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いつか一緒に
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「あー、じゃあ蓮。そこのコンビニに寄ってもいい?」
「構わないが…?」
「ちょっと待っていてね。」
近くにあるコンビニに入った音羽は、両手に白い小さな袋も持って出てきた。
「ハイ。」
「…俺は別に…」
「あっ、もしかして嫌いだった?肉まん。」
「あ…いや。ただ…こうして外で食べたことがない。」
「ええっ、本当に!?買い食いとかしたことないの!?」
「ないな。」
「コンビニ肉まん、初めて!?」
「ああ。」
「勿体ないなあ。こんなに美味しいのに。」
目をこれでもかと言うくらい開いて驚いていた音羽だったが、ホカホカの肉まんを口にすると幸せそうにニコニコ笑う。
それを見て月森も口に含んでみる。
「…うまいな。」
「でしょー。」
ニッコリ笑って音羽は歩き出した。
「それにしても…大分寒くなってきたね。これから体育祭に文化祭か〜。」
「その前にお母さんとのコンサートがあるだろ?」
「まあね。蓮は来るの?」
「ああ、楽しみにしている。」
「蓮ママが、学内コンクールのメンバー分のチケットを金澤先生に渡していたよ…」
「あの人はそういう人だ。」
「あはは…」
乾いた笑いしか返せない音羽に、月森は苦笑する。
「…で、さっきの話。音楽科は希望者だけの参加なんだっけ?」
「ああ。火原先輩は毎年、絶対参加らしい。」
「ふふっ、火原先輩らしいね。でも…そう考えると、2学期もあっという間だね。それで、あっという間に3年生かあ…。早いね。」
音羽は空を見上げて誰に言うともなしにポツリと言う。
「そう言えば、音楽科ってクラスそのまま持ち上がりだっけ?」
「音羽。」
「え?」
音羽が横を向くと、何とも形容しがたい表情の月森がじっと彼女を見ていた。
「実は…」
彼は意を決したように口を開いたが、直ぐに黙ってしまう。
「いや…。すまない、何でもないんだ。…行こう。」
自身も戸惑ったように首を振った後、月森は歩を進めた。
それから2人は音羽の家に着くまで黙ったままだった。
「着いたな。」
「遠回りさせてごめんね。」
「いや…大したことはない。それじゃあ。」
「あ、うん。また明日。蓮パパ達によろしく言っといて。」
ああと背を向けて歩き出す月森に、音羽はお礼を言っていなかったことを思い出す。
「蓮、ありがとう。気をつけて帰ってねー!」
嬉しかったという気持ちを込めて大きな声で手を振る。
その声に振り返った月森の顔は耳まで赤くなっていた。
「月森君?」
浜井と打ち合わせをするために、音羽が月森と一緒に下校をしていると後ろから声を掛けられた。
2人で同時に振り返る。
「やっぱり、月森君だ。」
「宮路…さん?どうしてここに?」
「月森君に会いに!…と言いたいところだけど。星奏学院に、昔お世話になった先生がいてね。用事があって来たの。でも、月森君に会えないかなって思っていたのも本当よ。」
元気だった?と月森の肩に触れながら話す宮路を、音羽はぼんやりと思いだしながら見ている。
宮路さん…確か選抜合宿で群を抜いて上手かった人だ。
「もしかして、これから帰るところ?私もご一緒していいかしら?この間、月森君が言ってた話もしたかったし。ほら…留…」
明るく話を進める宮路の言葉を、月森はハッとしたように強い調子で止める。
「音羽。」
「えっ?」
「…すまないが、先に帰ってくれないか?」
「あ…でも…」
「きみには関係ない話があるんだ…」
困ったような怒ったような表情で視線を逸らす月森に、音羽は怪訝に思いながらも了承する。
「…じゃあ、お先に。」
ペコリと宮路に会釈をすると、音羽は月森の家に向かった。
「私…何かまずいこと言った?」
「…いや。」
音羽を見たまま黙り込む月森に、宮路はしまったという様子で聞く。
「月森。お前さあ…」
そこに、一部始終を見ていた土浦が後ろから呆れた顔をして声をかけてきた。
「土浦…何か用か?」
「あら?あなた確かピアノの…」
「あー、悪いんだけど。ちょっと月森、かりていいか?」
「分かったわ。じゃあ、校門の前にいるわね。」
「悪いな。」
「いいえー。」
土浦の唐突な申し出を受けて、宮路は2人に場を譲る。
「あー…別に盗み聞きしてたわけじゃないけど…」
どう切り出そうか、頭に手を当てながら土浦は月森に向き合う。
「お前…日柳に言ってないのか?留学すること。」
「…ああ。」
「どうして?」
「…別にまだ言う必要はないと。」
少し戸惑ったように言う月森に、土浦は呆れかえって腕を組む。
「…お前さあ、馬鹿だろ。つーか…どうして隠す必要があるんだよ、月森。しかも何だよ、さっきのあの態度!大体…お前さあ、どうして日柳には言えないかって考えたことないのか?」
「…言え…ない?」
ハッとする月森を、土浦は忌々しそうに睨みつける。
「〜ったく…別にお前がどういうつもりかなんて、ハッキリ言って俺にはどうでもいいことなんだけど。」
「何が…言いたい?」
「イライラするんだよ、お前のその態度。」
視線を一層鋭くして、土浦は月森を正面から見た。
「俺は…日柳が好きだ。」
「…」
沈黙が2人の間を流れる。
月森は土浦から逃げるように視線を外した。
「…馬鹿馬鹿しい。何を言っているんだ、きみは…」
その言葉に、土浦の唇がきつく結ばれた。
「最悪だな、お前。」
湧き上がってくる怒りを抑えて、土浦は一言だけ残してその場を去った。
2013.09.16. UP
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夢幻泡沫