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いつか一緒に
26
家にあるハープにコツンとおでこをつける。
「…行ってきます。」
淡く微笑んでそっと呟いてから音羽は家を出た。
「日柳先輩…」
「あ、冬海ちゃん。おはよう。」
「おはよう…ございます。」
「いよいよ最終セレクションだね。」
「はい…」
音羽は少し遠い目をして話す。
「…ついこの間知り合ったばっかりなのに、色々…あったよね。」
「あ、あの…日柳先輩。」
「ん?」
「私…このコンクールに参加できてよかったです。…日柳先輩達とご一緒できて…私…もっと頑張らなくちゃって、少し強くなれたような気が…するんです。」
音羽は冬海を見て優しく笑う。
「冬海ちゃん、私の方こそありがとう。普通科で過ごしていた私が…自分からコンクールに出ていなかった私が、蓮や土浦君をはじめ…こんなにレベルの高い中で最後まで一緒にやらせてもらえて…。」
「日柳先輩…」
「コンクールがなかったら絶対に冬海ちゃんに出会えなかった。それだけでも嬉しいわ。」
にこやかに笑う音羽に、冬海は顔を真っ赤にして照れる。
「あ…あの、それで…日柳先輩…」
「ん?」
「『音羽先輩』って呼んでもいいですか?」
「え?」
冬海の思ってもみなかった言葉に、音羽は固まる。
「やっぱりダメ…ですか?」
「うっ…」
「すみません、図々しいことを言って…」
「ううん、違うの!嬉しいわ!!」
顔がどんどん青ざめていく冬海を見て、音羽はブンブン手を振り慌てて了承する。
「よっ。」
「土浦君、おはよう。」
「朝っぱらから何やってんだ?」
後ろから声を掛けられたことに振り向くと、土浦が覗き込むように見てきた。
「あのね、冬海ちゃんが『音羽先輩』って呼んでくれるんだって。羨ましいでしょ!」
「あ…お…おはようございます。土浦先輩…」
「何だか珍しいなあ、冬海の方からあいさつしてくるなんて。」
「え?そうなの?」
「そうだよ。もしかして初めてじゃねーか?いっつもビクビクしてるもんなぁ、冬海。」
苦笑しながら見てくる土浦に、冬海は堪らず音羽の後ろに隠れる。
「あ…あの、いえ…あっ…すみません…」
「なんかしたか…?俺。」
微妙にしょげる土浦に音羽は乾いた笑いを送る。
そんな彼の背中に衝撃が走る。
「うぉっ!?いってえなあ…って志水かよ。」
思わず眉を顰めて後ろを向くと、志水が鼻を押さえてよろめいていた。
「あ…おはようございます…」
「お…おう。」
「あ…すみません。ぶつかりました?」
「おいおいおいおい…」
ペコリと頭を下げながら今更のように聞いてくる志水に、音羽達は吹き出してしまう。
「おはよう、志水君。」
「おはようございます、日柳先輩。」
「そろそろ急いだ方がいいかもしんねーな。」
土浦の言葉に、4人は揃って控え室に向かった。
荷物を置くと衣装を取り出す。
オフホワイトのワンショルダーで、ハイウエストの切り返しからはシフォンの布がたっぷり使われている。
ショルダーは深い切れ込みの入った袖が肘丈ほどあり、切り返しのところにはビーズで幅広にベルト風に刺繍されたロングドレス。
耳には小さい宝石がたくさんついている飾り、髪はおろしたまま雫型の額飾りをつける。
ヒールのあるグラディエーターサンダルを履いて鏡で確認していると、リリが現れた。
「ついに最終セレクションだな…」
「うん…」
「その衣装、まるで女神の様だぞ?」
「あー…うん、そういう風に見えるように狙ったから。やっぱりハープのイメージってあるでしょ?」
くすぐったそうに笑って音羽は軽く息を吐く。
「今日は…ありのままの自分で、素直に弾こうと思っているわ…」
穏やかに言う音羽に、リリはどこか切なそうに笑った。
2013.07.01. UP
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夢幻泡沫