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いつか一緒に
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「号外!号外だよ!!」
天羽が大声を出しながら掲示板に新聞を張り出す。
ハイ、これ!と新聞を通りがかりの生徒に次々と渡していくのを、音羽も一部貰う。
「何と!この間開催されたコンクールで、月森君が審査員全員一致での優勝!激戦のヴァイオリン部門で実力者揃いの大学生を見事おさえ、その堂々たる演奏は圧巻!!」
音羽はニッコリと微笑む。
そしてはっと気がついたように、走り出した。
「金澤先生!報告するの、忘れていました!」
ノックもせずにガラッとドアを開けると、そこには金澤と吉羅がいた。
「すっ、すみません。失礼しました!」
「構わないよ。で、何の報告かな?」
吉羅の言葉に、音羽は確認を取るように金澤を見る。
「あー、構わん。こいつは理事長だからな。どうせ耳に入る。」
「理事です。」
「ハイハイ、次期理事長。で、日柳。何の報告だ?」
「あっ、はい。前に話しましたが…今度、浜井美沙のコンサートにゲストとして出ます。」
「ああ、それな。楽しみにしているぞ。」
「…え?」
「ご本人からチケットを直接貰った。」
「はい!?」
「しかも、学内コンクールのメンバー分だ。」
「嘘っ!?」
「ほれ。」
金澤はチケットの束を机から取り出して見せる。
それを見た途端、音羽は手で顔を覆った。
「…やだ、蓮ママったら。呼ばなくていいのに…」
「そんなこと言いなさんなって。面倒くさいが、後で配っておくから。」
「配らなくていいです…。それと、もう一つ報告が。」
「何だ?」
「その後に、コンクールに出ます。」
「…きみは本格的に音楽をやっているのかい?普通科の制服を着ているが。」
音羽の言葉に、吉羅は驚いた様な顔で彼女を見る。
「あー…吉羅。『Der Prinzessin Musai liebt』、聞いたことないか?」
「『Der Prinzessin Musai liebt』?そう言えばきみは、学内コンクールでハープを弾いていたな。…まさか、何年か前までヨーロッパ中心に話題になっていた少女か?」
「ご名答。日柳はその少女だ。」
「ではなぜ普通科に…?」
訝しげに音羽を見る吉羅の肩を、金澤は宥めるように叩く。
「まあまあ、それは置いといて。日柳、何のコンクールに出るんだ?」
「国際ハープコンクールです。」
「…それはまた、でかく出たもんだな。ハープコンクールの中の最難関じゃないか。」
「はあ…まあ…それの一般部門に出ます。」
「おっ、ジュニアは卒業か?」
「ええ。で、出席日数のことなんですが…」
「分かった。いいだろう。」
「え?」
吉羅の言葉に、音羽は首を傾げる。
「そのコンクールで入賞以上したら特別に認めよう。それでいいな?」
「あっ、ありがとうございます。」
音羽は嬉しそうにお礼を言うと、部屋を出て行った。
「おい、吉羅。」
「…過去の賞賛がどれだけ通じるか分かりませんが、面白いじゃありませんか。」
「お前さんもあいつの音を聴いただろう?だが、一般部門となると日柳は最年少だからなあ…」
「普通科の生徒が入賞以上したらいいアピールになります。彼女も出席日数を心配する必要はありませんし、いいじゃないですか。」
「だからってそんなにプレッシャーをかけなくても…」
呆れたようにコーヒーを飲む金澤を尻目に、吉羅は窓から見える音羽の姿を目で追った。
「遅くなっちゃったなぁ…」
すっかり日の暮れた空を見上げながら、音羽は呟く。
「早く帰って練習しなきゃ。」
「音羽。今、帰りか?」
「あ、蓮。蓮も今?」
「ああ。」
後ろから歩いてくる月森を待って、音羽は並んで歩き出す。
「レッスンだったの?」
「そうだ。」
「あの、噂の早乙女先生?」
「…どんな噂だ?」
「まあ、色々…」
演奏家やら海外のコンマスやら、有名な人らしいのは音羽も聞いていた。
「昔、教わっていたことがあるんだ。また師事できるなんて思ってもみなかったが…」
「よかったね、蓮。」
「今日は家に寄るのか?」
「うぅん、蓮ママは用事があるんだって。だから今日は自分の家に帰るわ。」
「そうか、なら送っていく。」
「…え?いいよ、いいよ。」
「いや…もう暗いし。」
「だったら蓮も早く帰らなくちゃ。」
大慌てで断る音羽に、少しだけ頬を染めて月森はきっぱりと言う。
「いや、送らせてほしい。…俺はこういったことはよく分からないが、暗い中をひとり帰らせるのは…」
「…ありがとう。」
月森の気遣いが嬉しい。
音羽は笑顔でお礼を言った。
2013.09.09. UP
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夢幻泡沫