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いつか一緒に
48
体育祭も無事に終わり、今度は文化祭へ向けてみんなが浮足立っている。
「それじゃあ、突撃ミニコンサートで決まりかな?」
火原の決定づける言葉に、誰も反応しない。
ミーティングしている部屋は、しんと静まり返ってしまった。
「え…あれ?ダメ…かな?」
「名前がなあ…いわゆるゲリラライブ的なものですよね?」
「コンサートの宣伝も兼ねてだったら、許可が下りるんじゃないかな?」
土浦の乗りきれない態度に、柚木がフォローを入れるように言葉を足す。
「そうそう、クラシック以外の曲もやりたいし!」
「クラシック以外…楽しそうですね…」
「ドキドキしますね。」
火原の楽しそうな声色に、1年の2人も頬を紅潮させる。
「うちの生徒以外にも、いいアピールになりそうですね。」
「だよなぁ、日柳。」
「あ…うん。」
「じゃあさ!そっちの曲も決めないとね。」
「そんなに長くなくて派手な曲なんかいいんじゃないか?」
「いいね!」
「それじゃあ、とりあえず金澤先生に報告しなきゃいけないね。」
話が纏ったところで、解散となった。
忘れ物を取りに戻った土浦は、偶然月森と出くわしてしまった。
「お前も帰りなのか?」
「ああ…」
それきり会話が続かない。
そういやこいつと2人だけって、あれ以来…か。
土浦は思い出してから眉を顰める。
『日柳のことが好きだ』と月森に面と向かって宣言したことは言いすぎだったと思うけど、こいつがあまりにも…
頭の中でもんもんと考え込む土浦に、月森が唐突に声をかけた。
「…なあ、土浦。音羽のどこが好きなんだ?」
「…はっ!?」
余りの事に、土浦の顔から色が消える。
「いや…突然すまない。気になったので、つい…」
「お前が聞くのか…?…ソレ。」
「だからすまないと言っているだろう。」
こういう奴だよな…と怒りにも似た気持ちを、土浦は息を吐くことで押さえる。
「…あいつ、まっすぐだろう?一途って言うかバカ正直と言うか、いざって時の度胸もあるしまっすぐ故の強さって言うのか…」
土浦は真剣な表情で音羽のことを思い出しながら言葉を紡ぐ。
「こっちが手をかしても、結局いつも自分が助けられてる感じがするんだよな…」
月森もまた、いつの間にか音羽を思い出しているような瞳をしていた。
「…って、どうしてお前にこんなこと話さなきゃなんねーんだよ。」
恥ずかしさを払拭するように、くるっと月森の方を見て土浦は話題を変える。
「そんなことより、月森。お前さあ、留学っていつ発つんだよ?2学期いっぱいってことは、終業式のあとか?」
「ああ…実は…」
不意に寂しそうな目をして言う月森に、土浦は何も言えずに見返すだけだった。
音羽はアンサンブルの曲を練習するために屋上にいた。
とは言うものの、土浦の言葉が気になって練習に身が入らない。
『お前に話したいことがあるんだ』…コンクールが終わってからって…
それってまるで…
そこまで考えて、音羽は自身の顔に熱が帯びてくるのを感じた。
「あ、やっぱり!いたいた、日柳さん!」
「加地君?…どうしたの?」
「うん、実は丁度この校舎の下にいたから音が聴こえて。」
「それでわざわざ?」
「うん。さっきまでクラス劇の練習だったからクタクタで。日柳さんの演奏で癒されようかと思って。」
「あ…そっか、お疲れ様。ロミオだもんね。」
「本当だったら日柳さんとやりたかったんだけどね。」
加地は片膝をたてて、音羽に手を差し出してきた。
「ちょっ…加地君!」
「でも忙しいもんね。日柳さん。」
「ごめんね。準備の方にも、入ったり入らなかったりで…」
「いいよ、いいよ。コンサートで演奏する曲の練習にも入っているんでしょ?曲は?何を弾くの?」
「…内緒。」
「え〜、気になるなあ。っと、それもハープなの?」
加地は音羽が持っている楽器を見た。
「あ、うん。ミニハープとかラップハープとかいろいろな呼び方があるんだけど…。音域は狭いけど、立ちながら弾いたり、持ち運べたりで便利なんだよ。」
「へえ〜。」
「弾いてみる?」
音羽は加地にミニハープを渡す。
「赤がC弦で青がF弦だから、それを目安にして…」
加地は戸惑いながらも、弾いてみる。
「わっ!音が出た。」
「ふふっ。ハープは弾けば音は出るんだよ?ピアノと一緒。」
「ふ〜ん…」
音羽はふと思いついたように加地に聞く。
「…加地君って音楽に詳しい…というか、好き…だよね?CとかFとか言っても分かっているし。何かやっていたの?」
「えっと…やっていたって言うか…」
彼女の疑問に珍しく加地が驚く。
「…今もやっているの?」
「え?あ…えっと、今はヴィオラを…」
「ヴィオラ!?すごいね!」
困ったように手を振りながら、加地は音羽の言葉を否定する。
「すごくないよ!全然うまくないし、趣味でやってるようなものだから。だから…他の人には内緒にしてほしいんだ。人に聴かせられるようなものじゃないから…」
寂しそうに笑い、加地は音羽を見た。
2013.10.17. UP
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夢幻泡沫