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いつか一緒に

23



「へえ…ピアノもずいぶんと展示してあるんだな。」
「そうだな。」

ピアノコーナーに向かった土浦と月森は一台のピアノの前で立ち止まる。

「これ…いいな。月森、お前家では何を使っているんだ?」
「ピアノは…母がグランドピアノを使っているが、俺は普通のアップライトだ。きみは?」
「俺?俺はグランド。」
「自室にか?」
「ああ…」

土浦の答えに、月森は軽く目を瞠る。

「何だよ?」
「いや…あそこまで弾けるってことは、小さい頃からやっているんだろう?」
「ああ…まあ、そうだな。」
「今回のコンクールだけなのか?」
「え?」
「この先、続けていかないのか?ってことだ。」

急に真面目な顔で自身を見据える月森に、土浦は一瞬思考が停止する。

「な…珍しいな。お前がそんなこと聞いてくるなんて…」
「そうか…?」
「そうだよ。お前の方こそどうなんだ、月森?いずれ海外に行くんだろ?ってか、もう行っててもおかしくねーよな。」
「ああ…」

即答する月森に、土浦はもどかしい気持ちを隠せない。

「確かにいいピアノだな。」
「お弾きになりますか?」

第三者の声に顔を上げると、店長が愛想よく近づいてきた。

「え?でも…」
「もちろん調律もしてありますし、ぜひ音のほうも聴かれてみませんか?」

その言葉に考えるようにじっとピアノを見つめると、土浦は静かに椅子に座る。
確かめるように一音だけポーン…と弾くと、徐に弾き出した。



「土浦君!?」
「えっ!?音羽ちゃん?」

曲が流れだした途端にピアノの方に近寄る音羽を、崎本は驚いたように追いかける。

「…『エオリアン・ハープ』。…すごい…風をこんなに感じるなんて…」

まるで実際に風が吹いているような錯覚を感じる。
呆気にとられるように立ち尽くす音羽を、土浦は穏やかな顔でピアノ越しに見た。

こいつがいなかったら、今の自身はいない。
楽しいと感じるようになるなんて思わなかった。

自身の感情と向き合うように、土浦は鍵盤に集中する。

あいつの存在がこんなに大きくなるなんて思わなかった…
あいつが…日柳が好きだ…

土浦は己の感情に気がついてしまった。

「蓮、今日の土浦君すごいね…」
「…ああ。」
「肌が粟立っちゃった…」

ゾクっとする感覚に思わずほぅ…と溜息を吐いて、音羽は土浦を見る。

「日柳、お前も一曲弾けよ。」

弾き終わった彼が音羽に席を譲るように立ち上がる。

「や、私はいいよ。」
「お嬢さんもぜひどうぞ。」

土浦の演奏に感嘆していた店長も微笑みながら勧める。

「音羽、弾いてみたらどうだ?」
「…じゃあ短いのね。」

音羽は月森に荷物を預けると椅子に座った。
軽く腕を振ると鍵盤に乗せる。
直ぐに土浦とは違う軽やかな曲が奏でられ始めた。

「『蝶々』か…相変わらずやってくれるよな…」

まるで花から花へ舞い飛ぶ蝶の様な彼女の手の動きを見ながら、土浦は考え込むように音羽を見る。
今まで聴いてきた彼女の音とは違う。
少女特有の華やかさ、可憐さ、そしてどこか漂うほんのりとした色気。
年相応の表情を見せる音羽の演奏に、土浦は目を奪われた。
隣では月森が淡く笑っている。

「…なあ、月森。日柳って昔はどんなスタイルだったんだ?」
「音羽か?…柚木先輩が近いな。高度な技術を持っているからこそ優雅でせかせかしていなく、それでいて華やかさを感じさせる。そんな弾き方をしていた。」
「あの何とかって言うキャッチコピーはどういう意味なんだ?」
「『Der Prinzessin Musai liebt』か?ムーサイが愛する姫、だ。」
「ムーサイ…?」
「…音楽の女神だ。」

ふう、と軽く息を吐いて月森は話を終わらす。

「初心に帰ったようだな…」

再び淡く笑って音羽を見てポツリと呟く月森に、土浦も納得したように彼女を見た。


2013.06.17. UP




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夢幻泡沫