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いつか一緒に
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「すっごく素敵な演奏だったぁ!」
キラキラと目を輝かせながら音羽は声を弾ませる。
「蓮パパとお友達なんだよね?」
「ああ。ピアニストの人も古くからの付き合いらしい。」
「ピアノとヴァイオリン、息がピッタリ…って感じだったね。」
「昔から長いこと一緒にやっているらしいから。」
海沿いを歩きながら、今なお頬を紅潮させる音羽は隣を歩く月森を見上げる。
「へえ〜、そういうのって何か…素敵だね。誘ってくれてありがとう、蓮。」
「いや…聴くことも勉強になるからな。」
「うん!」
そう言いながら歩く音羽は、微妙に足を引きずっていた。
「足…どうかしたのか?」
「足?」
「さっきから歩きにくそうだ…」
「ああ、これ?久しぶりに履いた靴だったから、靴ずれで…。でも、大丈夫だよ。」
ひょこひょこ歩く彼女の足を見ると、確かに赤くなっている部分がある。
「まったく…しょうがないな、きみは。そこで待っていろ。」
「えっ、蓮?」
すぐそばにあるベンチを顎で指すと、月森はスタスタと来た道を戻って行ってしまった。
暫くして、軽く息を切らして戻ってくる彼の手にはビニール袋が下げられていた。
「すまない、遅くなった。」
「ううん、どうしたの?どこに…」
音羽の言葉には答えず、月森は座っている彼女のそばに跪く。
そのままパンプスを脱がすと、自身の足の上に置く。
さっき買ってきたであろう絆創膏を用意すると、靴ずれしたところに貼っていった。
「まったく、音羽は。これじゃあ歩けないだろう?」
「じ…自分でやるからいいよ、蓮!」
されるがままになっていた音羽は、はっと気付いて慌てて足を引こうとする。
通りがかる人も2人を見るので、余計に恥ずかしい。
そんな彼女にお構いなしに足を持ち上げると、月森はまた絆創膏を貼った。
「…音羽は続けていくのか?音楽を…」
「え?もちろんだけど…どうして…?」
パンプスを履かせながら呟くように聞いてくる月森に、音羽は探るように視線を送る。
「いや…ただ、きみの音は不思議だな…と思って。」
立ち上がって空を見上げながら月森は言う。
「技巧も解釈も、俺がどうこう言う問題じゃない。世間だって認めている。けれど、音羽はそれ以上にハッとするような音を出す…。そのせいなのか分からないが、気に…なるんだ。きみの音がこれからどう変わっていくのか、知りたいと思うんだ。だからなのか?続けてほしい…と思うのは。続けていれば、いつかどこかで…」
いつの間にか音羽を見ながら言う月森の言葉に、彼女は引っかかりを覚えた。
「いつか…?いつかってどういう事?」
「ああ…留学するんだ。」
「留学…?」
「ああ。」
「すごい…!留学するなんてすごいね、蓮!どこに行くの?」
音羽は満面の笑みで月森を見返す。
「ヨーロッパだ。」
「いつ?春休み?来年の夏休みとか?」
「短期じゃない。おそらく、しばらくは帰ってこないことになると思う。」
音楽の高みを目指している者なら、誰でも考える道。
彼女自身もかつては海外に行っていたし、遠くない未来にも行くかもしれないと考えている。
「そろそろ行こう…遅くなる。」
言葉を失くす音羽を気遣わしげに見ながらも、月森は先に歩き出す。
「…ねえ、蓮?私も…動き出すよ。蓮ママとのコンサートから段々と。」
音羽は少しだけ涙を湛えて月森を真っ直ぐ見る。
「ああ、もうすぐだな。」
「その後に、コンクールにも出るの。」
「そうか、期待している。」
「私…頑張るから。続けていくから…蓮も頑張ってね。ずっと応援しているわ。向こうでの活躍、楽しみにしている。蓮の留学の話、自分のことみたいに嬉しいのに…直ぐに言えなくてごめんなさい。留学おめでとう、蓮。」
「…ありがとう、音羽…。」
音羽の言葉に月森は泣きそうな笑顔を彼女に向けた。
2013.09.27. UP
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夢幻泡沫