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いつか一緒に

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「好きです…付き合って下さい!」
「…ごめんね。気持ちは嬉しいんだけど、僕は…日柳さんに全てを捧げているんだ。」

加地が転校してきてから、このような光景がよく見られるようになった。

「…ってことが昨日もあったよ。」
「なっ…」
「音羽ちゃん、やるう!!」
「何それ!?」

美緒からの報告を受けて、音羽は愕然とする。

「だからあ、加地君に告白するともれなくこの台詞がついてくるんだって。学校中の噂だよ。」
「何で!?」
「私に聞かれても困るなあ!」

ニヤリと笑いながら美緒は言う。
音羽は頭を抱えたくなった。

「日柳さん!」

そこへ噂の主が現れた。

「おはよう。」

ニコニコと屈託のない笑顔で挨拶をしてくる。

「今日の髪型もとっても素敵だね。」

周りの目など気にせず、毎朝必ず一褒めをしてくるのだ。
開けっぴろげに行われるので、周りも必然的に注目してくる。
キラキラと輝くような加地の笑顔と言葉に、音羽も顔を赤くして俯く。

「あ…ありがとう。」

彼女が反応すると、

「おっ、今日は素直に礼を言ったぞ。」

なんて声が聞こえてきた。
加地はレベルの高い学校からの転校生だけあって、勉強もスポーツもかなりできる。
人当たりも良く、出来過ぎの感も否めない。
練習室のピアノに寄りかかり、今朝のことを思い出して音羽は深い溜息を吐いた。
そこへバタバタと駆けてくる足音と同時に、勢いよく扉が開く。

「火原先輩!?」
「えっ、あっ…ごめんなさい。使用中だったんだね。」

慌てた様子の火原は音羽がいることにビックリして出て行こうとした。
けれど、廊下から追いかけてくる様子の女子生徒の声にギクッとなると

「ご、ごめんっ。ちょっと隠れさせて!」
「えっ!?」

火原はバタンと扉を閉めるや否や、かくれんぼをするように脇に蹲った。

「こっちの方、行ったよねー。」
「えー、本当にこっち?」
「どこ行ったんだろ?火原先輩。」
「あれー?」
「もっと先かな…?奥ー?」

足音と声が遠ざかると、自然と詰めていた息が漏れる。

「はあ〜…助かったあ…」
「大丈夫ですか?火原先輩…」
「あっ、練習の邪魔しちゃってゴメンね。」
「いいえー。大丈夫ですよ。」

ニッコリ笑って言う音羽に、火原もつられて笑う。

「…CMの件で追いかけられているんですか?」
「うん…」
「ビックリしました。テレビに火原先輩がアップで映った時は。」
「それを言うなら、おれも日柳ちゃんが映った時はビックリしたよ〜。」
「あのCMの第2弾が先輩だったんですね。」

クスクス笑いながら言う音羽に、疲れ切った様子で火原は床に座り込む。

「うん、かなり評判がよかったみたいだよ。で、男バージョンも作ろうってことになったみたい。たまたま母さんの知り合いでね…」
「そうだったんですか。でもあのCM、かっこ良いですよね!」
「あっ、ありがとう…。でも、追いかけまわされるのは嫌だなぁ。日柳ちゃんはどうやって対処しているの?」
「私ですか?私は、追いかけまわされないで見られているだけですから…」
「えー、ずるいっ!」
「ずるいって…火原先輩…」

小さい子供のように思ったことを口にする火原に、音羽は肩の力が抜ける。

「私は女ですし…そういう対象にはならないんじゃないですか?先輩はアイドルみたいですね。」
「ホント、そういうのやめてほしいよ。こんなに騒がれるなんて思いもしなかった…」

ともすれば床に倒れこんでしまいそうな火原を見て、音羽はまたクスクス笑った。


2013.08.19. UP




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夢幻泡沫