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いつか一緒に

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「…君?土浦君…土浦君ってば!」

唐突に呼ばれる自身の名前に、はっと現状を思い出す。

「あっ…悪い。日柳、どこからだっけ?」

慌てて楽譜に目を戻す土浦を、音羽は心配そうに隣から見上げる。

「どうしたの?珍しいよね、土浦君がぼーっとしているの。」
「悪い…」
「いや、そんなに謝らなくても…」

そう言ったきり黙りこんでしまう音羽に、今度は土浦が怪訝な顔をする。

「どうした?」
「うん…コンクールが終わって、こうやって一緒に弾く機会…なかなかないでしょ?何だかちょっと寂しかったから…嬉しいかなって。」

照れたように音羽は前髪を触る。

「…いつだって一緒に弾いてやるよ。」

土浦は少し困ったように眉を下げながら笑った。
彼の言葉に驚いた顔をした音羽だったが、すぐに心から嬉しそうにニッコリと笑う。

「ありがとう、土浦君。それって…すごい贅沢だなあ。」
「…そういやさあ、月森んちに行くのって浜井美沙との練習のためか?」
「あー…知っていたの?」
「ああ、クラスの連中が騒いでた。」
「そっかぁ…」

ばつが悪そうに音羽は苦笑する。

「もちろんそれもあるんだけど…蓮との合奏も楽しみなんだ。」
「…日柳ってさ、何だかんだ言って好きだよな。月森のヴァイオリン。」
「え!?」

ピアノに肘をついて音羽を見る土浦を、彼女は真っ赤な顔で見返す。

「…好きって言うか、憧れって言うか…音や姿勢の目標…なのかな。音楽をやっていくからには、ずっと追いかけていたいなって…」
「それは…ただの憧れなのか?」
「え?」

音羽の返答に、土浦はガタンと椅子を揺らして立ち上がる。

「追いかけるって言ったって、アイツは!」
「蓮…は?」

そこまで言って土浦はギュッと口を噤む。

「…いや。」
「何、土浦君。蓮がどうかしたの?気になるじゃない。」
「あいつは、いつも一歩も二歩も先にいるんだ…。負けたくない。絶対に…譲れない。」

土浦は真摯な瞳を音羽に向けた。



あれは…彼のあの態度はどういうことだろう?
土浦のあの瞳に、音羽は不覚にも捕われてしまった。
『負けたくない』と彼は言っていたが、音楽に関して土浦が月森に負けているとは思えない。
十分に渡り合っていると思う。
では、何に関して『負けたくない』なのか…

「分からないよ、もう…」

本番前なのに違うことで悩んでいる自身を、音羽は信じられなかった。
ステージ袖で項垂れていると、

「どうした、日柳?」

土浦がポンと頭に手をのせてくる。

「…」

あなたのせいでしょと思わず睨むが、彼は分からないのか首を傾げて黙ったまま音羽を見た。

「うぅん、何でもない。」

軽く溜息を吐きながら、いつもと変わらない土浦の態度に安心して笑顔を向ける。

「よろしくね。連弾なんて初めてに近いから、頼りにしています。」
「おう。」
「じゃあ、手…ギュッと握って?」

小首を傾げながら言う音羽に、土浦は顔を赤くして思いっきりそむける。

「…土浦君?」
「そりゃ無しだろ…」

怒ったように呟きながらも、音羽の手を取る。

「大丈夫だ。」
「…うん。」

ステージに上がると、学校関係者の多さに音羽は驚いた。
しかし土浦が隣にいることを、とても心強く感じた。
呼吸を合わせ、1台のピアノを奏でる。
土浦の伴奏に合わせて音羽が軽やかにメロディを乗せてくる。
曲調が変わるごとに互いの呼吸を確かめ合いながら揃える。
たまに目配せをする時の土浦に瞳はひどく優しいものだった。
練習の時以上に艶っぽく弾く彼に、音羽は顔が熱くなるのを感じた。



「金やん!」

堅苦しいことは終わりとばかりにスーツを着崩した金澤は、後ろを振り返る。
そこには、走って追いかけてきたであろう土浦がいた。

「おー、土浦。なかなかよかったじゃないか、演奏。悪かったな、面倒なこと頼んで。」
「いえ…」
「どうした?」
「俺…コンクールに出るよ。」

そうはっきりと言い切った土浦の表情は、何かをふっ切ったように爽やかだった。


2013.09.02. UP




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夢幻泡沫