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いつか一緒に

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画面いっぱいに目を閉じた音羽が映る。
ヘッドフォンに手を当て、流れてきた音楽に気がつくとニコニコ笑う。
切り変わった場面はハープを演奏する彼女の姿。
バックに流れている音楽も、もちろん音羽が弾いたもの。
再び彼女がカメラ目線で、少し驚いた顔からはにかむ様な優しい笑顔を見せる。

「音楽に恋しよう…」

そんなCMが世間の茶の間を沸かせた。



夏休みが終わる直前にこんなCMが流れれば、学院の生徒が騒がないわけがない。
2学期早々、音羽は金澤に呼び出された。

「おー、やっと来たか。おせーよ、お前さんは。呼び出されたらとっとと来い。…で、タレント志望だったのか?日柳。」
「まさか…」

げんなりした様子で音羽は答える。
彼女は学校に来てからというもの、珍獣のように見せものにされた気分で過ごしていた。

「おい、見たかよアレ。」
「見た見た、CMでしょ!?」
「あれ、2年の日柳さんだよね。」
「ビックリしちゃった。どうしてCMなんかに出てるの?」
「でもっ、綺麗だったよな。特に最後の笑顔とかっ!そこらへんの女優顔負け!!」

思い出すだけで疲れが溜まる。

「何でこんなに大袈裟になっているんですか…」
「お前さんなあ…確かに容姿からしてテレビに出てもおかしくはないけどよ。こういうことは事前に報告しろ、いくらうちが校則は厳しくないとはいえ。大体どうしてCMに出ることになったんだ?」
「それは…」

他の人にはまだ黙っていてほしい、と金澤に頼みこんでから音羽は理由を話しはじめた。

「まあ…そういうことなら。いいか日柳、次回からはきちんと報告しろよ。」

とりあえず教師らしいことを言ってから、金澤はふぅ…と息を吐く。

「いよいよと言うか、とうとうと言うか、やっとと言うか…。まあ、頑張れよ。」
「暫くはいろいろとお騒がせすると思いますが…」
「事前に報告するのを忘れなさんな。」

戻ってよし、と音羽の肩をポンと叩いて金澤は彼女を追い出した。



教室に戻る途中の普通棟が騒がしい。

「ホントだよー、見た子いるもん。まじかっこいいらしいよ!!」
「へえ…」
「何組に入るのかね?」
「今日、来てるんでしょ?」

音羽は既に芸能人とか有名人とかの扱いだが、どうやら何か他にもニュースがあるようだ。
我関せずの音羽は、寝不足になった眠たい目を擦りながら席に座った。

「ちょっとちょっと、音羽ちゃん聞いてる?」
「ん?」
「もー!だからぁ、転校生の話!」

そこへ美緒が頬を紅潮させながら話し掛けてきた。
丁度その時、担任が教室に入ってくる。

「うおーい、HR始めるぞー。席に着けー!」

わらわらと生徒が席に着くと、折角静まった教室を騒がせる一言を放った。

「始める前に、皆に紹介したい奴がいる。おい、入っていいぞ。」

途端にえーっと教室が騒がしくなる。
どうやら美緒が言っている転校生が音羽のクラスに来るようだ。
特に興味のない音羽は、騒がしいクラスの中でボーっと窓の外を見ている。

「はい。2学期からこのクラスの仲間になる加地葵君だ。みんな、分からないことがあったら助けてあげるように。」
「加地葵です。東京の学校から転校してきました。よろしくお願いします。」

加地はにこやかに挨拶をする。
聞こえてきた声に音羽はようやく彼を見た。
噂されていたように確かに男前である。
背も土浦くらいありそうだ。

「じゃあ加地の席は…」
「先生ー!こっちにしてくださーい!!」
「えー、こっちはぁ!?」
「分かった。分かったから、女子!静かにしろ!」

色めき立つ女子生徒を担任は抑えるのに必死である。
それでも音羽はぼんやりと加地を見続けた。
ピアス発見、まつ毛長い…など、どうでもいいことを考える。
音羽が自ら近づかないタイプであろう加地を眺めていると、彼と目が合ってしまった。


2013.07.19. UP




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夢幻泡沫