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いつか一緒に

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「やっぱりかっこいいよね。」
「柚木先輩とか月森君もイイけど…私は彼が一番かな〜。」
「でもさあ、どうして日柳さんなのかしら?」
「綺麗だけどねー。」
「さすがに毎日ああ押されちゃ、落ちるんじゃない?」
「あれ?でも土浦君と付き合ってるって噂なかったっけ?」
「月森君とも仲いいしね〜。」

自身の噂を音羽は知らない。
しかし誰が来るのかは予想がつくので、彼女はざわめきに背中を向けた。

「…音羽、今日のお昼は一緒に食べられなさそうね。」

天羽は音羽の顔を覗き込むようにして、ニッと笑う。
気がつけば、いつの間にか彼女は『日柳さん』から『音羽』に呼び方を変えていた。
はあ…と困ったように息を吐くと、音羽は天羽と冬海を見た。

「日柳さん。よかった!ここにいたんだね。お昼、ご一緒してもいいかな?」

加地はお昼の入った袋を見せながら笑いかける。

「…ごめんなさい…お昼は天羽さん達と…」
「いいって、行っておいでよ。」

天羽は音羽の背中をぐっと押すと、加地の方に彼女を突き出した。

「天羽さん!?」
「後で取材させてね〜!!」

ニッコリ笑うと、天羽は冬海を連れて行ってしまった。



加地と音羽は屋上に移動する。
ベンチに座って食事を取るが、会話がない。
それでも嬉しそうに加地はニコニコしている。

「わあ、日柳さんのお弁当かわいいね。」
「…ありがとう。昨日の残りものだけど。」
「何だかごめんね。無理に誘っちゃって。」
「うぅん、私こそごめんなさい。あの…一緒に食べることが嫌ではないの。加地君から話してくれるのは、嬉しいし…。そうじゃなくて…」
「うん。」

加地は分かっていると言うように頷く。
音羽は箸を膝の上に置き、少し考えた後

「ただ…どうして私…なの?加地君は、私のこと知っていたの?それとも、昔の私を知っているの?加地君とは…2学期に初めて会った…よね?」

困ったように加地を見た。

「以前…きみがまだ『日高音羽』だった時に、リサイタルを聴いたんだ。中学生になるかならないかぐらいの時に…一目惚れだった、きみの音に…。ハープを愛おしげに見つめるきみに…」
「…え?」

真っ直ぐに彼自身の気持ちを伝えてくる加地の言葉に、音羽は頬を染める。

「それから何回もリサイタルを聴いたんだ。いつも優雅で華やかで…本当に『Der Prinzessin Musai liebt』の名の通りだった。でも、2年前からプツリときみを見なくなって。リサイタルだけじゃなくて、コンクールからも…。」
「それは…」
「理由は分からなかったし、別にいいんだ。きっと…名前が変わっていることと関係があるんでしょ?」
「あ…うん…」

俯きながら言いづらそうに答える音羽に、加地は困ったような笑顔を向ける。

「そんな顔をしてほしいわけじゃないんだ。それにさっきも言ったけど、理由を知りたいわけじゃない。でもきみの音を聴きたくて…。そんな時、たまたまCMできみを見たんだ。日柳さんのハープをもっと聴きたい。きみを…もっと知りたいって思ったんだ。」
「それだけで…わざわざ転校を…?」

音羽は加地の言葉に驚く。

「きみの音は僕の憧れであり、そんなきみのいる場所に僕も存在したかったんだ。僕にとってここに来る理由としては、十分すぎることだよ。」

加地は笑いながら続ける。

「それに両親がここの卒業生でね。すごいいい学校だって聞いていたから。」
「へえ…ご両親、卒業生なの?」
「うん。」
「何だか…昔の私を知っている人がすぐ隣にいるのが恥ずかしい。けど、そう言ってくれるのはすごく嬉しいな。」
「日柳さんの音は本当に僕の憧れなんだ!ハープも、ピアノも…。」

穏やかに自身の気持ちを話す加地に、照れながらも笑顔を向ける音羽。
屋上の入り口で、土浦はそんな2人を偶然にも見てしまった。


2013.08.23. UP




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夢幻泡沫