」
「音羽ちゃんは何をやっているの?」
「コンクールにはハープで参加しているわ。」

色々な楽器に目移りしながら音羽は明るく答える。

「やっぱり楽器ができるっていいなあ…。楽しそう。」
「え?あ…うん、楽しいよ。」

愛おしそうに楽器を見つめる音羽を、崎本は羨ましそうに見つめた。


2013.06.14. UP




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夢幻泡沫