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いつか一緒に

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「リリ…リリ!!」

音羽は両手で自らの口元を押さえると、涙を流して上を見上げながら泣いた。
涙を抑えることができず、ポロポロと頬を伝う。
どれくらいそうしていただろうか、そこへ金澤が入ってきた。

「おーい。日柳ー、いるか?」

振り向く音羽の目に涙が溜まっているのを見て、金澤は慌てる。

「…って…オイ、どうした!?」
「すみません…何でもないです。」

音羽は俯くと指で涙を拭う。

「何でもないって…あー…もしかしてアレ…か?あの、ちまいのか?」
「え?」
「よっ…と。」

金澤は理解したかのように音羽の傍に座る。
そして彼女の頭にポンと手を置いた。

「頑張ったよ、お前さんは。本当によく…頑張ったな。」

金澤の優しさに音羽はまた目の前がぼやける。

「先生〜…」
「オイオイ。泣くなよ、日柳〜。」

参ったなと言いながら、金澤は音羽をわしわしとあやした。
彼女はぐすぐす泣きながらも、近くにいるであろうリリに心の中で話し掛けた。

素敵な時間をありがとう…
音楽をもっと好きにならせてくれてありがとう…



最終セレクション、審査結果。
1位 日柳音羽  『四季 冬』
2位 月森蓮   『ロマンス第2番』
3位 志水桂一  『ハンガリー狂詩曲』
4位 土浦梁太郎 『ラ・カンパネラ』
5位 火原和樹  『ファランドール』
6位 冬海笙子  『夢』
7位 柚木梓馬  『幻想曲』



星奏学院学内音楽コンクール、総合順位。
1位 音楽科2年A組 月森蓮
1位 普通科2年2組 日柳音羽
3位 音楽科3年B組 柚木梓馬
4位 音楽科1年A組 志水桂一
5位 普通科2年5組 土浦梁太郎
6位 音楽科3年B組 火原和樹
7位 音楽科1年B組 冬海笙子



コンクールが終わってもしばらくはその話題で持ちきりだった。
同率で1位が2人いるなど、学院始まって以来だった。
その片方が普通科であることが、また話題を大きくさせていた。

「蓮、音羽ちゃん、コンクールは終わったのかい?」
「はい、お父さん。」

答える月森の隣で、音羽も首を振る。

「そうか、お疲れ様だったね。どうだった?学内コンクールは。」
「…はい、学ぶべきことが多かった…そう思います。」
「音羽ちゃんはどう?」
「いろんな音楽が聴けて、いろんな想いを感じて…私も少しは前に進めたと思うわ。」

浜井の問いに音羽は少し照れながら答える。

「蓮から聞いたわよ。音羽ちゃんの最終セレクションの音は、『Der Prinzessin Musai liebt』そのものだったって。」
「そうだと嬉しいんだけど…。蓮の最終セレは第2セレの時以上に感動したよ。」
「まあそうなの?この子ったら、自分のことは言わないんだから。」

笑いながら月森を睨む浜井の視線を避けるように、彼は音羽を睨む。
そのやり取りを笑いながら見ていた月森の父親が、浜井と目を合わせて笑顔を引っ込めた。

「ねえ、音羽ちゃん?コンクール中に言おうとしたことなんだけど、一緒に住まないか?」

月森の両親は顔を見合せながら徐に音羽に切り出す。
ビックリして目を丸くしていた彼女だったが、

「…ありがとう、蓮パパ、蓮ママ。でも…私はもう子供じゃないから。一人で頑張ってみるわ。」

ニッコリ笑って断る。

「そう言うと思っていたが…。でも忘れないでくれ、私達はいつだって音羽ちゃんの味方だからね。困ったことがあればすぐに頼りなさい。」

軽く息を吐いて目を伏せた後、穏やかな笑みを浮かべて月森の父親は音羽に諭すように言い含めた。

「ありがとう、蓮パパ。蓮ママも頼りにしています。蓮も、ね。」
「じゃあ音羽ちゃん。前にも言ったけど、本気で口説かせてもらうわよ。ビジネスの話をしましょう。」

浜井はそう言うと音羽を自室に連れて行った。
その後ろ姿を見送りながら、月森の父親は息子を見る。

「なあ…蓮、ひとつ提案があるんだ。」

最後まで聞き終わった月森は、その内容に少なからず驚いた。


2013.07.12. UP




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夢幻泡沫