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いつか一緒に

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「次のコンクール、出るんだっけ?」
「うん、そのつもり。」
「コンクール久しぶりだから、緊張する。」
「もう準備はじめてるんでしょ?」

他の学校からの選抜メンバーの会話に、音羽は人知れず溜息を吐く。
リチャードに言われて出ることになったが、一般の部で国際コンクールに参加するのは彼女にとって初めてのことである。
当然周りは自身より年上である。
そんな中でやっていけるのかしら…ともう一度溜息を吐いた。

「日柳…?」
「土浦君。」
「悪い、待たせたか?」
「うぅん。私も今、来たところ。」

小走りで近寄ってくる土浦を、音羽は立ち上がって迎える。

「リックが楽しみだって、レッスンの間ずっと言っていたわ。」
「本当に聴いてもらえるとはな…」

土浦は嬉しそうにニヤッと口角を上げる。

「じゃあ行こうぜ?」
「うん。」

歩き出した彼の後ろで音羽が軽く息を吐いたのを、土浦は聞き逃さなかった。

「…お前さっきから溜息を吐いてるけど、何かあったのか?」
「あ、うぅん…」
「俺でよかったら聞くぞ?」
「…ありがとう。」

ふわりと笑う音羽に、土浦はほんのり頬を染める。

「練習する音が…結構聴こえるよね。」
「ああ。夜まで練習してるんだな。」
「聴いていたら、やっぱりみんなすごくうまいんだなぁって。」
「何言ってるんだよ。日柳もだろ?月森とあれだけ同じ舞台に立っておいて。月森だけじゃない、柚木先輩や火原先輩…志水に冬海だってここにいる奴らとたいして遜色ないぜ?あれだけハイレベルな中でやってきたじゃないか。そんなお前がいたから…」

音羽の歩くペースに合わせてゆっくり歩きながら、土浦は穏やかに彼女を見下ろす。

「だから俺は今ここに、お前と一緒にいるんだろうな。」
「でも、第二セレの蓮の演奏を聴いた時なんて言葉にならないくらい…」
「第二セレ…って、月森…確か棄権したんじゃ…」
「あ…うん、セレクションの後に一人で弾いているところに偶然…。あれは本当に凄かった。別世界だったよ。」

遠くを見て音羽は羨ましそうに言う。

「…別世界ねぇ。…行きたいとは思わないのか?お前はそこに。俺は思うぜ。始めたからにはなりふり構わず全力で行くし、周りの目を気にして萎縮して…立ち止まって何になる?」

土浦は真っ直ぐと芯の通った目で音羽を見て話すと、ふっと笑った。

「だからルニエに聴いてもらえるなんて、俺は嬉しいぜ?彼とは一体どういう関係なんだ?」
「リックと?」
「ああ。」
「私、中学を卒業するまで日本と向こうを行ったり来たりしていたの。リックは向こうの学校の先生で、両親の友達だった人。小さい頃から知っているから、私にとっても先生より友達…かな?」

ホールに向かって並んで廊下を進んでいると、前から月森がヴァイオリンを持って歩いてきた。

「蓮。」
「音羽か。…何で土浦がいるんだ?」
「いちゃ悪いかよ。金やんに言われて、ボランティアやってるんだ。」

顔を顰めながら、それでいて互いに見ようとしない2人に音羽は苦笑する。

「蓮、今まで練習していたの?」
「ああ。音羽はどこに行くんだ?」
「内緒にしてね。」

そう言って、彼女は月森の耳に顔を近づけた。

「これからホールで土浦君がピアノを弾くの。リックが聴きたいんだって。」
「…俺も行ってもいいだろうか?」
「うん。」
「おい、日柳。お前が返事するなよ。」
「えー、蓮も一緒でいいでしょ?」

音羽は楽しそうに笑いながら土浦を見る。
ちっと舌打ちをしながらも了承する土浦を先頭に、3人はホールに入った。


2013.08.09. UP




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夢幻泡沫