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いつか一緒に

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「コンクール?」
「ええ…優秀な生徒は積極的に大きなコンクールに参加させようと思います。優勝もしくは入賞すれば、学校のPRにもなりますからね。」
「ああ、そういうことね…」

金澤は肩を竦めながら息を吐く。

「学校経営は慈善活動ではありませんから、優秀な生徒を集めていくにはそれなりの実績をあげていかないと…。そこで金澤先生には、何人か生徒をリストアップしてもらいたいんです。」
「はあ…」

金澤は新しく理事になった吉羅に言われたことを思い出して、溜息を吐いた。
実力的には適任なのがいる。
但し本人達はコンクールを嫌っているし、避けている。

「実力的には適任なんだがなあ…。頭の痛いこった…」

金澤はふーと煙草を燻らせた。



そんな2人が理事室に呼び出される。
音羽と土浦に待っていたのは、考えもしない言葉だった。

「俺達2人がですか!?」
「ああ。理事会とPTAの面々を集めた総会があるんだが、そこで君達に一曲弾いてもらいたいんだ。」
「はあ…」

音羽と土浦は顔を見合わせる。

「幅広い教育の一環として、普通科の生徒にも豊かな教養を…という事をアピールしたいからね。」

説明を受けた2人は教室に戻る。

「音楽科の生徒じゃ、うまく弾けて当たり前ってところか…、確かにインパクトはあるよな、普通科の方が…。まあいいか、弾くくらいなら。」

上を見上げながら土浦が言う。

「そういや、人前で弾くの久しぶりだな。早速明日、曲考えようぜ。」
「うん。」
「何だよ。やけに楽しそうだな。」
「あ…うん。最近ね、蓮のお家によく行くんだ。」
「月森んちか!?」
「うん。夜ご飯を一緒に食べているんだけど、流れで蓮と合奏することもあって。」

音羽の言葉に、土浦は選抜合宿の光景を思い出した。

「…どうかした?」

急に黙り込んだ彼を、音羽は見上げるように覗き込む。

「あ…いや。じゃあ、また明日な。」

土浦は厳しい表情のまま彼女と別れて帰宅の途についた。



帰り道にある公園を歩いていると、月森が小さい女の子達に囲まれていた。
幼女達の姦しさに困っていたものの、無碍に追い払うことをもできずに母親達が来るのをじっと待っていた。

「意外だな。おやさしいことで。」

少しだけ呆れたように笑みを浮かべて、土浦は月森に近づいた。

「どういう心境の変化だよ。お前がこんなところで練習してるなんて。」
「…別に理由はない。」
「ふうん。」

海に面した柵に凭れかかりながら取り留めのない会話を交わす。

「…日柳がお前んちによく行くんだって?」
「ああ、それは…」
「お前と合奏するんだってな。」
「…たまにだけどな。」
「あいつ、すごく嬉しそうだったぜ?」

空を悠然と飛ぶカモメを見ながら、土浦はポツリと呟く。

「まあ…な。日柳って何だか目が離せないというか、放っておけないというか…」

バサバサっと急に近くに飛んできたカモメに、土浦は思わず目を閉じる。

「留学するんだ。」

同時に発せられた月森の言葉に、土浦は目を見開いたまま思考を停止させた。

「今年の終わりに。」

彼の方を向いて冷静な表情で告げる月森に、土浦はすぐに言葉を返せない。

「留学…って、俺に…言うことかよ。わざわざ…」
「そうだな…」

月森は海を見たまま黙り込んでしまった。



「これ…月森君だよね?」
「あ、ホントだ。」
「へえ〜、雑誌に載っちゃったりするんだ。」

クラスの女子生徒の会話が耳に入ってくる。

「すごいね!」
「有名なの?もしかして…」
「他の学校のヴァイオリンやってる友達は、月森君のこと知ってたよ。」
「そうなの!?」

頬杖をついた状態の土浦は遠目でその雑誌を眺めた。

「あっ…ねえ、これ…」
「浜井美沙のコンサート?」
「この人って月森君のお母さんだよね?」
「そうそう、学内コンクールにも来てたもんね。」
「でもさ、ここに書いてあるゲストって…」
「日柳音羽…って、えっ!?2組の!?」
「嘘っ!?日柳さんってホントに有名人だったの?」

2組の子はいいねえ〜、何て言う声を土浦は苦々しく思い出した。


2013.08.30. UP




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夢幻泡沫