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いつか一緒に

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「『かけがえなきもの』?それが今回のテーマなの?金やん。」
「ああ。」

最終セレクションのために呼び出されたメンバーは、少しだけ穏やかな顔で金澤を見る。

「へえ〜。なんかいいな、その言葉。」
「うん、最終セレクションらしいかもね。」
「ま…今回で最後だし、お前さん達の演奏に期待してるさ。じゃあ、解散するか。」



「日柳。一緒に戻ろうぜ。」

土浦に誘われ、音羽は彼と一緒に普通棟へ歩いた。

「…この間は付き合わせて悪かったな…。ありがとな。」
「遊園地のこと?全然平気だよ。楽しかったから、気にしないで。」

ブンブン手を振りながらこっちこそありがとうと音羽は続ける。

「彼女…崎本さん、元カノなんだね。土浦君の!」
「え?」
「すごくかわいいし、『梁太郎』とか名前で呼んでいるし、私と蓮はお邪魔だったんじゃないかな…」
「そんなんじゃない。」

土浦の強い言葉に音羽は驚いて彼を見上げる。

「…え?」
「崎本とはもうなんでもないんだ。俺は…」

音羽の頬に添えるように手を差し出し続けようとした土浦の言葉は、バーンという大きな音に遮られた。

「そもそも無理なんだよ、月森君と同じレベルを求められたって!もう嫌だ!!やめさせてもらうからね、伴奏!!」
「おいっ…」

驚いた二人が音のした方を向くと、走り去った男子生徒の後ろを月森が呆然と見送っていた。

「…大丈夫かなぁ…この時期にこじれたら大変…だよね。」
「ああ、そうだな。」
「土浦君、ごめんね。ちょっと行ってくる!」
「えっ…おい!日柳!?」

音羽は月森の伴奏者が去っていった方に走っていった。



「で…どうするんだよ、伴奏者。」
「…誰か代わりを探す。」

仕方なく土浦は月森のそばに近づいて話しかける。

「はあ!?探すって…今からかよ?話し合えばいいだろう?今までやってきたんだから。」
「きみには…関係ないだろう。」
「月森…お前はホント…」

土浦は呆れたように溜息を吐くと薄く笑った。

「今回だって、どうせお前が何か余計なことを言っておこらせたんだろ?かわいそうにな、伴奏者。」
「別に…たいしたことは言っていない。」
「はっ、どうだか。」
「弾けてないから弾けてないと言っただけだ。」

月森の言葉を土浦は意外な顔をして受け取る。

「お前の伴奏者…アイツ、かなりうまいだろう?」
「何がいけない?俺は手を抜きたくないだけだ。その時できる最高の演奏をしたいだけだ。土浦…きみだってそうじゃないのか?妥協できるタイプには見えないが。」
「…!」
「彼はもっと弾けるはずだ。合わせようとしているのは分かるんだが、変な遠慮があってどんどん音が委縮していく気がする。」

月森にはきちんとした考えがあることが分かった土浦は少し黙り込む。

「お前…それをちゃんと言ったのか?」
「いや…?」
「はあ!?言ってない!?なんだよ…じゃあ月森、お前ただ弾けてない、ダメだってそう言ったのか?」
「…ダメだったか?」

土浦が何を言いたいのかよく分からないといった感じで月森は返す。

「!?」
「だいたい…話し合うと言っても何を話し合えばいいんだ?」

本気で分からない様子の月森に、土浦は頭を抱えたくなってきた。
月森は音楽に関してはカタブツすぎる程に真面目で、上昇志向が強くてコンクール至上主義者。
土浦の苦手とするタイプだが、くやしいことに実力は本物で認めざるを得ない。
基本的に土浦は月森のことは気にくわないが、単純に興味があった。
月森のヴァイオリンと自身のピアノはどう響く…?

「なあ…月森。楽譜、見せてみろよ。」
「土浦…?」
「弾いてみろよ、どの程度のものか。俺が伴奏してやるよ。」



「無理なんだよ、もう!そもそも僕に月森君の伴奏なんて荷が重すぎたんだよ。力不足なんだよっ!」
「でも今までやってきているんだし…」

月森の伴奏者に追いついた音羽は歩みを止めない彼の後を追いかけながら声をかける。

「一生懸命弾いても『弾けてない』って嫌味言われて、言われるたびに演奏がかたくなって…月森君の演奏を聞くたびにコンプレックスを刺激されて、もう限界なんだ!」

彼の言いたいことがよく分かり、音羽は額に手を当てたい気分になる。

「でも…蓮、後悔していると思うの。」

音羽の一言に伴奏者の足がようやく止まる。

「月森君…が?」

振り返った彼は目元が少し赤かった。

「蓮ってあんまり喋らない割に口を開けば物言いはキツイし、何考えているのか分かりにくいけど…音楽に対していい加減なことを言う人じゃないわ。第一、力不足だと思う人と組むようなことはしない。」

微笑んで言う音羽に彼は目を丸くする。

「だから…ね、話し合おうよ!」
「でっ…でも…!!」

戻る戻らないの攻防を繰り返す二人に、微かな音が聴こえてきた。


2013.06.24. UP




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夢幻泡沫