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いつか一緒に

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「…はあ〜、これはまた…すげえな。」
「合宿のスポンサーの一人の、有名な指揮者の所有らしいよ。大きなホールと宿泊施設も完備なんだって。」
「うーん、それにしてもみんな上手そうだね。」
「そうだね〜。難しそうな曲、弾いている気が…」
「まあ…なあ。仮にも選抜合宿だしな。」

音羽は選抜合宿が行われているところへやってきた。
何故か駅で会った土浦と加地と一緒に窓の外から中を覗くと、上手そうな人たちがわんさかいる。

「何で加地まで来てるんだよ。」
「えー…。でも僕は、日柳さんとこうやって一緒にいられてラッキーだな。」
「えっ!?」

迷惑そうに言う土浦の言葉をかわし、加地は音羽をヒョイと覗く。
加地のストレートな言葉に、音羽は顔を赤くした。
その顔を押さえて、土浦は呆れて加地を見る。

「所構わずくどくな。」

加地の驚いた目と土浦の真剣な目がぶつかる。

「んー!」

土浦に顔を押さえられている音羽は息ができない。
彼女が土浦の手を必死で叩くと、

「っと、悪い日柳!」

漸く放してくれた。

「ったく…」

調子が狂うと言わんばかりに、土浦は前髪を掻き上げる。
それを見た加地はどこか納得した顔をした。

「ふーん…素直じゃないよね〜、土浦って。ね、日柳さん。」
「お前なあ…」

慰めるように音羽の頭を撫でていた加地を、土浦が嫌そうに見る。

「そういやさあ、加地…お前って…」
「ん?」
「日柳を追いかけて転校してきたって…本当か?」
「本当だよ。」

間髪入れずにさらりと答える加地に、土浦は固まり音羽は顔を真っ赤にする。

「それがどうしかした?」
「そ…即答かよ。」
「なんだよ。本当なんだから、仕方ないだろ?」

脱力しながら彼を見る土浦に、加地は悪戯をするように音羽の耳を塞ぐ。

「付き合いたいとか…そんな大層なことを考えているわけじゃないんだ。ただ…もっと近くに行きたくて…」
「それでも、普通そこまでするかあ…?」
「土浦はどうしたいの?どうして動かないの…?」

真面目な顔をして互いを真っ直ぐ見合う2人を、音羽は交互に見比べる。
彼女は自身の耳から加地の手を離し、不思議そうに聞く。

「…何話していたの?」
「日柳さんって綺麗だよねって話してたんだよ。」
「嘘ばっか吐いて…」

ニコニコと音羽を見て答える加地に、ぷうっと頬をふくらますと彼女は土浦の方に向き直る。

「ねえ、何話していたの?」
「あー…まあ…」



「おーい!なーにやってんだあ?お前さんたち…。え?」

突然聞こえたドスが効いた低い声に音羽達が恐々後ろを振り返ると、全身から怒りが溢れている金澤が土浦の首に腕を絡ませていた。
その後ろには音羽にとって懐かしい人物が立っていた。

「…Ich bin nach einer langen Abwesenheit.」
「Rick, Waren Sie gesund?」
「Ich suchte es die ganze Zeit.」
「Mir tut es leid.」
「Ich bin froh, fähig zu sein, sich zu treffen. Ich freute mich auf dieses Trainingszeltlager.」
「Ich auch.」

ハグをして頬にキスをする音羽達を、金澤達3人は黙って見ている。

「Rick, Dies ist Mr. Kanazawa. Es ist ein Lehrer der Musik von der Schule, zu wo ich gehe.」
「Nett, Sie zu treffen.」

握手をするリチャードに音羽は土浦を紹介する。

「Dann ist dies Tsuchiura-Ryotaro. Ich studiere in einem Klavier und bin sehr gut.」
「Ich will es auf alle Fälle hören.」

ピアノ専攻と聞いて、リチャードが興味を持ったように彼の手を眺める。

「…Ich mache einen guten Weg. Ich will seinen Klang hören. Nehmen Sie an einem Trainingszeltlager teil?」
「Nein. Er kommt für einen Freiwillige.」
「Es ist eine Verschwendung davon. Werden Sie hören, ob es an der Nacht von heute Zeit gibt?」

リチャードの言葉を受けて、音羽は土浦の方を向く。

「リックが土浦君の音を聴きたいって。今日の夜、時間ある?」
「俺が!?リチャード・ルニエの前で!?」
「うん。」

自身のピアノを聴いてくれると分かった途端、土浦は顔を真っ赤にして興奮しだした。

「もちろん空いてるぜ!!マジかよっ!?」
「じゃあ詳しく決まり次第、連絡するね。」

音羽はそう言うと、リチャードと練習室に向かった。


2013.07.29. UP



しばらくドイツ語ターンとなります。
もちろん、某翻訳サイトのものをそのまま引っ張ってきました。
単語、表現が間違っているなど、教えて下さる方大募集です(ただしうっす〜いガラスハートなので優しくお願いします)。




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夢幻泡沫